その小娘が余りに話を邪魔してくるので、温厚な彼も遂にキレました
一通りの話を聞いた角龍が嘆息しました。
うちの小娘の我が儘は聞くだけで疲れますからね。気持ちは良く分かります。
「人を呪いかなんかみたいに言わないでくれる?」
貴女、人じゃなくて神でしょう。
「そういう意味で使ってるんじゃないって分かっていってるでしょ」
言葉は正しく使うべきです。上に立つ者であれば尚更ですよ。
「おい、あの母親龍が話しようとしてるのに、お前らが喋ってるせいで割り込めずに押し黙ってるぞ」
おっと、それは失礼しました。
「なぁん!」
「お前ら、黙れっての! いちいちケンカすんな!」
む。灯理に怒鳴られてしまいました。
小娘も不機嫌に頬を膨らませてはいますが、ちゃんと黙っているので、わたしもこれ以上の反論は我慢します。
「……原初の神とそれに連なる神に対して、勇ましいのですね」
角龍が信じられないという心情をありありと顔に出しつつも、かなりオブラートに包んだ表現で灯理の所業に気持ちを表明しました。
その内容に灯理は盛大に顔を顰めて心底嫌そうな態度を取ります。
「不遜でも傲慢でも、誰かが停めないと際限がないんだよ、このダメ母娘はよ」
ちょっと、もう何度も言いますが、この小娘と一緒くたに扱われるのは大変遺憾です。正当な扱いを求めます。
「あ、こら、自分だけいい子ちゃんぶるのは良くないと思います!」
「一回黙ってろって言ったら五分くらいは黙ってろよ、お前ら、小学生か!」
「へへーん、わたしはリアル小学生ですー」
あ、灯理がぷちんとキレて小娘に拳骨を落として撃沈させました。今の口答えは確かに腹に据えかねるものでしたので、まぁ、妥当な折檻です。
かなり本気で殴ったらしく、小娘は痛みの余り声も出せずに頭を抱えて地面に蹲っています。あれ、本気で涙零していますね。
……わたしも少し口が過ぎていたかもしれません、反省します。
「よし」
良かったです。灯理は反省すればきちんとそれを認めてくれます。本当に良かった。ちょっとこわかった。
「話を。進めるぞ」
灯理が毅然と宣言すると、角龍と
そんな灯理の頭に
いえ、あの、どういう事ですか。怒っている彼氏が怖がられているのをちょっとでも緩和しようとかそういう意図なのでしょうか。
嵐が何も言わずに去っていくのも、そしてそんな事をされて灯理も特に何も言わないのも、傍から見ている側としては意味不明過ぎて恐くもあるのですけれど。
しかし嵐はただ単に斗和羅神が邪魔だから灯理に預けただけだったようで、うちの小娘をさっと抱き上げて背中を擦り、あやし始めます。
「うぁ、らん、いたいよぉ」
うちの小娘のガチ泣きとか数世界ぶりに見ました。ちょっと灯理を尊敬します。
「よしよし、痛いね。でも
「うぅ、いたいのぉ」
「うんうん」
嵐は安易に小娘を甘やかして肯定するのではなく、でもその手付きはとても優しく慈しみに満ちていて、弱々しい子供を母性で包んでいます。
灯理はその様子を横目に見て僅かに表情を和らげつつ、角龍に顎をしゃくりました。その首の動きであざらしのぬいぐるみが頭の上でちょっとズレるのが、少し滑稽です。
「またぐだぐだ話してたらあそこの気紛れながきんちょが要らない口挟んでくるから、完結に率直な意見を話せ」
これ以上話が停滞するのを良しとしない灯理はお気持ちとか前口上とか礼儀の表明とか回りくどい責任逃れとかを一切許さずに、本心だけを要求します。
角龍は目の前で起きた神話的大惨事に冷や汗を垂らしつつ、どうにか口を開きます。
下手すると世界滅亡の要因に成り兼ねない出来事だったので、動揺するのは大変良く分かります。
「大いなる方の乗騎となるのは誉れです。貴方、言われた通りになさい」
漢服の広い袖の中に隠した手を合わせて頭を垂れる角龍は、最後の一言を命令として息子である蛟に与えました。
蛟は嵐にあやされる情けない小娘を瞳孔に収めて酷く不満そうではありますが、絶対的な力を持つ母親と、それと目の前で畏怖を見せ付けた灯理にビビり切って、こくんとしっかり大きく頷きました。
なんだか、小娘の我が儘一つを叶えるのに無駄に遠回りをしました。本当にあの小娘の相手をするのは疲れますね。
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