第32話 孤児院(アルス視点)
兄様が急に孤児院に行くと言い出した。
忙しい政務の中だったが、セバスさんも許可したためレーナと共に付いていくことになった。
「しかしどうして行かれるのですか?」
馬車に揺られて少しして自分は聞いた。
孤児院と言っても複数あるが、今向かっているのは街から北に馬車で一時間ほどの所。
洪水の多い地域のため領内でも特に孤児が多い。
しかし何故兄様が孤児院に行くのか不思議でならない。
兄様は良く言って・・・非常に誇り高き人で、自分の憧れの存在だ。
でも、家柄やらの身分を気にする人だ。
改めてブルボン家の一員となり弟になった自分にさえ、一部下として扱ってくる。
別に気にはしていないが。
つまり、家柄絶対の兄様が何故親もいないこの世界では最底辺の身分の孤児の所に行こうとするのかだ。
兄様は窓に肘を付けながら答えてくれる。
「ん?ああ、説明していなかったな。僕が孤児院に行くのは将来のためだ」
「将来?」
「ああ。将来当主になった僕は父上から家臣を受け継ぐ。だが、それは父上の元家臣であるとも言える。だから、自分の昔からの家臣が欲しい。お前らのような奴らを」
つまり、家臣が欲しいと?でも何故孤児院に行くんだ?
「普通に召し抱えるのもいいが・・・それは領地経営が落ち着いてからでいい。それより、一から家臣を育てたい。だから孤児院を買った」
孤児院を買った・・・・・・
「「買った!!!」」
自分とレーナは思わず声を上げる。
「何をそんな驚く?安かったぞ」
兄様、そういう問題では無いのですが・・・
「とりあえず、自分の買った孤児院をこれからも定期的に見に行く予定だ」
「・・・分かりました。しかしどの様に運用していくおつもりですか?」
問いかけると奇妙なものを見る目をする。
「お前、そんな事を聞いてくる辺り九歳じゃないぞ」
「ルイ兄様にだけは言われたくない!」
「お二人共。馬車ではお静かに」
レーナが諫める。
「冗談だ。運用?詳しい方法はまたしていくが、とりあえず何かしらをやらせる。その中でも使えそうな、剣術や魔法に興味を持ったものを屋敷に呼んで訓練してもらう。商人になりたいやつや官僚になりたいやつは学校にでも行かせる。そうやってやりたいことをやらせ、その中でも有能なやつを家臣にする」
なるほど、兄様らしい考え方。
自分の為にお金を使い将来に備える。
身寄りのない孤児たちを支援すれば簡単に兄様を慕うだろう。
昔、孤児と遊んでいた自分はそう考えた。
「いいやり方ですね」
自分は感心したがレーナはいまいち不服そう。
まあ、元善良貴族の娘であったレーナにとって孤児を自分の為に育てて、未来を勝手に決めるのは納得が行かないのだろう。
「レーナ。その顔はルイ兄様に失礼です」
「・・・すいません」
諫めると頭を下げた。
「二人共、喧嘩はするな」
「「はい」」
それから少しして目的地に着いた。
目的の孤児院は小さな町の外側に位置しており、近くには所有の農地が広がっている。
大きな宿舎は柵に囲まれており、中の広場で同年代や歳上の子供たちが遊んでいた。
「ようこそおいでくださいました」
馬車で門の前に着いた自分らを出迎えてくれたのは初老の女性。
黒い修道服に身を包み、白いベールで頭部を包んでいる。
「わたくしがこの孤児院を任されております、モンナと申します」
「うむ、そうか。この孤児院について簡単に教えてくれ」
「は、はい。では中へ―」
「いや、この場で教えてもらおう」
「・・・ですが、」
公爵令息でこの地一帯を治めている兄様に、立ったまま話を聞かせるのを遠慮するモンナさん。
「ルイ兄・・ルイ様がこう申しているので大丈夫です」
「・・・分かりました。この孤児院に預けられている子供たちは、十歳以下が七割以上を占めております。下は0歳上は十七歳までおり、基本的には農業の手伝いなどで生計をたてています」
孤児院の経営はどこも同じで常にぎりぎり。
食べざかりの子供が多いのに、働ける人が少なく領主や町、卒業生の支援がないと成り立たない。
少しでも生活を満足させるために孤児院所有の農地なども持っているが、常に孤児がくる以上いつだって生活はぎりぎりなのだ。
「今いる孤児の子共達の半分は三年前の大洪水で両親亡くした子たちです。親がいなくてもこの子達は真っ直ぐ生きようとします。どうか寛大なご支援をお願いします」
モンナさんは深々と土下座をする。
それに兄様は簡潔に答えた。
「分かった」
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