その神霊は神のさらに上位にあるので、配下の神霊は言う事を聞かなくてはなりません、がっでむ

 さて、ひめの色恋に見込みがないという共通認識が出来た訳ですが……この話、本当に必要だったのでしょうか。

「あ、てかさ、結女ゆめは神霊生み出せるんでしょ! あたしの相手も生んでくれていいんじゃない!」

 え、この喪女、まだこの話続ける気なのですか。行き遅れ、怖いです。

「ねぇ、自分で言ってることが虚しくならない?」

「恋の相手がない虚無をなめんなよ! 女のプライドなんてなんぼのもんよ!」

 こんな自分勝手な理由で神御祖神かみみおやかみに食って掛かるなんて、人間以外で初めて見ました。信じられません。

「されど、媛も今は人の子ぞ」

 はながフォローなのかどうか口を挟んできますけれど、彼女が彼氏いなくて騒ぐのが神霊の頃と何も変わっていないって知っていますからね。

 征嗣ゆきつぐも困ったように頭を振っていないで、貴方は統治神なのですから配下の神霊の手綱くらい握ってくれていいのですよ。

「女性って怖いんですよ。勘弁してください」

 若いのに思慮深い征嗣は早々に諸手を上げて手に負えないとアピールしてきます。荷が勝ち過ぎているのはその通りなので無茶を強いるのは止めて上げましょう。

「あと、ざんねんながらコメント来てないから神霊作れんのよね。コメントくれー。ネタを寄越せー」

 小娘がかまってちゃんしていますが、目の前の七柱の神は何もなくても生み出したのですよね。別に必要不可欠でもないのに困ったようなふりをするのではありません。

「えー。だってちゃんとやり取りがないとさみしいじゃん。ふてくされるのもやむなし」

 駄々っ子ですか。

「わたし子供ですー、小学生ですー。ほめてのばせー」

 我儘言いたい時ばかり子供面しないでくださいますか。イラッとします。

 おや、伊佐那いさなが神御祖神に近付いてきますが、どうかされましたか。

「御身は様々な神霊を零落させずに生み出しなさって、素晴らしいです。我が夫や主上達と過ごす日々をくださって感謝致します」

 伊佐那が平坦な声と表情でそんなお礼を述べながら、小娘とほぼ同じ背丈なので目一杯手を伸ばしてその頭を撫でました。

 これはもしや、そこの小娘が褒めろと言ったのを素直に実行しているのでしょうか。え、可愛いですよ。ちょっと、お宅の娘さん、可愛いですよ。

「うむ。伊佐那は純粋で愛でたかろう」

「花さん、恥ずかしいから親バカ丸出しでどや顔するのやめてくれる?」

 何ですか、征嗣は他者の目なんて気にしているのですか。

 愛らしいものを愛らしいと思い、それを生み育てた事を誇りに思う事の何が悪いというのですか。

 それに文句を言うなんて人間くらいなものでしょう。この場にいる誰もそんな狭量な者はいませんよ。いたら排除しますよ、神御祖神が。

「ちょいちょい、勝手にわたしを巻き込むな」

 え、排除しないのですか。

「ムカつくからぶっ飛ばすに決まってんじゃん」

 そうですよね、存じておりました。つまりわたしの見立てに狂いはないので問題ない発言でした。可愛いものを愛でない者にこの場にいる資格はありません。

「待ちなさい。小さい子が大人ぶるのが可愛いのはその通りだけど、そこで褒められているこの幼いわたしも可愛いでしょ、わたしへの可愛いがなくってよ、不公平よ」

 え。いや、貴女は生意気で可愛くないですし、自分から褒めろとか可愛いでしょとか言ってくるのもどうかと思いますし、そもそも伊佐那と違って純粋じゃないでしょう。

「むきー! わたしの方が年下よ! 伊佐那は中一でわたしは小六よー! きー!」

 子猿みたいに騒がないでください。喧しいです。ほら、そんな風に腕を振り乱したり地団太踏んだりしたらテーブルや椅子に当たって危ないですよ、お止めなさい。

天真璽加賀美あめのましるしのかがみって他所の子には素直にデレるのに、自分の子にはクーデレなのね」

 媛がなんだか見当違いな事を言っています。

 わたしはこんな育てるのに苦労しそうな子供なんか要りませんし、しかもこれ、一応親の方なのです。親らしい事を欠片もしてませんが、だからこそ子供にするだなんて御免です。そんな役目を負うなら滅びた方がマシです。

「ひどくない!?」

 酷いと思うなら普段から言動を見直してください。あと自業自得って言葉を学び直してください。得意ですよね、真理を掘り返すの。

「こんにゃろ。天真璽加賀美はクーデレじゃないよ。ツンドラよ!」

 いっそ冷気を放出する権能付け加えてくださいませんか。そうしたら貴女がおいたした時に凍結させられますので、とても助かります。

「そんな自分の首を絞めるようなことするわけないでしょ!」

「いや、怒られる自覚あるのかよ」

 絆が頬を引き攣らせながら呆れた声を出します。

 現代っ子な意識が強い灯理とうりと違って、此方の面々は神御祖神相手でも物怖じしないのは大変宜しいです。

 物怖じしなさ過ぎて早々に関わるのを拒否して医学論文読んでいる者もいますが。

「おっさんを若者の騒ぎに付き合わせるな。体力がないんだよ」

 清淡はそんなふうに言って草臥れた態度も隠そうともしません。

 でも人間の医学知識なんて仕入れる必要があるのですか。

「人の発想は神でも学ぶべき点は多いぞ。こんな無駄で危険なアプローチ、効率を考えていたらとても出てこない」

 清淡の発言は褒めているのだか貶しているのだか分かりませんね。蛇は種族的に知識欲が強い傾向にあるので彼もそうなのかもしれません。

「てか、清淡神蛇命きよあわのかむちのみことの権能は医学というよりは衛生だからね。微妙に専門がズレてるってのもあるんじゃない」

 神御祖神がそんな補足も入れて来ました。

 確かに彼は綺麗な淡水を生み出す蛇の神格であり、海勇魚船わたないさなふねに乗る民の健康を保つ役目は副次的な権能でありますものね。清潔さを保つ事は出来ても、治癒や治療で神威を発揮出来る神霊ではありません。

「それなのに、疫病を治療しろとか散々言われたがな」

 清淡は非難がましく普段以上に声を低くして花に突き付けます。

 幾ら海勇魚船が巨大であるといっても乗せられる神霊には限りがありました。それ故に、特に清淡神蛇命は本来備わっているのとは別の役割を求められるのが多く、そしてそれに大変苦労したそうです。

「仕方あるまい。大切な民を栄えさせる為に尽力するは神の在る意味である」

 しかし、一つの国で主神として祀られた経験も知識として持っていますから、花は堂々と清淡の非難を退けます。

 これは清淡も苦労するというものです。

 草臥れた壮年は疲れ切った溜息を吐き出して反論を諦めてしまいました。

 意見を変えない強情な神霊が上の立場にいると大変ですよね。わたしも同じなので良く分かります。お互い頑張りましょう。

「俺はもう頑張りたくもないんだが。しかも此処ではそちらの頑固者からも命令されてしまうのだろう」

 確かに、神御祖神に生み出されてしまったというならそういう事になってしまいますね。でもわたしにもどうする事も出来ないのです。せめてこの小娘に立ち向かう権能が一つでもあれば最期まで戦い抜く決意はあるのですが。

「本人目の前にして反逆の意志見せるのやめてくれない!? てか、わたし放任主義ですが! 無理強いなんてした事ありませんが!」

 このおバカ。貴女みたいに立場がある者が発言したら、下々はなるべくその意に従おうと思ってしまうのですよ。権力者がそんなつもりはなかった、なんて言っても現実として何の意味もないのですからね。言動は良く良く慎みなさい。

「えー……めんどくさ。わたしは思った事を包み隠さずにいう裏表のない良い子だもん」

 可愛いぶらないでください、大変イラッとします。ぶん殴りますよ。

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