第34話、魔王の目的は簡単だった。
『魔王』。
クラウスはまさかその言葉が出てくるとは思わなかったので、驚いた顔をしてカルーナに視線を向けてしまっていた。対する彼女はその視線が分かっているかのように、いつも以上にヒヒっと笑う。
「王国では『魔王』の話は出なかったのかい?」
「……『聖女』を召喚した理由は、『魔王』だったと、思う……だが、俺は――」
「魔王はおるのじゃよ、若いの……残酷に、ゆっくりとせかいを染めていっておる」
「……」
「トワイライトの聖女は、そのために召喚されたようなモノなのかもしれんが、その聖女も欲に塗れておったようじゃの」
「……周りは既に、そのような事を言う奴らはいない」
聖女は自分で男のハーレムを作り、そしてその国から出ない。
本来の目的すら、聖女の『魅了』により忘れ去られてしまっているあの国には、未来がないのかもしれないと感じるほど。
追い詰められたかのような顔をしているクラウスに対し、カルーナはヒヒっと再度笑いながら話を続ける。
「最近、きな臭い香りもしておるしのぉ……」
「きな臭い、香り?」
「わしの得意分野は、『占い』と言う事になっておる。だから、色々と占う事もある。勿論、『魔王』の事もな」
笑いながらそのように発言していたのだが、口を止めたカルーナはクラウスに目を向けた。
「危ないかもしれぬぞ、お主の王国が」
「……は?」
突然自分の国が危ないと言われたクラウスは目を見開き、驚いた顔をしながらカルーナに視線を向ける。
そして、そんな二人のやり取りを聞き逃さない人物がそこに居た。
カルーナの発言により、シリウスは耳で聞いていたらしい。振り向きながらカルーナに目を向ける。
「盗み聞きかい、シリウス?」
「……あの男の事を話していたんだろう?聞き耳立てるのは当たり前だろうが」
「あんたは本当に『奴』の事、死ぬほど嫌いだからね」
「……」
「……まぁ、わしも嫌いさね、『奴』は」
何処か悲しそうな顔をしているカルーナと、カルーナの言葉に図星を感じたのか、嫌そうな顔をしながら視線をそらしている。
「神父様?」
ルーナはどうやらクラウスとカルーナのやり取りを聞いていなかったのか、首をかしげてシリウスに問いかけるが、シリウスは話をしようとしない。
ルーナは今度はカルーナとクラウスに目を向けると、クラウスの様子がおかしい事に気づいた。無表情だった顔が崩れているかのように、挙動不審のようにも見えた。
流石にまずいのではないかと感じたルーナは立ち上がり、急いでクラウスの傍に行く。
「クラウス様どうしたんですか!もしかして、何かの病気じゃ……」
「ち、違う、ルーナ……大丈夫だ」
「けど、すごい汗だし、もしかして何か変なモノ食べたとか……」
「大丈夫じゃよ、ルーナ」
そんな二人のやり取りを見ていたカルーナが間に入り、クラウス、そしてルーナの二人を交互に見た後、笑みを零しながらルーナの頭を撫でる。
「わしが少し変な事を言ってしまったから、動揺しただけじゃ。気にせんでええ」
「……本当に?病気とかじゃなくて?」
「ああ、大丈夫」
「……それなら、良いんだけど」
それでも心配なのか、何回かクラウスに目線配りをした後、静かに息を吐きながらカルーナに目を向ける。
対し、カルーナはルーナとクラウスの二人に目を向けながら、先ほどの話の続きをを口に出す。
「ルーナ、以前お前に魔王の話をしたな?」
「あ、う、うん……」
『……『勇者召喚』と言うのは、さっきも言った通り、別世界の人間をこちらの世界に召喚するために、今は禁忌とされる魔術の一種だ。ある国では、何人もの魔術師を生贄にして召喚儀式を行ったと言う例もある……わしが知る限りのある小国では、一人の少年が召喚され、『勇者』と崇められた』
『しかし、だれしもその召喚された存在が、『聖人』とは限らん』
嘗てある小国で、ある目的の為に、『勇者』が召喚された。
召喚された存在は、小さな少年だった。
以前話してくれた言葉を、ルーナは今でも覚えている。覚えていきたい話だったからでもある。
勇者は過ちを犯した。
『その『勇者』は小国の王、妃、王国のやつらと民を全て殺し、目的である人物を自分のモノにしようとしたのじゃよ』
「……『勇者』は目的の為に、『魔王』になったって話、だよね?」
「そう。そしてその『魔王』がお前の近くに訪れようとしている」
「どうして、ボ……私、なの?」
「……」
「……」
ルーナの問いかけに、カルーナは一回シリウスに視線を向けると、シリウスは首を横に振る。
何か、話していけない事なのだろうかと思いながら、ルーナは二人の簡単なやり取りに視線を向けると、静かに息を吐きながらルーナを見る。
「あそこの保護者がまだ話すなって言うお達しだから理由は言えん。だが、目的は『お前』でもある」
「……」
ルーナはただの孤児のはずだ。
それなのに、どうしてその人物が近づいてくるのだろうかと言う疑問が彼女の頭の中に過る。
鋭い視線をシリウスに向けるのだが、シリウスは気にしないかのように視線をそらしていた。
一方、納得出来ないクラウスがカルーナに問いかける。
「じゃあ、その『勇者』は何故トワイライトに向かっているんだ?」
「はっきりした事はわからんが……一つ言える事はある。奴は『魔王』だ」
「『魔王』って呼ばれているから……?」
「――この世界を滅ぼしたいのは、『魔王』の目的なのではないか?」
カルーナが言っている意味に気づいたクラウスは目を見開き、頭を抱える。
つまり、『魔王』には理由がない。
滅ぼす標的の一つとして、そこがトワイライト王国だという事をカルーナは告げたかったのであろう。
意味を理解したクラウスは歯を噛みしめる事しかできなかった。
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