第2話 義理の母たちの来訪


 中央にいるのは、四十代程度に見える女性……女性、女性なのかしら……花柄のワンピースを着ているから多分女性だと思うの。胸も、膨らんでいる気がするし。

 膨らんでいるといっても、これは何かしら……筋肉なのかしら、筋肉の膨らみのような気がしないでもないのだけれど。

 金色の巻き毛に、ばしばしのまつ毛、紫のアイシャドウにはギラギラのラメが入っている。

 瞬きするたびにばさばさいいそうなほどに長いまつ毛に縁取られた瞳は、エキゾチックな紫色。

 ふっくらした唇は真っ赤で、妖艶な美女の特徴はあるのだけれど、妖艶な美女というよりは、ムキムキの筋肉、という姿のそれはもう筋肉質な方だ。


「あなたが、ラシェルちゃんね、はじめましてぇ! アタシが新しいお母様の、ファブリスよ!」


 真ん中の女性が、掠れた低い声をすごく頑張って高くしているような声音で言う。

 お母様は、ファブリスさん。男性の名前よね。


「ラシェル、はじめまして。俺が、お姉様のジョルジュだ」


 ファブリスさんの横にいる、黒い癖のある髪の女性……女性……? が言った。

 女性にしてはとても髪が短いわね。

 そしてファブリスさんのようにお化粧をしていない。素材そのままの姿だ。

 服装を変えればきっと、若い騎士の方に見えるのだろう。顔立ちは精悍で、体躯も立派だ。

 けれどワンピースを着ている。

 黒髪の女性もまた筋肉質だった。黒いワンピースから覗く剥き出しの腕が、丸太のように太い。筋骨隆々という印象で、今にも胸のボタンが弾け飛びそうなぐらいに、お洋服がぱつぱつだった。

 お姉様の名前は、ジョルジュさん。

 男性の名前ね……。

 

「ラシェル、はじめまして。僕が二人目のお姉様のリュシアンだよ」


 ファブリスさんの横にいる、眼鏡をかけた銀色の艶やかな髪の女性……女性、……女性とは、一体何だったのかしら。

 ともかく、その女性がにこやかに言った。

 こちらの方は二人よりもやや細身だけれど、背が高い。

 見上げるほど背が高くて体格が良い。おそらく女性用のロングスカートのワンピースが、ミニスカートのようになっている。剥き出しの脚はすらりとしているけれどしっかりと筋肉がついている。

 顔立ちは美しいけれどこちらも素材そのままで、どこからどう見ても女性には見えない。

 たおやかな学者肌の男性、という印象だ。

 リュシアンさんが、二人目のお姉様。

 男性の名前……だけれど、女性なのよね、きっと。


「ラシェルちゃん、聞いたわ! ダルセルの乗った船が……」


「……お父様の船、遭難してしまったと、今連絡をいただいて……お父様のお手紙が、ここに。新しい家族と、仲良くするようにって、書いてあります」


 目にいっぱい涙を浮かべて言うファブリスさんに、私は手紙を差し出した。

 どうしたら良いのかしら。全員男性に見えるのだけれど。

 それは私の見識が狭量というだけで、お母様とお姉様とお姉様なのだから、きっと女性なのよね、きっと。

 男性に見えるのだけれど、女性なのよね。どう見ても男性に見えるのだけれど。

 よくないわ、ラシェル。

 女性だと言っている方々を男性だと思ってしまうなんて、偏見よね。


「ラシェルちゃん、新しいお母様と、姉たちよ。今日からよろしくね!」


「は、はい……!」


 ファブリスお母様が両手を広げて私を抱きしめてくるので、私は、思わず頷いていた。

 そうして私には新しいお母様とお姉様が二人、できたのである。

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