第1章 空想少女3 イケメン二人、何する人ぞ3
参道を歩いていた桃李が隣を歩く怜に聞いた。「なーんか、寝覚めが悪いな」
ギャアーっと鎮守の森の奥の方から男の叫び声が聞こえてきた。桃李はふと立ち止まった。
「まあ、あいつはクズだが、鬼に喰い殺されるほどのことはしてないかもな」
「ちょっと整理しよう。やっぱり鬼を目の前にして鬼退治をしないのは、魔族として問題あるんじゃないか?」
「神として天罰を与えたにしては罰が重すぎるし、魔族としては鬼退治をしないのも問題がある」
「つまり、あいつを助けても矛盾はしない」
「まあ、そうだな」
二人が呑気にこんな相談をしているこの間にも、森の奥から男の絶叫が続いている。
「戻るか?」
「そうしよう」
そういうが早いか、二人はそれぞれ白と黒の獣の背中に飛び乗り、風のような速さで元来た参道を、男のいる境内へと戻っていった。
男が身体ごと顔の巨人に飲み込まれる寸前、いきなり強い衝撃が加わり、巨人の身体が粉々に散った。巨人の身体から吐き出された男が顔を上げると目の前に先ほどの桃李と怜が立っていた。
「た、助けて…」
蚊が鳴くほど小さい声で男は命乞いをした。
「おっさん。一度だけ助けてやる。二度と同じことをするんじゃねえぞ」
「わ、わかった」男は乾いた声を出した。
「本当だな?」
男は黙って頷いた。
「じゃあ。さっさと逃げろ。あんたがいると、狩りができないんだ」
「狩り…」
男は意味が分からないまま、やっとの思いで立ち上がった。服はもうボロボロで体中が傷だらけになり、化け物にもて遊ばれたかのようだった。怜はぐったりした男をシャンカラの背中に鞍を掛けるようにうつ伏せに乗せた。
「安全なところまで運んでやれ」
怜がそう命ずると同時に、シャンカラは男を乗せて風のように走り始めた。
これは現実なのか。
獣の絹のような柔らかい手触りの毛の感触と、温かい体温を感じながら男はぼんやり考えた。
シャンカラが境内を離れてすぐに、男がかすんだ目で今来た方を見ると、地面の割れ目から漏れ出たかのように光が天に向かって伸び、森全体が一瞬で光に包まれ明るくなった。そして化け物たちの断末魔の叫び声が聞こえたかと思うと、また地面に吸い込まれるように光が縮み、再び鎮守の森に暗闇と静寂が戻った。
***
『MAZOKU Journal #5
魔族のイケメン二人、仲がいいのか悪いのか。二人の活躍に乞うご期待。 』
***
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