フリードリヒ、もしこの執着が前世のものであるとしたら。

 俺は昔から、「生きること」に執着していたような気がする。そして、他者を「生かす」ことにも。


 それは、双子の弟であるジルが、幼い頃は度々生死の淵をさ迷うぐらい病弱であったからか。


 それとも、俺が外で遊び回っていて、怪我をすることが多い子どもだったからか。


 はたまた、小さい頃から黒龍団や赤龍団の訓練をよく見ていたからか。


 理由は今でも分からない。


 ただ、一つ言えることは……俺は何があっても「最後まで生きなくてはならない」とずっと思い続けていたことだ。



 ◇◇◇◇



「ごほっ、ぐっ……!」


「フリード、飲めるか」


「……分か、んねえ……がはっ!?」


 びちゃびちゃっ、と吐瀉物を吐いた─────と信じたかった。


 実際吐き出したのは、胃からこんなに吐けるのか、と思うぐらいの血で……その血に、(顔は見えなくとも)ジルが戦慄したことが分かった。


 六年前の、宿泊体験六日目。


 俺たちのクラスの最後の試練────サバイバル訓練で、あろうことか俺は、魔物の毒をくらってしまった。


 突然、本物の魔物が現れ、しかもそいつがジルに襲いかかろうとしているところを庇った結果、こうなった。


 まあ、悔いは無い。弟を守れたわけだから、全く悔いは無いが、それはそれとして、毒のせいですごく辛い。


 だが俺は、視界がぼやけても、何とか意識を保とうと粘り続けた。


 俺は、生きなくてはならない。


『生きて生きて生きて、皆の分まで生きて……皆の意思を引き継がなければならない。


 だから、せめて、またが集まるまでは。


 俺は、絶対に生きなければならない』


 そんな事を思っていたが、現実は非情で、意識が朦朧としてきた。


 指を噛んで、痛覚で目を覚まそうとしたが、手を持ち上げるだけの力も、噛むだけの力も無い。


 俺は、気づいたら意識を手放していた。



 その、意識を手放した後、俺は夢見ていたような気がする。



 ◇◇◇◇

 


『お願い、───。逃げて』


『なんでだっ……! 俺だって、まだ戦える! それに、回復だって……!』


『駄目だ、───。どちらにしても、お前は最後まで生き残る。だから、お前にしかできないことを託したい』


『でも、でも……!』


『───さん。もう時間が無い。後は任せましたよ』


『おい、待て、待ってくれよ、───、───、───!』


『───。あの子を……──────を、頼んだわよ』




 俺は、最後に死んだ。いや、それまで、死ねなかった。

 

 そもそも、元々俺は不死だったし、どんだけ傷つけられようが核を破壊されようが、俺はまた蘇る。


 そんな俺は、他の三人からの役目を果たすために生き延びた。


 ……本当は、自分自身で不死を断ち切ることはできたんだ。できた、のに。


 他の神を不死にすることも出来たし、自分を不死に戻すこともできた。


 だと言うのに、他の皆は不死になることを望まず、他者にも自身にも死を望んだ。


 

 なあ、答えてくれよ……お前たちは、本当にこれで良かったのか?


 お前たちは今どこで何をしているんだ?


 俺は……お前たちと、また、出会うことは出来るのか?

 

 

 ◇◇◇◇



 あの後、驚異の生命力で元気を取り戻した俺は、翌々日ぐらいには外を走り回っていた。いや、外を走り回るっていう年齢でもなかったけど。


 しかし、心の中は何故かすっきりしなかった。


 あの日以降、俺であって、俺ではない誰かが、ずっと俺を見つめている気がする。ずっと、何かを呟いている。


 自分でも何を言っているのか、訳が分からないが───そんな不思議な感覚が、今でも残っている。



 もし、この「生きたい」「生かしたい」という執着にも似た思いが、前世に由来するものだったなら。


 俺は一体、何があってそんな執着を持つようになったんだろうな。

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