第117話 帝立学園祭準備③
学園祭当日の生徒の分担が決まった。
クラスの生徒は調理班と接待班に分かれた。
僕は出たくなかったが強制的に作る側となった。
文句を言うと、クラスのリーダーだからと言われるので口をつぐむしかなかった。
学園祭準備中、僕は帝立学園祭の実行委員会の会議に呼ばれた。
会議は大きな講堂で行われる。
各クラスからリーダーと副リーダーが集められ、総勢百人を超える。
僕は始めから話を聞く気はなかったので、いつものように本を持っていき、いつものように副リーダーのアルスに会議の事は任せていた。
僕らが到着してしばらくして会議が始まる。
「どうも、生徒会長のフレンス・デ・マルクルだ」
この学園の生徒代表、生徒会長が挨拶をする。
ちなみに生徒会長は生徒たちの投票で選ばれるので、選出法は前世と同じだ。
生徒会長の仕事は色々とあるらしいが、今のところ僕は興味が無いから詳しくは知らない。
「リーダーの方々に集まってもらったのは他でもない、帝立学園祭の予算についてです」
予算?
ああ、振り分けられる金のことか。
この学園は国の援助と卒業生や権力者からの寄付によって成り立っている。
権力者の寄付というのは、将来的に優秀な人材を優先的に雇えるから大きな商会などが行っている。
この学園に入学する生徒は将来貴族になる人間ばかりではない。
むしろ貴族になる者の方が少数だ。
どちらかというと家を継げない次男や三男、それ以下の立場の方が多い。
そういった人材を雇うために多額の寄付金を競うように行っているらしい。
「今回の予算は非常に逼迫している。何せ今年は昨年卒業された第一皇子殿下と皇后様、第四皇子殿下が見に来られる。これまで以上に学園祭を盛り上げなければならない」
生徒会長は話を続ける。
「もちろん、多くの寄付をいただいたがそれでも足りないぐらいである。学園の名に恥じない豪華な文化祭にしていきたい」
「チッ」
どこからか舌打ちが聞こえた。
そちらの方を見ると第二皇子が顔をしかめていた。
僕の視線の方向に気づいたのか、アルスがこっそりと教えてくれる。
「あの生徒会長、実は第一皇子殿下派なんですよ。今年は、その第一皇子たちが文化祭を見学しに来るわけですから、大いに盛り上げたいんですよ」
なるほど、そういうことか。それでさっき、第二皇子は舌打ちしたわけか。
ま、敵方を歓迎するような文化祭になってしまうからな。
???
「だが、何で生徒会長は第一皇子派から出ているんだ?」
「どういうことですか?」
「いや、こういう二つの派閥が拮抗して対立している時は、あえて中立派から候補者を出したりして、両者が直接対決しないようにするんじゃないのか?」
僕の疑問にアルスが答える。
「なるほど、確かにそうですね。ただおそらくですが、両者の派閥抗争がより激化したからじゃないかと思います」
「激化したから?」
「ええ。確かに言われてみれば、三年前の生徒会長は中立派です。ですが、第二皇子殿下が入学されてからは第一皇子派が、来年はおそらく第二皇子派が生徒会長を務めることになります」
おいおい、来年の生徒会長の話まで知っているのか。
まあ、ある程度調査をすれば推測は立てられるか。
「とりあえず、これから、より激化するということだな」
「はい、そういうことです」
頭の片隅には入れておこう。
どちらかが僕に頭を下げてくれば、付いてあげてもいいか。
その後、会議での話し合いの結果、今年の予算も昨年と同じ額と決まった。
昨年がどれくらいか分からないが、とりあえずアルスに計算をさせた。
「ルイ兄様、実施されるのは三日間。一日あたり提供できるパンケーキの個数は三百食が限界です」
僕は眉を顰める。
「それしか作れないのか?」
「ええ、材料費が高いんですよ」
材料費が?
「はい、特にベーキングパウダーが材料費の半分を占めています」
「はぁ、そんなに!」
僕は驚く。
「仕方ありません。ベーキングパウダーは最近開発された秘匿技術で作られるそうです。値段交渉はしました。が、いかんせん隣国ドルト王国での製造のためこちらも強気に出れませんでした」
なるほど、パンケーキが生み出されたドルト王国でベーキングパウダーも作られているのか。確かにパンケーキのふっくらしたあれは、ベーキングパウダーのおかげだ。
「で、そのベーキングパウダーが高いんだな?」
「はい、一個のパンケーキを作るのに材料費だけで1000ドールはかかります。これに他の費用をプラスして、大体値段は2000ドールほどかと。ルイ兄様が買収したあの店舗でも値段は1800ドールでしたし」
日本円で五万ぐらいか。
「まあ、値段としては妥当だが個数がな」
おそらく大行列ができるだろう。
パンケーキはそれだけ珍しく、大人気だ。
ふむ、ここでひと儲けして学園一番を取りたいな。
「ルイ兄様、まさか売上一位を取りたいんですか?」
「ああ、図星だ」
この学園祭の見どころの一つに、色々な賞が設けられている。
その中でも僕は売上一位を目指したい。
この賞は後々の実績になる。
僕を呼びつけた第二皇子も狙っているはずだから、奪い取りたいな。
そこで僕は妙案を思いついた。
最近、めちゃめちゃ冴えてきたかも!
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