第6話 崩落寸前のビルに潜む狙撃者

第6話 崩落寸前のビルに潜む狙撃者


 タケルはかたわらに落ちていたぼろきれを丸めて、五Mほど先を狙って高くほおった。

 直後に銃声が響き渡り、ぼろきれは地上に落ちる間際を撃ち抜かれた。


「ちょっと反応が早過ぎないか?」


「いやタケル君が手を出した瞬間から察知して、きっかり二秒だったよ」

 ヒロシはリストウオッチを見せた。


「じゃあ攻略本通りか?」


「みたいだな」タケルの確認にはシンジが答えた。


「しかも射程距離一〇〇M以内は確実か……」タケルがつぶやく。


「恐ろしい奴さ……」イチローが下を向く。


「よしスモーク弾を二個くれ」

 そう言って、タケルはシンジに手を差し出した。


「ほい」シンジが、ベルトから筒を二本抜いてタケルによこした。


「投げるぜ」

 さらに二本の筒をベルトから抜いて、シンジはその内一本を右手で握りなおした。


「OK」

 残りの三人が答える。

 シンジはスモーク弾を三十M遠投した。続けてもう一本。

 着地した筒は二本ともさらに十Mほど転がって、僅かな時間差でぱん、ぱんと爆発し、煙をもうもうと吐き出した。煙がビル全体を隠す所まで成長してからシンジが叫んだ。

「GO!」


「ラジャ」

 イチローが答えると、二人は一斉にスモークの中心部へ全速力で走った。


 シンジとイチローが半分ほど走った所で、タケルがヒロシに声を掛けた。

 右手には筒が握り締められている。

「俺達も行こう」


「OKタケル君」


 ヒロシの返事に、タケルが少し不満げな顔をして言った。

「あいつらもいるからアントン、クリントでなくてもいいか?」


「うん」ヒロシが嬉しそうに答える。


「よしヒロシ、GO!」

 左手人差し指を前に振って、タケルが走り出す。


「OK」

 ヒロシもショットガンを両手に、遅れまいと全力で走る。


 三十Mほど走ると、スモークのカーテンのこちら側でシンジたちが少しずつ右に移動しているのに気が付いた。

 左からの風でスモークのカーテンが右に流されているからだ。

 タケルはスモーク弾を一つ手に取り、シンジたちの左前方に投げつけた。

 シンジたちの左前方に新たなカーテンができ、シンジたちはそこへ移動するやスモーク弾を二本続けて遠投した。

 四十M先やや左方へ転がった二本の筒は、破裂して大きな煙幕を張る。


「いいぞシンジ、多分ぴったりだ」後ろからタケルが声を掛ける。


「任せとけって」

 振り向いたシンジが親指を立てる。そして隣のイチローの肩をぽんと叩いた。

「ついて来い!」


「ラジャ!」


 シンジたちが煙のカーテンの左まで寄ってから、新たに作ったスモークの出来栄えを観察する。新たなカーテンは、ビルに対して丁度死角を作っていた。


「GO!」

「ラジャ」

 シンジとイチローは、前方の煙幕のやや右を目指して走った。


 数秒後、タケルとヒロシも続いた。

 新しい煙のカーテンの十M手前辺りで、タケルはスモーク弾をまた煙幕の左前方へ投げつける。

 新しいカーテンの手前に四人が終結し、少しずつ右に移動する。煙幕がやや薄れて来たようだ。


 ここからビルまでは約二十M。

「スリー,トゥ,ワン,GO!」

 四人は一斉にビルに向けて走った。

 銃声は無い。無事死角まで入ったようだ。

 ビルの一階に走りこんだ四人は周囲を見渡した。


 正面出入口の支柱は、所々破壊されながらもどうにか残っている。

 左右と奥側は、窓部がほぼ破壊されているものの、壁はほぼ残っていて上階をしっかり支えているようだ。

 鉄筋がむき出しになった階段が右奥に見える。

 二階の床と、一階の天井を兼ねるコンクリートフロアパネルは、一箇所の大穴を除けばほぼ無事だ。

 四人が耳を澄ますと、遠雷の様な砲声が時折聞こえるだけで、ビルは静寂そのものだった。


「シュートミーはこの上だな?」とタケル。


「階段は一つだけだ。外側には無い」シンジが答える。


「それも攻略本か?」


「悪いか?」イチローが横目で睨んだ。


 タケルが先頭で階段を登る。二番目はシンジ。三番目がヒロシ。

 タケルが二階に頭を少し出すや『パン!』と頭上を弾がかすめ、慌ててタケルが下がる。

 四番目に階段を登り始めたイチローは、驚いて下まで滑り落ちた。


 その時また『パン!』と音がした。

「ギャ!」と悲鳴を上げて、イチローが床を転がった。

 天井の大穴から、ライフルの銃先が覗いている。


 タケルが二階に躍り出て、長剣を引き抜いた。

 大穴から下を狙っていたスナイパーは、慌てて狙いをタケルに向け直して一発撃った。

『パン!』弾丸は、タケルの左側を大分外れて、壁の一部を破壊した。

 タケルが走り寄ると、女は銃を抱えて、三階へと階段を駆け上った。

『パン!』シンジの拳銃が火を放ったが、女の足元付近をかすめただけだった。


 三階への階段は、一階と二階を繋ぐ階段とは、対角上に離れた位置にある。三人が二階に揃った時、見える範囲で敵は誰一人居なかった。


 ヒロシはショットガンを、階段の三階に繋ぐ口へ狙いをつけて構えている。

 シンジが床の大穴を覗くと、下で体操座りをしているイチローが見えた。


「イチロー大丈夫か?」


「足を撃たれた」イチローが情けない声を出す。


「ちょっとそこで休んでろ」シンジが声を掛ける。


「悪いね」


「いいさ、任せとけって」

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