第125話 嵐の前の静けさ (ラノルド視点)
「クソ、ルイのやつ!やりやがった!!!」
俺は届いた手紙を強く握りしめ、思わず机を拳で打った。
手紙の送り主は我が愚息、長男ルイだ。
手紙にはこれからすることの計画書と後処理のお願いが書かれていた。
「ほんとに、親泣かせな息子だ!」
本気でルイではなく弟のアルスにブルボン家当主の座を譲りたいと思う。
もちろん出来ないことは分かっているが。
コンコン
書斎のドアがノックされ、執事のセバスが入室した。
「セバスか。ルイの行動について説明してくれ!」
「急な質問ですね」
「当たり前だ!お前がいながら、これはどういうことだ!」
「そこまで熱くならないでください」
茶化してくるセバス。
当主としては強く出れるが・・・親子ほど歳の差があり、小さい頃から世話になっている老執事に口答えは出来ない。
「はぁ〜〜で、頼むから説明をしてくれ!」
俺は努めて冷静に尋ねたが、セバスは肩をすくめた。
「正直私もあそこまでやろうとしているとは、予想もしていませんでした。ルイ様と従者の二人が優秀なんですよ」
主人が主人なら従者も従者だ!
「アルスとレーナは止めなかったのか?」
「致し方ないと判断したのでしょう」
本当にどうかしている。
「セバス、お前はどうなんだ?止めれなかったのか?!」
「私もそこまで把握できていませんでした。ましてや、物語にしか登場しないあの存在が実在するなんて。人生最大の驚きです」
「あれについては、もちろん私は知っていた。だが、何故ルイがこの事を知っている!?」
だめだ、感情を抑えられない。
「いつからかは、曖昧ですが・・・今回の行動に至るまで、小さな兆しはありましたな」
「どこからだ?」
俺は尋ねる。
たしかに、言われてみれば自分自身、いくつか気になる点が頭によぎる。
それこそ夏の彼らのあの旅行も不可解だった。
直感で怪しいと思い、信頼できるオールドに同行させたが、何処に行ったか尋ねて見ても、旅行です、の一点張り。
さらに、学園での二学期以降のルイの行動。
転移魔法を開発していること以外は、珍しくほとんど何もやらかしていない。
むしろ、静かだった。
今にして思えば、まるで嵐の前の静けさのように。
「ラノルド様が考えている夏休みの件もそうですが、それよりずっと前から始まっています」
「そうなのか?」
「ええ、おそらく入学式あたりから」
「そこからか!!」
俺だって公爵家の者だから情報収集は造作もない。
学園のダンジョンでの例のトラブルの件も知っている。
だが、あれ以前から動き始めていたのか。
「他にも急に派閥を作り出したり、例のダンジョンの件の行動。全てが繋がっております」
どこからこのシナリオは始まっていたんだ?
「では、アルスとレーナが派閥を作ったのは、すでにこの件を予想して、ということか?」
「はい」
まさかあの二人もすでにこの結末を承知していたとは。
今から打つ手は・・・正直無い。
ここから帝都まで頑張って馬を走らせても一日半。
もうすでに事を起こしている頃だろうから、説得なんて無理だ。
傲慢な性格のあの息子に、ここまで俺が踊らされるとは思ってもいなかった。
息子だからと油断していたかもしれん。
「ラノルド様を超える逸材になりますね」
セバスがボソリと呟く。
「ルイだけじゃ無理だ。今回のことだって自ら責任を負って
「そうですね」
父である俺と長年見てきたセバスのルイに対する認識は、一致している。
「当主としてはまだまだだが、それでもあの二人、お前、そしてオールド、他の家臣たちも加わればもしかすると・・・」
「まあ、そこまで私が生きていればの話ですけどね」
自分のために取った行動が、結果的に誰かを助けることになる。
それをあいつは理解している・・・な訳ないか。
まあ、それがやつらしい。
「セバス、これからヨーハナの説得に行くぞ!」
「・・・私はこれで失礼します」
「おい、逃げるな!」
妻の説得。
これが最大の山だろう。
それをこの俺に頼みやがった。
「憂鬱だ。せっかく最近は優しく笑顔になってきたというのに」
だが、全力で説得するしか無い。
息子がやろうとしていることを、最後までバックアップするのが親の務め。
帰ってきたら絶対に説教はするがな!
そんな文句をぶつぶつ言いながらも、どこか息子を誇りに思っている自分がいた。
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