第13話 魔剣『朱莉』




 ガチャ屋が終了し、解散となった後も魔法好き好き戦士は、あることで悩んでいた。魔法を使いたいという幼い時からの夢を叶えようとして道半ばだった頃とまでは言わないが、なかなか解決する目処が立たない悩みである。


 ――その悩みとは、今日、ガチャガチャで手に入れたURの魔剣に対する、自分の気持ちだった。

 

 念願の魔法という超常現象を自分の手で引き起こすという夢のような代物。嬉しいはずだった。

 だが、それだけではないのだ。魔剣を見つめていると今までに感じたことのない不思議な気持ちを抱いてしまう。


 確かめるために匂いを嗅いでみたり、舐めてみたりしたものの、いつまで経ってもこの悩みが晴れることはない。


 悩んだ末に、ひとまずダンジョンにて、一度使ってみようと考えた魔法好き好き戦士。

 早く使ってみたいという思いを抑えるのが我慢の限界だったというのもあるのだろう。

 さすがにショッピングセンター内で使うのは駄目だろうという理性がギリギリのところで魔法好き好き戦士を犯罪の道から引き留めたのだった。




――――――――――――――




「凄い……!! 凄すぎるぞぉぉぉぉぉ!!!

 これが魔法か!! ハハッ……ハハハハハハハハ!!!」


 

 ダンジョン内に男の叫声が響いて反響する。

 男――――魔法好き好き戦士は魔剣を振り回し、次々と炎で周りにいるモンスターを焼き払っていた。


「いいぞぉぉ!! おかわりだ!! モンスターおかわり!! もっと来てくれ!! 」


 ダンジョン内で大声を上げるというタブーを犯したために、音に反応したモンスターが山ほどこの場へと押し寄せ始めていた。

 モンスターのおかわり(大盛)である。


  

 追加されていくおかわりモンスターを次々と燃やし続ける、魔法好き好き戦士。しかしまだまだ物足りないようだった。

 

「まだだ……!! まだ足りない!!」


 

 それからも魔剣を使うために、数時間に渡ってモンスターを倒し続けていると――――


「――――――――ッ!!!!」


 雄叫びを上げながら巨大な人型モンスターが現れた。大声を上げながら、長い時間一カ所に居続けたせいだろう。

 Aランクモンスター、イエティ。

 雪を操る人型の強力なモンスターである。


「っ……いかんな。つい、はしゃぎすぎてしまった……。イエティか……普段なら逃げるのだがな」


 Bランク冒険者である魔法好き好き戦士より格上の相手。

 しかし、魔法好き好き戦士には魔剣がある。これを当てさえすれば、魔剣の紹介時に簡単に倒されていた氷の巨人よりは明らかに弱いイエティを倒せるだろう。


 先手をとり、魔剣で倒しきってしまおうと、イエティに向けて魔剣を振りかざそうとした魔法好き好き戦士。


 だが、魔剣が発動するよりも早く、イエティは瞬時に近寄り、強烈なパンチを腹に叩き込んだ。


「ぐっっ……」

 

 咄嗟に後ろに飛んで威力を多少軽減したものの、魔法好き好き戦士は大ダメージを受けてしまう。

 殴られた腹を抑える魔法好き好き戦士。

 ふらついて倒れそうになるのを足に活を入れて堪える。


 イエティはというと、安易に近寄らず、距離を取ってトドメを刺そうと口に氷の力を集め、鋭い氷柱を生成し、発射しようと準備していた。


 魔法好き好き戦士のジョブは戦士。ここから、妨害しようとしても本来ならば間に合わなかっただろう。


 だが、魔剣がある魔法好き好き戦士にとっては、逆に魔剣を振るえるチャンスだった。

 魔法好き好き戦士は、イエティへとなんとか魔剣を振るい――――魔剣から生み出された炎は、口に氷柱をスタンバっていたイエティを焼き尽くした。



 

 イエティを倒したことを確認した魔法好き好き戦士は、腰にあるポーチからポーションを取り出し、飲み込んで回復し、一息つく。


 

 

「助けられたな……。魔剣よ……感謝する。

 ……思えば、ずっとソロで冒険してきたからか、誰かに助けて貰ったことなんてなかったな。」



「助けてくれる仲間か…………仲間…………ハッ!!」


 

 突然目を見開いた魔法好き好き戦士。

 

   

「そうか…………!! ようやくお前に抱いていた気持ちが今、分かった!! この気持ちはまさしく友に向ける親愛の気持ちだ!!

 初めて出会った時から、俺はお前をきっと相棒になれる存在だと感じとっていたんだ!

 今まで俺には背中を預けられる仲間がいなかった。だが、これからは違う!! 俺の背中はお前に任せよう!! お前になら預けられる!!

 俺が近接を担当し、お前が遠距離を担当する――俺達二人は役割でも相性がぴったりだな!! 」


「……」


 魔剣に擬人化する機能などついていないので喋れるわけがない。なのにも関わらず、魔法好き好き戦士は一方的に会話を続けていた。

 


 「あぁ、すまない……俺は相棒になんて無体なことをしてしまっていたんだ……まだ名前をつけてあげれていなかったな……」


「……」


「お前の名は朱莉あかり……美しい朱き抜き身を持つお前にぴったりの名前だと思うんだ。どうだ? 気に入ってくれたか?」


「……」


 朱莉――人間の女の子にいそうな名前である。

 子どもがぬいぐるみに名前をつけるようなものなのだろうか? はたまた彼には、魔剣が女の子にでも見えているのだろうか?


  

「……朱莉。俺を殴れ。俺は初めはお前を物扱いしてしまって、名前すらつけなかった。だから俺を殴れ。お前が殴ってくれなければ、俺の気がすまない。そうしなければ、俺はお前とこれからも相棒としてやっていける資格がない……!!」


「……」


「ガハッッ」

  

 魔法好き好き戦士は魔剣――――『朱莉』の柄の部分で自分の頬を殴った。

 彼には、剣の柄が手にでも見えているのだろう。


「いいパンチだ! ありがとう、相棒。」


「……」


「 俺は、これからは次のガチャが来るまでダンジョンに籠もってモンスターを倒すつもりだ。ついてこれるか、相棒?」


「……」


「ふっ、愚問だったな。いくぞ! ウオォォォォォォ!!」


 魔法好き好き戦士は突き進む。魔剣――朱莉と共に。

 次なる仲間を迎え入れるために、ガチャに備えて、ダンジョンに毎日籠もり続けるつもりなのだろう。



 ――――ところで魔法好き好き戦士の当てた魔剣のレア度はURである。

 UR魔剣の説明としては、普通に扱って1ヶ月ぐらい使えると紹介されている。


 だが、指標に設定されたであろう灰華は1ヶ月の間、ずっとダンジョンに籠もり続けて戦ったことなんてない。

 

 魔法好き好き戦士は、やたらと使っているが、このペースで魔剣を使うことを普通の定義に当てはめていいのだろうか――――?



 


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