Dream.6 魔具使い


 村人たちの会合をある程度見届けた後、私たちは急いでセシルドが待つ宿屋へと戻った。


 ものすごい剣幕で部屋に飛び込んだ私たちとは対照的に、セシルドはリュイの伴奏に合わせて下手くそな歌なんか歌っちゃってた。


 事情を知らないとはいえ呑気なヤツ。


 でもさすがはクライスの家来。あるじのただならぬ様子に、すぐに身を正すと視線をも引き締める。


「セシルド、夢魔が現れた」


 荒い息のまま、クライスが手短に夢魔の出現を伝えると、セシルドとリュイが同時に顔色を変える。


「クライス様……それは本当ですか?」

「マグが必要ならば私も行きましょう!」


 セシルドの声にリュイの声が重なる。


 クライスはゆっくり頷くと、次に私の方を振り返った。


「キラ、あの短剣を……」

「え? 見せたらダメって……」

「今は構わん。短剣を見せてくれ」


 なんだか分からずに私は腰にくくりつけたままの革袋に手を伸ばすと、愛用の短剣を取り出した。


「リュイはどう見る? この短剣を」

「これは……! キラさんの物ですか?」


 短剣を見つめるリュイの声はわずかに震えている。


 リュイに聞かれるまま私はコクリと頷いた。


「リュイ、この短剣……マグだと思うか?」


 クライスの問いに、すぐさま今度はリュイの首が縦に振られる。


「もちろん、間違いなくマグですよ! それもかなりのエネルギー……“ブレイブ”のマグじゃないですか?」

「やはり“ブレイブ”の……」

「はい。“ブレイブ”のマグはほぼ存在しないと伝えられているのに、まさかこの目で拝めるとは感激ですね」


 そしてリュイはたっぷりと息を吐いた。


 なに?

 なんの話をしているの?


「ねえ、さっきからマグとかブレイブとかなんの事? 全然分かんないんだけど!」


 勝手にどんどん進められていく会話にイライラし出した私は、思わず声を張り上げた。


 三人の視線が一斉に私に集中する。


 う……一気にこっち見ないでよ。


「ごめん……でも分かんないんだもん……」


 美青年たちの注目を浴びた私は今さらながら萎縮いしゅくしてしまう。


「いや。こっちこそ悪かった。説明不足だったな」


 クライスは軽く笑みを浮かべると、私の頭を優しく撫でた。


 ラルファールで常識の“マグ”は、“魔具”という、夢魔に対抗するために四人の賢者が産み出した神器の総称だった。

 

 魔具を持つ者はラルファールに於いても数少なく、彼らは総じて“魔具使い”と呼ばれていた。


 だが本来は“悪魔の日”に暴走する夢魔の撃退の為に存在していたため、多くの魔具には夢魔を殺傷する能力は備わっていない。


 しかし万が一を想定して殺傷能力のある魔具もごくわずかであるが存在するのだそうだ。


 その殺傷可能な魔具の所有者が“ブレイブ”。


 私の短剣が魔具で、私はほとんど存在しない“ブレイブ”なのだと、三人は口を揃えて言った。


「ちょちょちょちょっと待ってよ! こんな小娘がそんな大それた物持ってるわけないじゃん! 思い過ごしだよ」


 両手を突き出してブンブン振りながら、私は精一杯否定する。


 だって私は普通の女子高生で、この短剣だって近くのお店のセールで4000円で買った安物だし。


「いや金魚! “ナイト”の俺から見ても、その短剣は間違いなく“ブレイブ”の魔具だ!」

「てかアタシは金魚じゃねぇや!」


 セシルドと会話する私の言葉は酷いものだが、この際もう気にするものか。


「その前にさ、なんでアンタが“ナイト”なの? クライスの間違いでしょ?」


 はん、と鼻で笑う私に対し、セシルドはふん、と腕を組んだ。


「“ナイト”の俺は“ウィザード”のクライス様をお守りする任務にあるんだよ。誰から見ても適任じゃねーか。それに比べてお前は勇ましいよなぁ……“ブレイブ”だもんな~……金・魚♪」


 仁王立ちで勝ち誇ったように笑うセシルドを見た瞬間、私はヤツに背を向け小さく地団駄を踏んだ。


 むがづぐーーッ!


 そんな心中穏やかでない私にとって、リュイの笑顔は何よりの癒し。


「“ウィザード”や私のような“ヒーラー”にとって、“ブレイブ”がいるというのはすごく安心できる事なんですよ」


 リュイがそう言うと、クライスもまた頷いた。


「そうだぞキラ。それに“ブレイブ”は魔具使いの中でも最上位だぞ! “ナイト”より上だぞ」

「ホント?」


 その言葉を聞いた途端に私は目を輝かせた。


 実に単純だと自分でも呆れてしまうが。


「ま、希少なだけに命の危険も多いがな」


 トドメを刺したのは……言わずとも分かるよね。


 ムキッ!



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 『Dream.7-1 夢魔』に続く。


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