第12話 WEC 富士6時間

 8月初め、WECが日本にやってきた。それもFIAの新たなルールを持ってである。T社のメンバーはまた日本たたきかと思ったが、そうではなかった。それは、

「男女混合のチームとする。ただし、女性が1時間以上ドライヴィングした場合のマージン1分間は廃止とする。同性だけのチームについては、以前と同様に1分間のハンディを負うこととする」

 TMR-Eにとっては、何も問題のあるルールではなかった。だが、傘下のチャレンジチームには大問題であった。このルールはスーパーGTのレースにも適応されるのである。前回の富士450kmのように朱里と庄野という2人女性ドライバーが乗っても、1分間のマージンがなくなるのである。館山は、FIAの幹部に内々に質問してみた。

「私のとった作戦がFIAの癇に障ったのですか?」

「いえ、そんなことはありません。館山さんのとった作戦は見事だ。そこまでできるというのはうらやましいと言っておりました。もちろん、WECでそういうチームが出てきたら問題になると思いますが、今回問題になったのはN社のマリアの件です」

「N社のマリア?」

「そうです。女性一人で3分の2を走り、マージン1分間を得るという奇策を問題視したのです。耐久の場合、男性でも3分の2を走るのは至難の業です。それを女性に強いるというのは健康面からも問題があります。マリアの名は、FIAもよく存じていますので、レース後半に集中力がきれたということは報告済みです。今後、一人のドライバーに無理をさせないということが審議されるということです」

「最大3分の2が見直されるということですか」

「はい、2人ならば最大5分の3、3人ならば最低5分の1という規定ができそうです」

「それならば、現実的ですな」

 ということで、館山はホッとした。


 WECの予選。各ドライバーが1回ずつアタックして、ベスト8のマシンがハイパーポールへすすむことができる。7号車は25kg、8号車は50kgのウエィトをおっている。どちらもハイパーポールにすすめなかった。7号車は予選9位、8号車は予選10位からのスタートとなった。今季最悪の予選結果である。T社のホームコースなのに、T社幹部からいろいろなことを副会長の中須賀は言われているようだった。その一人は会長であるT社の社長である。ふだんヨーロッパのレースでは中須賀にまかせっきりだが、日本のレースでは黙っていられないのだろう。

 中須賀とチーム監督の小田はバクチをうつしかないと思った。天気は晴れで、雨は期待できない。何とかしなければ思っていたが、スタートドライバーを女性にすることしか思いつかなかった。4スティントにしてソフトタイヤでかき乱すことができれば活路が見えると思ったのだ。

 10時、決勝スタート。朱里とカイルはソフトタイヤで追い上げる。

 10時45分、最初のタイヤ交換である。コースに復帰した時には他のマシンはタイヤがたれてきていて、ニュータイヤの効果は抜群である。

 11時5分、全車がタイヤ交換を終えた。ここで朱里は5位、カイルは6位にあがっている。

 11時半、朱里とカイルがドライバー交代である。ミックとフレッドにスイッチ。この時点ではミックが7位、フレッドが8位である。

 12時5分、全チームがドライバー交代を終えた。この時点でミックが4位、フレッドが5位にあがっている。ピット作業が順調なので徐々に順位があがっている。これならばサーキット隣のホテルから見ているT社の幹部連中も納得するだろうと中須賀と小田はほくそ笑んでいた。だが、まだ2時間が経過しただけだ、これから何がおきるかわからない。

 12時15分。ミックとフレッドがタイヤ交換。ここからはニュータイヤでまた追い上げる。このスティントは女性ドライバーが多く、守りのドライヴィングのチームが多い。追いつけると次のストレートで抜けるというのが続いた。

 13時、ドライバー交代でニックと平田に代わる。エースドライバーの登場だ。ニュータイヤということもあるし、どんどん順位を上げていく。

 13時45分、タイヤ交換で少し順位を下げる。

 14時5分。4時間経過で他車がドライバー交代を果たす。この時点でニックが3位、平田は4位になっていた。

 14時30分、ドライバー交代で朱里とカイルに代わる。順位が下がり、朱里が5位、カイルは6位でコースにもどった。でも、あわてない。勝負は残り45分だ。

 15時5分、他チームが最後のピットインを行う。朱里はここで2位、カイルは3位にあがっている。

 15時15分、T社のマシンの最後のピットインだ。朱里が4位、カイルが5位でコースに復帰した。残り45分。ソフトタイヤとハードタイヤの戦いだ。

 朱里の前にはイタリアのF社のマシンが2台、トップはドイツのP社のマシンだ。後ろはカイルが抑えてくれているので、気にすることはない。

 15時30分、第1コーナーで3位のマシンのインに飛び込み、強引に前にでる。ソフトタイヤなので、ブレーキは有利だ。3位に上がる。

 15時40分、今度はヘアピンで2位のF社のマシンに追いつく。そこからスリップストリームにつき、メインストレートで抜いた。ピットはやんやの大騒ぎだ。あとはトップのP社のマシンだけだ。しかし、残りの時間で追いつくことができるタイム差ではない。

 しかし、奇跡が起きた。

 16時、チェッカーフラッグが用意された時、最終コーナーを立ちあがったP社のマシンのペースががくんと落ちたのだ。止まるかどうかの瀬戸際のスピードだ。ガス欠だ。おそらくハイブリッドのバッテリーだけで動いているのだろう。そこに朱里がやってくる。フィニッシュライン手前で朱里が抜いた。T社のピットは狂気乱舞だ。予選9位からの大逆転。中須賀と小田も抱き合って喜んでいる。チームに特別ボーナスが出たのは言うまでもない。

 

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