火群大戦(ほむらたいせん)旅路編②「禍福たちの夜明け」

熊谷茂太

「禍福たちの夜明け」

【幕前】(これまでのあらすじ)

 すべての者には祝福がある。


 この世界を創造した大いなる要素【地】【水】【火】【風】の精霊は、祝福として人に授けられ、人々はその恩恵をあやかる。


 だが、すべての精霊が人に祝福はされなかった。


 いつからか人は【火】を禍いとみなし、【火】の精霊持ちを『禍炎かえん』と呼び迫害するようになる。


 とざされた大国ドゥール・ミュール共和国では、その差別思想は強固なものとなり、ついには【火】の精霊持ち同士を殺し合わせる【火の祭典】なる狂宴きょうえんまでもよおされていた。


 国の片隅で少数民族ワ族のひとりとして生きていたわたしが、この殺し合いの祭典──通称〈とばり〉に乗り込んだのは、復讐のためだった。


【火】の精霊持ちとして忌み嫌われ、名前すら与えられていなかったわたしに、生きる場所を与えてくれた同胞の少年少女たちを突然みなごろしにした者が残した手がかりをもとに。


とばり〉に、わたしのかたきがいる──


 そこで待ち構えていたのは、さまざまな思いで〈帳〉に臨む【火】の精霊を持ちたちだった。


 過酷な世界で生きる者たちとの闘いを経て、わたしはついに、仇の存在に辿り着く。

 この国に蔓延する歪みを利用して、戯れに人々を殺していた邪悪に。


 わたしは〈帳〉で出会った者たちの協力と、同胞がわたしに遺してくれた精霊の力のおかげで仇を討ち倒すことができた。

 激闘の末、国中にその存在を暴き、奴の罪は法の裁きに委ねることで復讐劇の幕を下ろす。


 これが、後に〈帳事変とばりじへん〉と呼ばれる出来事となる。



 それから一か月後。


 亡き同胞らとのつながりの証として、わたしは自らを「ラピス」と名乗り、広い世界を見る旅を続けていた。


 水路都市と呼ばれる町で、突然わたしはいわれのない賞金首として命を狙われる。

 かつて〈とばり〉で出会った者たちも巻き込んでの騒動は、『禍炎かえん』を憎む貴族勢力下の地元警備兵たちによる陰謀だった。


〈帳事変〉で【火】への差別というゆがみを暴いたわたしをおとしめるための。


 中央政府から遣わされた政務官の指揮下、警備兵は政府に反抗的な水路都市の市民を亡き者にし、その罪をわたしに着せるという「一夜作戦いちやさくせん」を実行しようとする。


 その狂気じみた計画の首謀者は、捕えられ罪の裁きを待つのみだったはずの、わたしの仇だった。

 奴は拘束中、巧みに政府の人間の選民思想に付け込んでその心を懐柔かいじゅうし、ついには意のままに操っていた。


 わたしに執着し、わたしの手で自分を殺してもらうため──


 奴は政府の者を操り、町を破壊し、市民を大量に殺そうとしていた。


 その狂った望みに応えることなく、わたしは「一夜作戦」の決行を阻止した。

〈帳事変〉で繋がった友人らと、地元市民たちとの共闘によって。



 不穏は残り、歪みはなおもこの国にある。

 それでもわたしは、旅を進めていく。

 友人との関係を築き、人との出会いを重ね、新しいものを知りながら。



 さらに二か月が経ち──

 わたしはとある地でる人物と出会う。


 そして決別わかれを知る。

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