異世界貴族は家柄と共に！ 〜悪役貴族に転生したので、成り上がり共を潰します〜

第131話 交渉⑤

「学園を去る？」

「もう少し正確に言うなら、僕は一年ほど留学する」

目の前の四人は意味が分からず首を傾げる。

「余計分からなくなってきた。飛躍してないか。どうしてそういう結論になる？」

分からないか。

「あなた方が本当に監視したいのはリリスですよね？」

当然考察できることだ。

魔法協会は精霊術の存在を知っている。

であるなら、入学試験のときにリリスが使ったあれは明らかに魔法ではない別の何か。つまり、精霊術であると判断するはず。

普通の一般人なら、あれを見ても特殊な魔法だろうと勘違いをする。

当たり前だ。魔法が実在し、魔法が司るこの世界ではあっても、精霊や精霊術士の存在は架空のファンタジーであり想像上の人物としか認識していないのだから。

一方でリリスが精霊術士ではないかと疑った魔法協会、そして協会と通じた学園の一部の教師も大いに焦った。

彼らはこの世界に精霊や精霊術が実在していることを知識としては知っており、それがどれだけ危険な存在なのかを頭では認識している。

その精霊術師の疑いがある者を野放しにはもちろんできない。だからリリスを学園に入学させ、そしてSクラスに入れた。

Sクラスには入学試験で実力が認められた人間と、実力が見込まれる伯爵以上の生徒たちが集められている。だから、このクラスならばリリスの実力も容易に測れる。

さらに平民を軽んじる風潮が人一倍高い貴族の子弟たちの間に、平民出身だが生意気にも実力のあるリリスを一緒にすれば、もしかしたら喧嘩が起きるかもしれない。

そうすれば、精霊術の正体を知る機会も増え、データやサンプルも集められると、そこまで彼らは考えたかもしれない。

いずれにせよ、魔法協会が今一番警戒すべき、そして監視すべき最重要人物はリリスであることは間違いない。

精霊術の力の源である精霊が普通の人間には見えない以上、精霊術師の行動や戦い方から情報を収集しその力を見極めるしか手立てはない。

協会は学園内のリリスの監視者として、S組担任にアリオス、実戦監視にイルナを配置した。

だが、ここで突如大きな誤算が起きた。彼らの監視計画を邪魔するような別の生徒の登場、つまり、僕である！

「そこまで理解しているか・・・」

リリスの話を僕が知っていることに驚きを隠せなかったようだ。

そしてそのことは、相手にしてみれば交渉の最大の手札を取り上げられたようなものだった。

「ではなおさら疑問に思う。何故、君が学園を去ろうとするのか？」

「簡単なことだ。今はまだ魔法協会とは対立したくはないからです」

「どういうことだ？」

ここで魔法協会を公爵長男の暗殺未遂で訴えたり、全面戦争を仕掛け軍事力で潰そうとしたらどうなるか？

予想は簡単なことで、皇族が出てくる。

そして公爵家が力をつけるのを警戒している彼らは、ここぞとばかりに非ぬ罪を僕らに被せてくる。

そうはならなくとも、今は事を荒立てる時機ではないとアルスとレーナに忠告された。

「つまり、交渉だ。こちら側の要求としては、次の三つ。これ以上我々に手を出さないこと、無詠唱魔法及び今後もしかしたら作ってしまう新たな魔法の黙認、そして、あなた方魔法協会幹部の謝罪。この三つだ」

「・・・意外と少ないな」

「それから、こちら側から提供出来るものとしては、次の三つ。僕の留学による一年間のリリス監視期間の保証、我々がこれまでに入手した精霊術に関する情報提供、そして、僕の暗殺計画に対する訴えの取り下げ、この三つだ」

この交渉、実は僕らの方が有利だ。

留学なんて苦でもないし、情報だってほんの一部を奴らに渡せばいい。

一方、魔法協会が僕らに手出しが難しくなり、転移魔法も作れる！それに父の顔と家に泥を塗らなくていいし、今後、魔法協会との交渉の際にも強気に出れる。

相手も自分たちが不利だとある程度は理解しているようで、交渉の成立を渋る。

仕方ない、あれ、秘密兵器を出すか。

「まだ納得しませんか？だったらそうですね、可哀そうですからこれも譲ってあげましょう！」

そう言って、僕は表に文字の書かれた小さな石版をポケットから取り出して見せた。

「それは！」

「ダンジョンで拾ったものです。おそらく精霊語が書かれています」

ダンジョンで壁を壊したときに出てきた石版だ。

ゴーレムは何かを守る魔物。

僕が倒したあのゴーレムたちは、この石版を守ろうとしていたのだ。

「おまけで、これも付けてあげますよ。貴重な資料でしょ？！」

精霊語なんて、まずお目にかかれないシロモノだ。

喉から手が出るほど魔法協会も欲しいはず。

「本当にそれを我々に譲ってくれるのだな？」

「はい」

すでに精霊語は写し終えている。

他に使い道も無いから、この石板を渡すこと自体はためらいはない。

「・・・分かった。先の条件とこの石板の譲渡を合わせて今後の話を進めたい」

ようやく応じる姿勢になった。

それから小一時間ほど、交渉の詳細について双方話し合いでまとめていった。

「一個、確認がある」

交渉条件の詳細が整い、ようやくまとまりそうになった頃合いに、アリオスがこちらを向いて質問をする。

「アリオス君、もう少しで話がまとまりそうなのだが」

「お言葉ですが会長、一つだけ確認しておきたいことがあるのです」

「何だね？」

「どうやって留学をするのかということです。学園では、留学は三年生から行けます。一年生では、まだ申請は出来ませんので」

鋭い所を突くな。でも、それも想定内で織り込み済み。

「それについては問題ありません。すでに策は思いついています」

「どうするつもりだ？」

「簡単です。学園を休学になるような問題行動を僕が取ればいいんです。その場合、表向きは休学ですが、実際は留学という形にしてもらえれば」

「・・・ふむ。では、休学になるような問題行動とは何をする気だ？」

僕はニヤリとして言った。

「はい。リリスと僕が学園内で戦えばいいんですよ！」