第66話 決意・・・?
「な、何なんですか!あれ、魔法ですか?」
アルスは、会場中が思っている事を代弁するかのように聞く。
「私にも分かりません」
レーナはリリスを注視しながら答える。恐らく観察しているのだが、それだけでは精霊術を使っているかどうか分からないはずだ。
そう、この会場で今のリリスを理解できるのは僕ただ一人。
その僕自身も精霊を見ることは出来ない。
「何なんだったんだ、今のは?」
「消え、てたよな?」
「何か剣がずっしりとしていない?」
周囲ではそんな会話がなされている。
「あの〜終わりでいいんですよね?」
会場のどよめきをよそに、リリスは何も気にしていないような声で審査員に尋ねる。
目の前の出来事を理解できず、審査員同士で話し合いをしていたためか、受験者への対応を忘れていたらしい。
「え、ええ。どうぞ戻ってください!」
そう言われると、リリスはそそくさと帰っていく。
「ルイ様??」
僕が無言のまま真剣な表情でリリスを見つめていたため、訝しんだレーナが僕の顔を覗き込む。
僕は今、とても危機感を抱いている。
正直、聖級魔法を使える今の僕なら九割勝てる、と思っていた。
だが、今の戦いを見て五分五分だと感じた。
僕の魔法の威力は確かに凄い。だが、時間を停止され、重力で動かなくされ、風圧で押しつぶされたら、いっかんの終わりだ。
冗談ではない。
小説の物語中盤以降、そういう戦い方が実際に増えていくのだ。
リリスはこれから他の精霊とも契約し、多くの精霊術を駆使するようになる。
このままでは、勝てるかどうか分からない・・・
僕は席を立ち上がり、出口へと向かう。
アルスとレーナは何も言わずについてくる。
「糞っ!!」
僕は歩いている途中、吐き捨てるように呟いた。
ここに来たかいはあった。
相手の実力が分かったのだから。
ただ、同時に朝の嫌な予感は当たった。
これから学園に入学して、今まで以上に努力しなければならない。
対策を考え、体を鍛えておかないと負けてしまう。
ああー、面倒くさい!何故僕が頑張らなければいけないんだ!!
のんびりしたい・・・
いや、駄目だ!
僕の夢は成り上がり共を潰すこと!
血筋が、家格が。
貴族は家柄が全て、この世界は家柄が全てということを分からせなければならない!
それが、僕がこの異世界に生まれた理由なのだから!
「あ〜〜行きたくないよ〜〜」
帝都にある貴族最大の屋敷、ブルボン公爵邸。
一人の少年がのんびりと寝ていた。
「ルイ兄様、またですか?」
「ああ、行きたくない!」
「いや、今日は入学式ですよ!」
「いいじゃないか。僕は公爵家の人間なんだ。そんなのに出なくても問題ないだろう」
そんな呑気な発言をアルスは一刀両断する。
「駄目に決まっています。それを言うなら、公爵家の令息が出席しないことの方が体裁が悪いですよ」
「うぐっ」
言い負かされたルイは更にうずくまる。
「はぁ〜あの日のルイ兄様の発言は嘘なのですか?」
アルスたちの実戦試験後、公爵邸に帰宅した瞬間にルイは突然意気込みを叫んだのだ。
『絶対学園で一番になってやる!!!』と。
「あ、あれはな〜若気の至りだ」
「ルイ様はまだ若いです」
至極真っ当なツッコミをセバスが入れる。
「とりあえず、休みたい。やっぱ面倒くさいよ」
そんな発言をすると、セバスが突然泣き出す。
「う”う”、幼い頃のルイ様は何処に行かれたのですか・・・。毎日毎日、魔法と勉強をこなし、屋敷にいる者の期待の子であったのに。・・・まさか、私が坊っちゃま呼びを止めたからでしょうか?」
「お、おい!」
「そうです、そうに違いありません!なら、今日から坊っちゃま呼びをまた復活するしかありませんな!」
「おい、セバス!やめろ!」
「はい、何でしょう?ルイ
あからさまに坊っちゃまを強調するセバス。
中身が成人しているルイにとって、子供扱いするようなその呼び方は大嫌いだった。
そしてセバスも、ルイがこの呼び方をされるのが嫌いだと知っていた。
「お前、わざとだな!」
「は、何のことですか?ルイ坊っちゃま?」
「くっ」
流石にセバスに軍配が上がる。
「わかった、わかったよ!」
「何が、ですか?」
「ちゃんと入学式に行くよ。行くからその呼び方はまじでやめてくれ!」
「分かりました、ルイ様」
元の呼び方に戻され、ホッとするルイ。
中身が成人していようと、まだまだセバスには勝てないルイであった。
―――
長々とすいません。
少年編、明日が最終話です。
3/2
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