第182話 再戦 (テラ視点)
「もう一度、お願いします」
ニャーは目の前の執事に頭を下げる。
アルスも、ニャーの言葉に合わせて頭を下げる。
「この老いぼれとまたやりたいと?」
「セバスさん。貴方は老いぼれじゃありませんよ」
「もう七十の爺ですよ?」
「昨日も、一昨日も侵入者を捕まえましたよね。それを普通のご老人が出来ますか?」
「さあ、どうでしょう」
アルスとセバスさんが会話をする。
この屋敷にはよく侵入者が来る。
ここの主、ルイを狙いに。
ニャーとしては嫌いな人なのでどうなってもいいが、今はルイの奴隷状態。
反抗できないし、何よりアルスがルイを慕っている。
何処がいいのか良く分からないが、とりあえずニャーは反抗することなく軍門にいる。
「テラは気付いていた?」
「え、あ、うん。気配は感じたけど、その時にはすでに殺られていたニャ」
「だよね。自分も駆けつけた時にはすでに死体も無かったよ」
「まだまだだじゃ。もっと早く気付かなくては」
恐ろしく余裕の笑みを浮かべるセバスさん。
別に、過去に無謀に挑み片腕を切られた相手だからという理由だけではない。
その実力がニャーの何倍もあるかと思うと、底知れぬ恐怖を本能的に感じる。
そしてこの人が屋敷の中で二番目に強いという事実の方も恐ろしい。
あのルイが一番、次にセバスさん、アルスとレーナが同列。そしてニャーが続く。
ここにオールドさん(夏に一度来た騎士)が加わればルイと同列ぐらい。
そうなるとニャーは五番目以内にも入れない。
自信がないわけじゃなかった。
暗殺者の中では優秀な方であり、誰にも負けない自負もあった。
でも、この屋敷の中では護衛騎士よりは強いだけ。
上位には食い込めていない。
そういう意味でもっと精進しなければならないニャ。
「それで、何故もう一度戦いたいと?」
「もっと強くなるためニャ!」
即答する。
その答えにニッコリと笑うセバスさん。
次の瞬間、視界からセバスさんが消えた。
瞬きをした時には既にニャーの首にナイフの先を突きつけて今た。
「・・・この不意打ちを相打ちにしますか」
予測していたニャーは右手を戦闘モードにし、セバスさんの心臓に鋭い爪を突きつけていた。
「相手の行動を予測するのは暗殺者の基本です」
ニャーたちがいるのはルイのいない執務室。
セバスさんには仕事を片付けたところで声をかけた。
ニャーとアルスはいったん距離を取る。
そこまで大きくないとはいえ、公爵家の執務室だけあって十分な間合いが取れる。
セバスさんなら不意打ちをしてくる。
アルスの予想通りだった。
ニャーはアルスとアイコンタクトを取りながら、懐からナイフを取り出す。
準備していた十本のナイフを矢継ぎ早に投げ、それに続くように駆け出す。
セバスさんは五本避け、五本を弾く。
そこへ更にアルスがナイフを投げる。
「【ダーラク】」
アルスに教えて貰った魔法詠唱短縮で姿を消す。
この魔法は相手の視界が真っ暗になるものだ。
しかし、セバスさんは正面から不規則に投げられたナイフをいとも簡単に避ける。
その隙を突いて、背後に勢いよく回り、足を払う。
「お、これは予想外です」
セバスさんはニャーが隙を突いてガラ空きの背中を狙うと思ったらしい。
だが、それは相手もお見通しであると予測し意表をついた。
それでも、対処される。
足を払ったがそのまま倒れることなく勢いよく背中を反らして手を地面について勢いよく上へとジャンプする。
作戦通り真っ直ぐ綺麗に心臓を狙ったナイフは避けられ、更に隠しで放ったナイフも避けられる。
隠し持っていた全てのナイフが避けられてしまった。
「私も感覚魔法は使えますので、本気で殺しに来ても構いませんよ」
ニャーたちが投げたナイフは全て木製のナイフ。
人を傷つけるものではなく、ただの練習用。
「いいえ、最後のナイフは本物でしたよ」
アルスがセバスさんの挑発に返答を・・・・え、えっ!?
「ア、アルス!投げていたの!」
「うん、そうしないと倒せないと思ったから」
・・・やっぱりこの屋敷にいる人は怖い。
「本気でやるからこそ成長するものです。ところで、驚いた様子をしていますがテラちゃん。君も木製ナイフの一つに即死毒を塗っていましたよね」
「え、えっ!?」
今度はアルスが驚く番。
・・・まさか、バレていたとは。
ニャーもいつの間にか、この家に染まってしまった。
その後もう一度挑んだけど、本気を出されて瞬殺されてしまった。
まだまだ精進の日々が続くニャ〜
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