喪女に悪役令嬢は無理がある!

夢呼

1.ここは?

山田椿やまだつばきは現在とてつもなく困っていた。


今、椿いるのは学園の女子寮の自分の部屋だ。とても可愛らしいドレッサーの前に座っている。鏡には自分と、その背後に緊張した面持ちで椿の髪をブラッシングしている少女が映っている。年齢は椿と同じくらいだろうか。その少女はどういうわけかメイド服を着用している。


椿は都立高校に通う高校二年生の十七歳。大きな黒縁の眼鏡をかけ、いつも黒いセミロングの髪を一つにまとめたヘアスタイルをしている。そんな地味な格好のせいか、少々肉付きの良い体系の割にはクラスでは存在感が無い。いいや、敢えて地味な格好をして気配を消していると言ってよい。そんな彼女はクラスメイトに親しい友達はおらず、いつも一人。


今日のお昼休みだっていつも通り賑やかな教室での一人ランチを避けて、誰も来ない校舎の隅の階段にやって来た。そこで早々にぼっち飯を終え、読み途中のライトノベルを読んでいた。話ももう後半。今日中に読み終え、帰りに新しい本を買って帰ろうと思っていた。


そのはずなのに、何故か今、ドレッサーの前に座らされ髪を梳かれている。


「今日はどの色のリボンに致しましょうか? お嬢様」


お嬢様と呼ばれているのは恐らく自分だ。

椿はアワアワと鏡を見つめ直した。


鏡に映る自分はまったく違う姿だ。

小デブで地味な椿とは正反対。スレンダーな体系に艶やかに光る赤毛のロング。

顔も一重で蕎麦カスだらけの地味顔の椿と違い、磁器のように白く澄んだ肌にぱっちりとした二重の瞳に薄い唇。

小デブが故にそこそこ胸の大きい椿とは違い、細身ながらも豊満な胸は何とも魅力的だ。


「オフィーリアお嬢様?」


髪を梳いているメイド服少女が首を傾げながら鏡越しに椿を見た。


「ふぁ、ふぁいっ!」


椿は変な声を上げ、ピシッと姿勢を正した。

そんな椿の態度にメイドは驚き過ぎて目が点になっている。


(ど、ど、どうしよう・・・、どうしよう・・・)


『私は山田椿です!』


そう言ってしまいたいのだが、この状況でそう告白して何になる?

どう見ても目の前の少女は山田椿ではないではないか!

どう見てもこれは・・・。


「オ、オフィーリアお嬢様・・・?」


メイドは心配そうに椿を覗き込んだ。

椿はそんな彼女に目を向けず、鏡に映る自分をブルブルと震える手で指差した。


(そうだ、この人はオフィーリア・・・、オフィーリアだ! さっきまで私が読んでいた小説の・・・)


「悪役令嬢! オフィーリア・ラガン侯爵令嬢!」


こんな事って有り得るのだろうか?

頭の中が混乱してクラクラ眩暈がする。


(どうしよう、どうしよう・・・、何がどうなってるの?!)


「お嬢様! お嬢様!?」


両手で頭を抱える椿にメイドが必死に声を掛ける。しかし、それも空しく、椿はクラ~と傾くと椅子から崩れ落ち、床に倒れた。


あまりの出来事に脳が制御し切れず、気を失ってしまったのだ。

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