第4話


1.

  何もかもが落ちれば良い。クソな上司、薄給、俺を取り巻く全ての環境。ネクタイという名の文明の奴隷の縄を締める。これを締める日本人は全て奴隷、働けば自由になれる?そうだろうな、死にゃ皆仏だもんな。

 「煽ってんのか?てめーよお」

 「すいません…」

 「し・りょ・お」

 頭を何度も書類の束で殴られた。

 これをリズミカルに行う。頭を下げれば下がるほど、テンポは速まって叩く勢いも強くなる。

 典型的なブラック企業。絵を描いた様な。ラノベなんかの流行りのど真ん中を走る程の。

 「直ぐ出しますんで」

 「四次元ポケットか。馬鹿が」

 最後の一押し、これが俺をこの世と決別させた。

ーーー何もかも堕ちちまえよ。

 深夜二時。いつもの様に終電も逃した。ネオン煌くコンクリジャングルに閉鎖された俺は、勝手にカラクリのバレリーナと思いながら歩いていた。

 「このクソな人生に祝福を」

赤信号の待ち時間、交通量もほぼ無い。早くトラックでも来ねえかなぁ、ひたすらにあのを待っていた。

 左折のウィンカーを灯して2トントラックが進入してきた。

 俺はあのヘッドライトの明かりを見た瞬間にビビッときちゃった。

 「転生…」

 鞄なんか投げ捨てた。死ぬのに金は持っとけねえ。が、この世の糞さももってねえ。

 ついに来ちゃった……チーレム、ハーレム、ゴーレム…何でもいい、この時ほど興奮したことは無い。

 大体40キロ制限の道路ならプラス十くらいだろう。頭から突っ込めば丁度死ねる。

 黄色になった。赤に変わる前に突っ切りたいと思ったんだろう。スピードが上がった。

 「おっしゃあああああ‼」

 俺はヘッドライトの中へ駆け寄った。クラクションのエコーが響き渡りながら、真っ白に一面が呑まれたと思うと、鈍く何かが当たった。それが最期だった。




×××

 「おお、またまたきてしまったのう」

―――誰だあんたは。

 「儂か?儂は神じゃよ」

―――神?

 「 威雅煌フラムリンガーちゅう神の種族じゃ。まあそう堅い話はせんでもよかろう。お前は死んだ」

―――だろうな、あんな糞みてえな世界此方からお別れだ。それで?あんた神なんだろう。なんかれよ。

 「ほっほっほっほ、まあそう焦らんでもよいじゃろう。この世界にはお前が思うよりも多く転生者が居る。くれぐれも互いにぶつかり合うなよ」

―――俺の他にもいるのかよ。ちッ、うぜえー。

 「ぶつからねば良いだけじゃ。お待ちかねの天倵スキルを呉れてやろう。何が欲しい?」

―――俺は無双したい…誰にも邪魔されず、全てを落してやりたい。

 「それならばこれじゃ」

 瞬間、俺の体は静電気に触れた様に全身がしびれた。それで終わり。

―――あっ?なんだ今の。

 「これでお前はカンストした天倵を得た。お前の天倵スキルは、“破壊ルイナー”。神の一切秩序を壊す超強力な力。あんまり振り回してくれるな」

―――破壊ルイナー……。

 「さあ行け、好きに生きろ」

 そう爺の神様は俺に云って、俺をこの世界に堕とした。


 落ちてゆく。雲を突き抜けて体が風に打ち付けられながら、下に広がる森のじゅうたんに体が肉薄していくのを、うっすらと瞼をあけて感じた。

 「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 「此れは流石に…聴いて無ェええええええええええええええええええええええええ‼」



2.

暫く気絶してたみたいだ。

 「うっ…」

 と、重い瞳を懸命に左右上下に動かして視てみる。

 すげえ綺麗な青空。それと、鳥の囀り。

 「勇者様…?」

 すげえ可愛い声が俺に語り掛けた。なんだ?エルフ?ハイエルフ?このまま嫁第一号確定~。

 「んあ?誰だお前」

 はっきり見えるようになると、覗き込んできた女の姿がはっきり分かった。

 褐色の肌、ダークエルフか。よくゴブリンに…の奴な。

 声の割には合わない容姿の幼さ。ロリ枠か。ま、いっか。丁度いいや。

 「私はバビロンの特使。これよりストラーヴァ帝国に参ります」

 「名前を云えよ。礼儀がなってねえな」

 俺が礼儀ってもんを教えてやるよ。伊達に30年間ブラック企業の押し売り訪問してねんだ。

 人間様のビジネスマナーちゃんと憶えてけよな。

 「大変申し訳ございません。私はヘレーナ。我が陛下、テラ様の腹心で御座います。これより和睦交渉の為に参るのです」

 「俺はついさっき神の爺にとっつかまってた。フラムリンガー?とかいってた」

 「‼」

 女は侍従と共に目を丸くしていた。

 「となると…転生者様ですか‼」

 「ああ、そーみてえだな」

 いきなり傅いてきた。うわあ~たまんねえなこれ。今までツラ下げる事はあっても、下げられること無かったからな。

 「ようこそいらっしゃいました。神の子」

 「うおおい…此れだよコレコレ…ッ」

 「異世界転生来たあああああああああああああああああ…ッ」

 俺の第二の人生、始まった。

 

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