第23話 話し合い

「昨晩は良くお眠りになられましたか?」

「それはもう、ぐっすり眠りました」


僕はニッコリと笑って言う。


「ただ、大きな虫が出たようで、部下たちはゆっくり眠れなかったらしいんですよ」


遠回しに牽制すると相変わらず青筋を立てて睨みつけてくる。


「それはお気の毒に」


黒と白の正装に身を包み謝罪をしてくるアルマー家当主、ウッデン・デ・アルマー。脂の詰まった腹に似合っていないきらびやかな指にはめた指輪達。

まさに豚に真珠の風貌をしている。


豪華な客室で対面しており、相手は自分の護衛と執事を、僕はセバスとレーナ、オールドを連れている。


「して、今日は一体どの様なご要件で?」


ガキだからと舐めているのか、はたまた何か自信があるのか。僕らを値踏みするようにこちらを見てくる。


「そうですねぇ〜、まあ、そう慌てず」


まあ、相手にどんな自信があろうと関係ない。


こちらは慌てずゆっくりと話を始める。


「実は数日前、御宅の御子息が我がブルボン公爵の屋敷に不法に侵入してきまして。さらには私に決闘を申し込んできたんですよ」


ウッデンの反応を見ながら話をする。


だが、意外にも反応を全くしない。


「まあ、私が一瞬で倒したのですが・・・これは明らかに責任は親にありますよね。不法侵入に位の高い私への不敬罪。どう責任を取るんですか!」


声を大にして追求する。


それでもウッデンは動じていない。


だが、少しして不敵に笑い出す。


「ははは、ブルボン公爵家の嫡男様ともあろうものが嘘がお上手ですね」

「は?」

「私には息子などいませんよ。ほら、この通り」


そう言うと、隣に控えていた執事が何やら紙を取り出した。


こちらに渡してきたので見てみると、それは国が発行した家族構成が書かれた物だった。


その紙にはウッデンとその妻、妾三人娘二人としか書かれていなかった。


「このように私の家族に息子は実在しません。たしかに、元息子であるダンはいましたが、事件が起きる前に絶縁していますよ」


そう言ってまた別の紙を取り出す。


そこにはダンが家に乗り込んでくる五日前に、絶縁したと記された国からの証明書を出した。


「ほら、この通り。我々には一切関わりのないことであります。何ならダンをここに呼んで聞いてみれば良いでしょう。ただし、もし貴方達が間違っていれば・・・どの様な責任をおとりになるのですか!」


大きな声を上げて言う。


正義を得たとばかりに強気な発言。


そして、レーナを睨みつけ、もう一度こちらに向き直る。


「そこの奴隷に貴方が何を吹き込まれたか知りませんが、信じないほうが良いでしょう。どうせ元伯爵令嬢といえど今はただの汚らわしい奴隷。嘘を吐いたかも知れませんよ」

「まあ、確かに」

「ですから我々に非ぬ疑いを掛けるのは止めてください。お父様のお顔に泥を塗りたくないのでは?」


流石貴族なだけある。逃げ方が上手い。


「そうだ、そこの奴隷を私にくださるのでしたら今回のことは何も追求しません」


そう言って立ち上がりレーナへと歩み寄る。


重そうな腹を揺らしながら近づき、怯えて俯くレーナの頭に手を掛ける。


「貴様のような落ちぶれたやつはそれが良いに違いない。子供には勿体ない体つき。ぐふふふ」


歳の割に膨らんだ胸を舐め回すように見ながら下品な笑いをする。


レーナは怖くて涙を流す。


「お前の両親はきっと生きているかもわからない。捨てられた可哀想な娘だ」

「・・・違い、ます」

「何が?」

「父様も母様も私を捨ててなんていない!」


キリッとした目でウッデンを睨む。


「ふん、現実がわからん小娘め。だがその反抗的な目、嫌いじゃないぞ。ぐちゃぐちゃにしたくなるぐふふふ」


そう発言して下品な手をレーナの尻に伸ばそうとしたところ既のところで彼女に叩かれる。


「さ、触らないで!」

「な、無礼な!奴隷ごときが侯爵である私の手を叩くなど!」

「きゃぁ!」


怒ったウッデンは思いっきりレーナを押した。体は決して強くないレーナはそのまま地面に体を強く打つ。


「ったく、ルイ殿奴隷の教育が行き届いておりませんぞ」

「いやはやすいません」


僕は恭しく頭を下げる。


「レーナ早く立って謝れ」


冷たく命令する。


だが、彼女は僕を殺気のこもった目で睨みつけ立ち上がる。


そしてそのまま足早に部屋を出て行った。


「はぁ〜すいませんね〜私の奴隷が。すぐに連れ戻します」


セバスとオールドに話し相手になっているように頼み、僕は席を立ち上がってレーナの後を追った。

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