第21話、何故、『勇者』が狙う?
倒れているルフトの事を軽くつつくようにしながら居るルーナに対し、カルーナは静かにため息を吐きながら呟いた。
「しかし、どうやら厄介な事に巻き込まれているようじゃの……久々に『勇者召喚』なんて聞いたわい」
「ババア、知ってるの?」
「この男が眠ったから本性表したか女狐が」
「猫被っていた方が面白かっただけさ……この人、初めてボクの顔を見た時何て言ったと思う?『天使』だって」
「天使じゃと……悪魔の間違いじゃろうて」
一体目の前の少女が何故『天使』に見えるのか理解が出来ないと言うカルーナの顔に、顔を膨らますようにしながら失礼な言葉を言われた事が分かったルーナはふくれっ面を見せながら威嚇する。
が、自分でも『天使』と言う言葉があっていないのはわかっているので、否定はしなかった。
自分は間違いなく『天使』ではなく、カルーナが言っていた『悪魔』なのだろうと理解しているつもりである。そのような性格だと理解しているのだが、外形と猫かぶりで騙されているのが目の前で倒れている男なのだ。
「まぁ、毒は吐いたけどね……この人、ボクの中身までは知ろうとしなかったから。クラウス様が見限るぐらいだもの」
「クラウス様っつーのは、そのきょうらんのなんとかってやつか?」
「うん」
「……本当に、今回は厄介な事に巻き込まれているのかもしれんぞ、ルーナ。シリウスのクソ野郎が機嫌悪そうにしていたじゃろうに」
「因みにボクの命令でクソ神父……シリウスは動いてたからね」
「お前さんの言う事はしっかり聞くんじゃよ、あの男は」
再度深くため息を吐いたカルーナはルーナとシリウスの関係がどのような関係なのか知っているらしく、同時にその件に対してはルーナにはしゃべってはいない。
シリウスとルーナの二人が、この森の村に来た時からずっと傍に居てくれたカルーナにとって、二人は息子娘同然なのだ。
因みに二人の歪な関係は誰でも間に入り込む事は出来ない。
「……しかし、クラウスと言う男はどうやらお前らの間に入ってこようとしているみたいじゃの」
「クラウス様?」
「『友達』なんじゃろ、その男と」
「あー……うん、まぁ、一応そう言った」
放っておけなかったと言ってしまえば、そうなのかもしれない。
ルーナは何故かあの時、一人になろうとしていたクラウスの姿が放っておけず、思わず手を伸ばしてしまった。
あの言葉だけで、クラウスが救われたか、ルーナにはわからない。ルーナはある意味で感情と言うモノがズレているからである。
しかし、カルーナにとっては、それはある意味成長のようなモノでもあった。
「『外』の人間に手を伸ばしたのは、ある意味良い結果になるかもしれないからなぁ……」
静かに笑いながらそのように発言するカルーナに違和感を覚えたルーナは思わず聞いてしまった。
「……ババア、もしかして何か占って、何か出たの?」
「さぁ、どうだかな?」
ヒヒっと笑いながら答える目の前の魔術師に、ルーナは鋭い視線で目の前の老婆を睨みつけた。
目の前の魔術師は、この森では占い師もしている。
人からお金を取らないが、気まぐれに占いを行い、そして何かが出ると意味深な言葉をかけてくる。ルーナも何回か同じような事があったので、思わず聞いてしまった。
しかし、カルーナは笑うだけで答えようとはしなかったが、その瞳はふざけている瞳ではなかった。
「カルーナ」
ルーナが珍しく、老婆の名前を呼んだと同時に、動きを止めしっかりとルーナに目を向けた。
「『勇者』に気を付けよ、ルーナ」
「『勇者』?『聖女』じゃなくて?」
「そうじゃ、『勇者』は相変わらずお前を狙っている……だってお主は――」
カルーナは最後の発言をする事なく、何かをしゃべろうとしたのだが言葉が動く事が出来なかった。
このまま話してしまったら、目の前の少女の『出生』までわかってしまう事になってしまう。
きっとそれは、シリウスが望んでいないと知っているからこそ、カルーナは言葉を止めた。
「……カルーナ?」
ルーナが再度、彼女の名を口にすると同時に、最後の言葉を飲み込んだ。
いつものように不気味な笑いを見せながら、そのままルーナの頭を優しく撫でるようにし、呟いた。
「まぁ、お前には『神父』と『狂った騎士』がついているから大丈夫じゃろう」
「え、『神父』はともかく『狂った騎士』って誰?もしかしてクラウス様!?」
「ヒッヒッヒッ」
嫌な予感を感じながら、ルーナは青ざめた顔をして声をかけるが、カルーナは笑ったままでそれ以上何も言わなかった。
うまく別の意味で誤魔化されてしまったのではないだろうかと思いつつ、ルーナは再度、深くため息を吐きながらカリーナを見て呟く。
「……ゆうしゃ、か」
『狙っている』と言うのはどういう意味なのか、その時のルーナは全く意味が分からず、首をかしげる事しかできない。
ルーナが知らない場所で、一知らない土地で、一人の男が彼女を探しているなんて――。
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