第8話 王妃との会話
「第四皇女殿下。ディオレント王国の王妃殿下が面会を望まれています」
侍女が告げた言葉に、レイは驚愕する。アリアリーナはディオレント王妃であるアデリンが訪ねてくることを
「すぐに向かうと伝えてちょうだい」
「いえ、その、あの……」
侍女はしどろもどろする。彼女の
「ディオレント王妃殿下、」
「無理に立ち上がらなくとも結構です」
アデリンは不器用な優しさを見せる。アリアリーナの傍らに立っていたレイは彼女とアリアリーナに深々と一礼して、部屋をあとにした。
「ツィンクラウン帝国アリアリーナ第四皇女殿下。私のせいであなた様を危険に
一国の王妃が帝国の皇女、それも私生児の嫌われ者の皇女に向かって頭を下げている。その事実に、アリアリーナは
アデリンにとっては彼女の噂などどうでもいいのだろうか。随分と
「感謝されるようなことは何もしておりません。当たり前のことをしたまでです」
アリアリーナは胸に手を当てながら、軽く
何が「当たり前のこと」だ。ワインに毒が入っているのを知っていてターゲットの代わりにそれを飲み干す行為など、万が一にも一連の
「ところで、ひとつ、気になっていることがあるのですが、お聞きしてもよろしいですか?」
「どうぞ」
「なぜ……私が受け取ったあのワインに、毒が入っているとご存じだったのでしょうか?」
アデリンの疑問に対して、アリアリーナは顔色を一切変えない。
「先程、私の執事からとある報告を受けました。罪人の部屋で毒が入っていたであろう空き瓶が見つかった、と。つまり証拠が発見されたということですね。それはご存じでしたか?」
「いいえ……初耳です。皇帝陛下は何も教えてくださらなかったので……」
皇帝はアデリンに多くを語らなかった。愛する妹の心と体の状態を
「そうだとしたら……ディオレント王妃殿下はまるで、毒が入っていたと確信したように話されるのですね」
「っ……! そ、それは、あなた様が倒れられたからで、」
「えぇ、その通りです。私は確かに倒れました。ですが、それが演技であったのならば? いかがでしょうか」
アデリンは動揺を見せた。アリアリーナが話した通り、本当に演技だったのであれば、アデリンの謝罪や感謝は、全てが
「自白し極刑を言い渡されたという
アリアリーナは右手を口に添えながら、17歳の少女とは思えないほど、艶やかに笑った。
アデリンは恐れ
「一体、なんの、ために」
「なんのため?
アリアリーナは
「それとも、この茶番は王妃殿下の
「な、にを……」
「ワインを飲んだ私が倒れてしまったので、実際にあのワインには毒が入っていたのでしょう。本来は王妃殿下自らが毒を飲んで、誰かに罪を着せるおつもりだったのではございませんか?」
アリアリーナの無表情の問いかけに、アデリンは息を呑み冷や汗を流す。
「予測不可能なことが起こり上手くいかなかったため、暗殺を実行した男に偽のターゲットを自白するよう
もう、呪いの恐怖に
一国の王妃相手に強気に出た彼女は、フッと雰囲気を和らげた。
「と言いたいところですが、残念ながら事件は、私や王妃殿下の茶番ではございません。あのワインに毒が入っていると思ったのはただの勘です。私は記憶力がいいのです。ディオレント王妃殿下にワインを渡した使用人は、見たことのない顔でした。
アリアリーナは自信ありげに答えた。
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