第十七話 帰還の希望
「えっ……貴方は誰? 鰻美さんは?」
「俺が化けていただけだ」
突然現れた男性を前に首を傾げる。先程まで私が行動を共にしていた鰻美さんは、彼だったようだ。姿形を自在に変化させることが出来ることに、改めて驚く。琥珀も虎に姿を変える際には、あの白い煙が出ていた。つまり目の前の男性も、神様のような存在であることが分かる。
「俺は水神の浅葱。琥珀の親友だ」
「親友……」
神様に近い存在かと思っていれば、水神であり琥珀の親友だという。神様たちにも友達という存在があると知り頬が緩む。
「何を笑っている」
「え、いや……琥珀にも友達が居たことが嬉しくて……」
私の態度が気に障ったのか、彼は浅葱色の瞳で鋭く睨む。店長や琥珀とは違い、冷ややかな視線である。彼らが優し過ぎたのかもしれない。弁解するべく私は口を開いた。
昔、琥珀と出会った際に彼は一人で泣いていた。その為、支え合い高め合う親友という存在が居たことが単に嬉しかったのだ。琥珀が一人でないと思うだけで、何故か安堵する。
「……チッ! いいから、さっさとこの世界から出ていけ」
「出ていくにも、方法がないわ。第一、私は生贄として雷神である琥珀に奉納されたのよ?」
舌打ちをすると浅葱は理不尽なことを告げる。『花嫁』を現世に返すことは出来ないと、初対面の際に琥珀から告げられたのだ。加えて此処は異世界である。神様に無理なものを、一般人の私に如何にか出来るとは考え難い。
「ふん。ならば琥珀の兄である、翡翠さんはどうやって此処に現れたと思う?」
「……え? まさか……」
彼は私の反論を想定していたかのように、腕を組むと自信に満ちた顔で私を見下ろす。何故この場に店長の話が出てくるのか分からない。しかし店長は風神であり、現世で私と共に働いていた。その店長がこの異世界に居るということは、移動方法があるということになる。
「そうだ。俺たち神には転送する力がある。現世に帰ることが出来るぞ?」
甘い果実を差し出すかのように、楽しげな声が鼓膜を揺らした。
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