第8話 シュートミーとの対決2

第8話 シュートミーとの対決2


 いつしか遠くの銃声や砲声も鳴り止んで、静寂のフロアに二人の会話が響く。


「シュートミーはどこに居る?」気を取り直したタケルは訊いた。


「階段口右側八Mで、ビル正面から見れば、左奥側に見える仕切り壁に隠れているよ。

 ボクは、ビル入り口側右手の仕切り壁に居る。丁度階段口の後方十Mあたりだよ」


「長剣だけじゃどうにもならないな」


「シュートミーも身動きできない筈だよ。ボクのショットガンが狙ってるからね」

 ヒロシは、幾らか元気を取り戻してそう言った。


「両者動けずか……」


「どうする? タケル君」


「シンジとイチローの仇は絶対取る」

 タケルは、握りこぶしに力を込めた。


「でもどうしたら?」


「シュートミーは瞬間的には反応できない筈だ。

 シンジの時は、ヒロシを狙う振りをして、始めからシンジを狙っていたから、すぐ反応できた」

 タケルは考え考えそう言った。


「うん。そうだろうね。でもぼくたちの会話って、シュートミーにも聞かれてるけど、いいの?」

 心配そうにヒロシが訊く。


「大丈夫だ。シュートミーは予定していない限り、狙いを付けるのに二秒かかる」

 タケルは、ヒロシを勇気付けるようにそう言った。


「うん」


「だから、作戦を知られていても、スタートの合図がわからなければ二秒の余裕がある」


「うん」


「先ず、俺が長剣を振りかざして三階に飛び出す。

 シュートミーは俺に狙いを付けるだろう。でも正確に撃つのには二秒掛かる。

 そこでヒロシが、ショットガンで撃てばイチコロだろ?」

 それほど自信があって言ってる訳じゃないが、タケルは自分自身にもそう言い聞かせるように言った。


「なるほど」


「銃弾と剣先だけな」ヒロシにヒントを送る。


「……うん」何となくヒロシは理解した。


「スタートの合図は、今日のヒロシのタクシーキャブの色ね。色相順に秒読みするから」

 タケルの得意科目は美術だ。そしてヒロシは勉強家だから、色相環しきそうかんも理解していた。


「OK」ヒロシはブルーキャブを思い出す。


「青紫、紫、赤」

 タケルが色相環で秒読みを始めると、ヒロシが銃弾を転がした。

タケルが、長剣の先だけ階段口に差し出す。


『パパ! パパッパン!』五発の連続弾が、シュートミーのライフルから発射された。


 始めの二発は、銃弾の転がった辺りの少し上の空間を貫いた。

 次の三発は、銃先を右四五度にターンして、タケルの長剣に命中した。

 残りは一発……


「赤,橙,黄,緑,青」

 タケルは長剣を振りかざして、一気に三階フロアに飛び出した。

 そして身を右にひるがえして、シュートミーに襲い掛かる。

 シュートミーは、ライフルをタケルに向けた。


『ドカン!』

 ヒロシのショットガンが、シュートミーのライフルを、腕ごと砕いた。


 近付いて見ると、シュートミーは、中学生位の美少女キャラクターだった。


 フロアに転がったままで、左手先を失ったシュートミーは、苦しそうに二人を見詰める。

「シュート・ミー……」

 その後は声にならず、口だけをシュート・ミーと言う形にした。

 苦しい息遣いだけがその場に響く。


「ああ。これ見たことあるよ」

 シュートミーを見下ろして、ヒロシが言った。


「何を?」訳がわからず、タケルはヒロシを見る。


「一九八〇年代の、アメリカ古典映画で、幻の傑作戦争映画『フルメタルジャケット』に出て来る、ベトコンの女スナイパーだよ」

 ヒロシはオールドムービーのマニアだ。


「それっておもしろいの?」

 瀕死ひんしのシュートミーそっちのけで、タケルは訊いた。


「ボクは好きだけどね」

 オールドムービーが、タケルに受けるかどうかを気にして、ヒロシは自信無さそうに答えた。


「今度一緒に見てみようか?」タケルは素直に見たいと感じた。


「いいよ」ヒロシが嬉しそうな顔をする。


「シュート・ミー……」

 苦しそうに、ベトナム系の美少女が、繰り返し囁く。


「今すぐ楽にしてあげるよ」ヒロシがショットガンを構えようとした時……


「わかったよ」と言って、タケルが長剣で、シュートミーの心臓を一気に突いて、とどめを刺した。


 引き抜いた長剣を、タケルは静かに床に置く。

 緑色の血液がこぼれ出し、シュートミーは黒い物体となった……三〇〇ゼニーゲット。

 さすがはボスキャラだ。

 タケルは一五〇ゼニーを、ヒロシに分けようとした。


「違うよ」ヒロシは、シュートミーを指差して言った。


「何が?」タケルがきょとんとする。


「シュート・ミーは、私を撃ってっていう意味だよ」


「だって俺、拳銃もライフルも持ってないから」

 タケルは両手を軽く広げて、そう答えた。


「だからボクが撃とうと思ったのに……」ヒロシは抑揚の無い声を出した。


 ショットガンの安全装置にロックを掛けてから、タケルに顔を向けた時のヒロシは、いつもの顔に戻っていた。


「まあいいか。これで第三ステージクリアだね?」


「この先の方が、大砲とか出てきて大変そうだな」

 タケルは、先のステージが少し気になって、そう答えた。


「きっとこの先の方が危ないよ」

 ヒロシは下を向いて同意した。


 突然、フロア右奥で、小部屋のドアがそっと開いた。

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