第27話 メーデゥも同行していいのか?

「私はですね。ちゃんとわかってましたよ」


 先に食事を終わらせ、食堂で待っていたペイジに事情を説明したあとの反応だ。誤解が解けて一安心だとハラディンは思っているが、実際は違う。ロリコン疑惑は残ってしまっている。完全に疑惑が晴れるのは、もっと先のことになるだろう。


「これ美味しい」


 騒動の中心だったフードをかぶっているメーデゥは、白くてふわふわしたパンと肉を口の中に詰め込んでいる。


 顔を隠していることに疑問を感じる人もいるが、見た目がお恐ろしいハラディンがいるので声はかけてこない。厄介避けとして機能していた。

 

「ハラディン様、今日のご予定はありますか?」


 紅茶を飲んでいるペイジが質問をした。


「ない。二人でのんびりと過ごす予定だ」

 

 フォークに刺している肉を口に入れ、数回噛んで飲み込む。


 たっぷりと香草が使われていて深い味わいだった。パンの質も良く、この港町が豊かな場所であると食事からも伝わってくる。


「それでしたら私とパーティーに参加しませんか?」


「主催は誰だ」


「バックス港町の領主です。新しく男爵に叙任される方のお祝いをされるそうですよ」


「ほう。それはめでたい話だが……お前みたいなのがどうして呼ばれる? 何か企みがあるのか?」


 禁制品を取り扱う商人が表立って貴族と接触することは、ハラディンの常識からすれば考えられない。顔が売れてしまえば商売がしにくくなるからである。


「実はですね……」


 周囲を気にして声を潜めたペイジの顔がハラディンに近づいた。


「とある方のご紹介で、ついに私も貴族様とのコネクションが作れるようになったんです。今回の商談が無事に終われば、例のブツは二度と扱いませんよ」


 リスクが高い仕事は長く続けられない。誰かに殺されるか、もしくは捕まるかで、早期に終わってしまうからだ。


 特定の組織に所属していない商人であればなおさらである。


 どこかのタイミングで卒業しなければならない。


 ペイジにとって、今回のパーティーがそれだったのだ。


「理由は分かった。だが、急に人数が増えても大丈夫なのか?」


「元々護衛を二人付ける予定で話を進めておりましたから問題ございません」


 魔物とハラディンに殺された人間のことだ。バックス港町に戻れば彼らも、まともな生活に戻れる予定だった……が、彼らは運がなかった。


「メーデゥも同行していいなら前向きに考えよう」


「リスクはありますが、今回ばかりはハラディン様の力が必要なのでなんとかします」


 魔物付きが護衛だったとバレればペイジは破滅する。


 社会的に殺されるだろう。


 それでもハラディンを会場に連れていく必要があるのだ。


「会場で何かが起こるのか」


「さすがに気づかれてしまいますか。実はパーティーが襲撃されるという噂……いや、計画があると知れ渡っているんです。どうやら叙任された男爵様を狙っているようで、事件の阻止および犯人を捕まえれば、大抵の願いは叶えてもらえるんです」


 昨晩再会したクレイアの計画が漏れていた。


 戦友に伝えたいが連絡先は知らない。


 偶然の出会いに期待するにしては時間が少なく、失敗に終わる。彼女を助けるためには、依頼を引き受ける以外の選択は存在しなかった。

 

「それがお前の言っていた商談の内容か」


「さようでございます」

 

「まともな服なんて持ってないぞ」


「そのぐらい、すぐにご用意いたします。もちろん変装用の道具もです」


 断る理由がすべてつぶされてしまった。


 人生を賭けた大ばくちに、どうしても同行して欲しいという強い意思を感じる。巻き込まれる方はたまったものじゃなく、いつものハラディンであれば立ち去っていただろう。


 しかし今回はクレイアが絡んでいるから参加するしかない。


 手厚い対応は喜ぶべきことなのだ。


「いいだろう。この依頼は受けていい」


「ありがとうございます!」


 断られると思っていたペイジは安堵した。ハラディンから離れて紅茶を飲む。


 大きな交渉を終えた後なのでいつもよりも美味しく感じた。


「で、報酬は?」


「金貨十枚でどうでしょうか。さらに前金で金貨一枚お渡しします」


 たった一晩を護衛する相場としては破格で、平民が数ヶ月は過ごせる金額だ。自給自足生活をしているハラディンたちなら一年はもつだろう。


 だが金を得ることが目的ではない。彼らにはもっと必要な情報がある。


「金は十分だが、報酬をもう一つ追加させてくれ。魔物付きが集まる村の情報が欲しい。噂レベルでも構わんが知っているか?」


 自然とペイジはメーデゥを見ると、肉を口に入れながら嫌な顔をされた。


「なに?」


 首を横に振って気まずそうにしながら、ハラディンに視線を戻す。


「そんなものがあれば、すぐに滅ぼされているはずです。私は噂すら聞いたことがございません」


「どんな些細なことでもいい。何かないか?」


 あえて知らないと言ったら食い下がってきた。


 魔物付きの情報はハラディンにとって重要なことだと理解する。


 今晩は何が起こるか分からない。彼を必死に働かせるのであれば、求めている情報が手に入るかもしれないと期待させることも必要だ。ペイジは損得計算をしつつ、慎重になりながら話す。


「そうですねぇ、他の商人に聞いても同じ答えをするでしょう」


「やはりそうか……」


「ですが、支配している地域の情報が集まる貴族なら知っているかもしれません。今回の商談が上手くいけば、それとなく聞いてみましょう」


「それでいい。仕事は引き受けるから頼んだぞ」

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