第10話 面会を望んだ理由
「第四皇女殿下」
レイの背後、姿を現したのは、ヴィルヘルムだった。太陽光により煌々と輝くバターブロンドの前髪を搔き上げており、白い額があらわになっていた。純度の高い宝石よりも美しいブルーダイヤモンド色の眼が、アリアリーナを映した。
ヴィルヘルムの美しい瞳に鮮明に映ることができる日が来ますように、とどれほど願っただろうか。彼との未来を、彼への気持ちを諦めると決めた矢先、昔からの願いが
「失礼いたします……」
深々と頭を下げ、
強制的にヴィルヘルムとふたりきりにさせられたアリアリーナは、相も変わらず無視を決め込む。
「皇女殿下」
再度呼ばれるが、アリアリーナは反応を示さない。空気のように扱えば、そのうち諦めて逃げ帰っていくだろうと
「勝手に訪ねてきたと思ったら、私の許可も得ずして
アリアリーナはようやくヴィルヘルムと視線を合わせた。口角は上がっているものの、目はまったく笑っていない。常人が目の当たりにしたら、椅子ごとひっくり返り後頭部を強打してしまうような恐ろしさであった。しかしヴィルヘルムは、常人ではない。彼女の恐怖の笑顔を目にしてもなんら驚きはしなかった。
「こちらを」
ヴィルヘルムは
「訪問のご許可をいただくための手紙です。十四通送ったのですが」
ヴィルヘルムは眉尻を下げ、そう言った。まさか自身が送った手紙の枚数までも覚えているなんて。アリアリーナは
「まずは、突然お訪ねしたこと、そしてご許可も得ず椅子に座ってしまったこと、重ねてお
ヴィルヘルムが心から謝罪する。
彼とこうして面と向かって話している事実さえ、現実ではないのではと思ってしまう。一度目の人生では彼から話したいなど言われたことがなかった。それがどんな理由であれ、だ。
「謝罪は求めてないわ。早く本題を話してくれる?」
「お体のほうは、大丈夫かと、思いまして……」
ヴィルヘルムは視線を泳がせながら、
「まさか、そんなことを尋ねるために私との面会を望んでいたの?」
「そんなことではありません。第四皇女殿下は自ら毒の入ったワインを飲み倒れたのです。それにその時、皇女殿下の近くにいたのは俺ですから、」
「嫌っている相手の体を
ヴィルヘルムの言葉に被せつつ、嘲笑を浮かべる。ヴィルヘルムは微かに眉間に皺を寄せた。言い返せない。彼自身も、アリアリーナを訪ねた明確な理由が分かっていないのだろう。待ちに待ったヴィルヘルムとのダンスを途中で中断し、毒入りだと見抜いたワインを飲み倒れる。
「私の行動の真意が気になる?」
「………………」
「自分に執着していた女が、あの夜を境に急におかしくなったなんて気になって仕方がないものね?」
アリアリーナは教養を捨て去り、頬杖をついて問いかける。ヴィルヘルムの、男らしさを象徴する
あの夜の出来事がふたりの脳内に浮かび上がる。ヴィルヘルムはさぞ驚いたことだろう。
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