第49話 最終奥義

 ミレイムは動揺を隠せなかった。自身の攻撃手段は魔法のみで、格闘は得意としない。ライトのそれは魔法の無効化を意味し、そして自身の敗北を意味していた。


「言っただろ、ライトは俺達と戦ってやっと互角だって」

「うん、今なら分かる」


 息を整えてミレイムを見る。その表情には焦りが見え、負ける可能性を考慮しているようにも見えた。

 しかし、まだ勝ちを確信仕切れない。なぜなら、全ての事象にはデメリットが付き纏うからだ。そのデメリットは、時間制限と体力の上限にある。

 そもそも、俺のスキルは手から離れた場合十秒でその効果が消える。つまり、魔力の巻き込みも停止するということだ。そして、魔力の巻き込み量は、そのスキルにおける魔力の使用量に相当する。つまり、十干の度が上がるほど使用量も増え、巻き込み量も増加する訳だが、多少なりとも体力からエネルギーを奪っていく。そう、巻き込みをしようと連発してしまっては、いつか体力が切れてしまう。この両方の隙を突かれてしまうと、守りは決壊する。


「そうか、そうか……ならば、防御させなければいい話だ」


 瞬間、真下の巨大な魔法陣が現れた。


水火スイカ

「凝堅・


 矢を地面に撒いた。その時、真下から刃のような水が押し寄せる。俺は凝堅を絶えず発動し、前進し続ける。

 しかし、その一瞬でミレイムは次の攻撃を仕掛ける。


水弾スイダン


 前方から凄まじい勢いで水の粒が飛ぶ。それは雨や水鉄砲に例えられるような物ではなく、それは銃弾と言っても遜色なかった。

 それを見切り、矢で全てを防ぐには粒が小さすぎた。たちまち体から点々と血が流れた。余りに防戦一方。攻撃する余地は少ない。遠距離攻撃に対し、遠距離攻撃しか攻撃方法を持たない人間は、格上との戦いに置いて圧倒的な不利である。しかし、ライトはそうでない。一つだけ近接攻撃を持っており、それがライトの実質的な切り札だった。

 とは言え、それはライトにとって意思に反するもので、弓兵としての誇りや倫理を全て無視したものだとも言える。スキルの応用からは飛躍した応用でもあり、何より失った後では戻れないということが難点だった。しかし、この状況を打破するもの、ミレイムを討つ可能性のあるものはこの方法ただ一つであり、早期決着という意味で最適かもしれなかった。

 傷口に水が染みる。そして無数の穴から血が流れ、黒のローブは赤みを帯びて更に黒く染まっていく。その中で俺は葛藤した。葛藤するまでもなかったが、それが、どれほど冒涜的か認識していたが故の行動であった。


「冒涜的? いや……」


 ここで死ぬ方がよっぽど冒涜的だ。だとすれば、と思えば迷いは吹き飛んだ。

 一歩、また一歩とミレイムへ距離を詰める。ミレイムには下がったり逃げる余地はない。なぜなら、少しでも攻撃の手を休めれば反撃され、あの腕のように一瞬にして身体が吹き飛ぶと知ったからだ。

 しかし、身体にまた一つ、また一つと穴が開く。血は流れ続け、後ろには血の道ができていた。足取りも力のあるものではなく、ゾンビのように片足を引きずり、片腕は関節をやられ動かず、絶えず右手は攻撃を常に防いでいる。


「一閃・


 隙を突いて目の前に矢を振り撒いた。水弾に当たった弓は一閃の効果を得る。そしてミレイムへ閃光の如く放たれる。ミレイムは魔法で防御するが、魔法を餌とする一閃が止まることはない。一本が腹部へと命中した。その瞬間、ミレイムの攻撃が止んだ。


「小賢しい真似を……」


 ミレイムは腹部を手で押さえ、攻撃の速度が極端に下がった。源人だからと言って、元は人間であり、狂人的な回復力はなかった。俺はすかさず近付き、手を伸ばせば届く距離までに到達した。そして、左手にあった弓を右手に持ち換え、大きく腕を振り上げた。


「一閃・凝堅・癸。これが俺の最終奥義、弓槌キュウツイだ!!!」


 その一撃は、瞬きよりも一瞬だった。極限のスピード、そして極限の質量による打撃。弓はミレイムの顔面に直撃し、抉るようにしてその身体を吹き飛ばした。

 それを一瞥すると、力尽きたように地面に無防備に倒れ込んだ。今までにない程の疲労感、失血量。意識はとうに保てるキャパシティを超過し、朦朧としていた。

 そんな中、誰かが俺の名前を呼びながら声をかけるのが聞こえた。


「ライト、ライト!! しっかりして!! 今治すから、お願い、死んじゃやだよ!」

「喜んでる暇ねぇぞ。さっさと治さねぇと本当に死んじまうかもしれねぇ。治癒魔法は得意じゃねぇが俺も手伝う」

「私たちはミレイムが起き上がらないよう見張っておくわ。ミラ、あなたは魔法軍の様子を__」


 そこで意識は途切れた。そこから先のことは空洞になったように思い出せない。しかし、目覚めた時には全ての脅威が去っていたことがはっきりと分かった。

 俺が実際に起きたのはあれから三日経った朝のことだった。


「ここは……どこだ?」


 見知らぬベッドの上だった。部屋は全てが木造で、部屋には左の上方、隅の方に小さめのタンスとその右に扉、天井には照明、左右の壁には窓が取り付けられている。そして、窓の外はただ清々しい平原が地平線まで広がっていた。

 すると、扉から誰かが入って来る。


「おやおや、ライト君起きてるじゃ〜ん?」

「えっと、どちら様で……?」


 俺にこのような知り合いはいない。となればソライン家と友好関係のある人物となる。そう言えば、東側のルートを選択する前にその話が出ていた。確か名前は__


「おっと、まだ初対面だったね。いやあ、何日も世話してたら礼儀を欠いてしまったようで、ごめんね!」


 藍色の髪を持った金眼の男は手を合わせて謝る。身長は高く、フェノーと並びそうだ。そして、半袖のその腕や、顔にある無数の傷、強靭に鍛え上げられた身体。その様子からは戦士としての風貌を感じた。


「僕はウェン・スターロウ。気軽にウェンって呼んでくれよな!」


 それから、俺はこれまでの経緯を聞かされることとなった。

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