07 オネイロス

マイちゃんに装備を取り付け次の街へ向かうことを決めた私たち。


『そう言えばあのハゲが言ってたけど、マイちゃんの誕生日ってもうすぐなの?』

「うーんとね……明日?」

首を傾げて重大は発表をするマイちゃん。な、なんだってー!これは盛大に祝わねば!とりあえず街で何か買って……その前に稼がなきゃ!やっぱ異世界なら冒険者?絶対に凄いプレゼントを買わなくては!


そしてふと考える。私が単独で依頼を受けるわけにはいかないよね……マイちゃんと一緒に冒険をして、素材とか依頼報酬とかで稼いで、そして買い物をマイちゃんがする……なるほどね。普通だ……


今後マイちゃんと冒険をするのならそれは誕生日だからではなく普通の行為となるだろう。そこになんら特別感は……ない!

じゃあどうする?何か私だけができる特別な……


『マイちゃん。誕生日に何欲しい?』

「ん?」

『何かしてほしい事とかでもいいけど』

「うーん、そうだ!さっきみたいにママといっぱいおそらをとびたい!」

『はい!喜んでっ!』

なんて良い子!これなら私が何時でも叶えてあげられる!いや誕生日だからね!記念に残る演出を……


『マイちゃん、ママ行くとこあるから……』

「どこにいくの?」

私はまたも首を可愛く傾げるマイちゃんを『影の手』で抱えると『鑑定眼』で安全確保済みの木の上へとそっと乗せる。これで少しの間であれば大丈夫だろう。私はマイちゃんに『絶対に大丈夫だから、ちょっとだけ待ってて』と断り、一気に館まで飛び戻った。


そして数分後、私の『影の手』にはしっかりと館の白いカーテンが巻き付けられていた。

そのままマイちゃんを抱き寄せながら地面へと降りる。


『マイちゃん大丈夫だった?』

「うん!」

よしよし。何事もなかったようだ。分かってはいたけど確認は大事。私は自分の体にカーテンを結ぶ。くるくるとロールするように巻いていき、無事マイちゃんの専用席の準備が整った。


『マイちゃん!ここ乗ってみて!』

「うん!」

私の体に巻き付けられたカーテン。その上に小さな足を上げてまたがるマイちゃん。そして私はマイちゃんを『影の手』で優しくホールド。これで準備は整った!


『マイちゃん。お尻痛くない?』

「だいじょうぶ!いたくないよ!ねえママ、これは……とべるってことだよね?」

『そうだよ!今度こそ本当にビューンって飛べるからね!』

「ママ!すごい!おそらー!」

私は今度こそ失敗は許されない。さっきから何度もマイちゃんを抱き上げて浮かんでいるんだ。まったく問題はないだろう。それでも少しだけ緊張しながら浮かび上がる。ゆっくりと木々の上の高さまで浮かぶ。


「そら!たかいよママ!」

『高いねー!じゃあビューンって行っていい?』

「う、うん。でもママ、またごろーんってなって落ちない?」

『こ、今度は大丈夫!ちゃんとママが掴んでるからね!』

そうだった。あの時だって『影の手』でしっかり包んであげれば落ちることもなかったのでは……そう思うと少しだけ落ち込んでしまう。だが今は違う!最高の空の旅をお届けする自信はある!


私は顔にかかるマイちゃんのお尻の圧を良い感じに楽しみながら、街の方をめがけて少しづつ加速していく。そして私とマイちゃんは……風になったのだ!


「きゃーー!」

大空の上、マイちゃんが声を上げる!悲鳴ではない。めっちゃ笑顔であろう声ではしゃいでいるのだ。途中ゆっくりと横に輪を描いたり縦に大回転してみたりとジェットコースターを思い浮かべて空の旅を演出していた。

その度にマイちゃんは「わほー」とか「きゃふー」とか不思議な声を漏らす。ちょっと興奮する。何はともあれ楽しんでるようなので私も嬉しい。


途中ぐるぐると横回転しならが飛ぶ錐揉み回転をすると「ふわわわ」とまた不思議な声をあげるので慌てて止める。感想を聞くと「ちょっとびっくりしたけどたのしい!」との返答だったのでこれもまたレパートリーに入れておこう。そう思った。


あっという間に街の近くまでは来たものの、そのまま縦横無尽に行ったり来たりを繰り返し空の上を楽しむ二人。気づけばお昼を過ぎマイちゃんの可愛いお腹がご飯を所望していた。そういえば朝食もまだたっだことに気づく。

私は上空で停止してマイちゃんに声をかける。


『マイちゃん。そろそろ街の方におりてみる?』

「うんいくー!」

その言葉に私は街のすぐそばの開けた場所に降り立った。


「とう!」

可愛い掛け声で地面へ降りるマイちゃん。

少しだけ周りの視線を感じる。


そりゃそうだろう。可愛い少女がモップに乗って空からおりてきたのだから。私は冒険者として稼ぐことになるだろうことを見越して、少女だからと舐められないようにその能力を見せびらかすことに決めたのだ。


『じゃあマイちゃん。ここからママはあまり大きな声で話さないようにするからね』

「うん、わかった」

私の小声の『念話』に小声で答えるマイちゃん。可愛い顔を近づけてくるので思わず抱きしめたくなっちゃうから困る。


本当はマイちゃんのために食堂とかに行きたいんだけど、お金は何も持ってきてないからね……やっぱりハゲからいくらか譲ってもらうべきだったか……私がちゃんとしなかったからマイちゃんタダ働きになってしまった。


しかし落ち込んでいる暇はない!

とりあえず私はマイちゃんの背中の鞘に……ちょっときついな……とう!私は捻りを加えその鞘に自分の柄をねじ込んだ。なんだか締め付けられる感覚になるが、まあそれはそれ。今は我慢しよう。

これでマイちゃんはモップを操る大魔導士に見えるだろう。


『じゃあ行こうか。冒険者ギルト』

「うん」

鞘に収まったことで丁度マイちゃんの耳元に近くなっていい感じに『念話』で話すことができる。そして多分あるであろう冒険者ギルドを目指す。


マイちゃんは街に向かってテクテクと歩いて行くと……なるほど検問があるんだね。目の前にはおそらく街をぐるりと守っているであろう壁にある入り口を見つけた。とりあえず行くしかなさそうだ。


『マイちゃん、あの門のところにみんな並んでるでしょ?あそこに並んだらいいみたいだよ』

こくりと頷くマイちゃんはその列の後ろに歩き出した。


「こんにちは、お嬢ちゃん。ひとりで来たのかな?」

「うん。あっちのおやしきからおいだされちゃったから、まちにいれてくれますか?」

いい!とってもいいよマイちゃん!私はそのマイちゃんの一生懸命説明する姿にテンションが上がって思わず鞘から飛び出しそうになった。それは門番の兵士の方も同じだったようだ。


「そうかそうか!あっちと言うとウシャスの街の方だな!そんなひどいことする奴にはお仕置きが必要だな!」

えっ?それは困る。


「あのね?マイ、おなかすいちゃったからぼうけんしゃギルドってところいきたいの」

「お腹すいてるのか!それは困った。よしちょっと待ってろ!」

あの流れで色々調べられてマイちゃんと私で屋敷を燃やしちゃった事とかバレると面倒になるかも?と不安ではあったが、マイちゃんの機転で難を逃れることができた。やっぱり可愛いは正義だ。


「よし。これならお嬢ちゃんも食べられるかな?」

「これ、もらっていいの?」

「ああ、いいとも!これは同僚からもらったんだけど、おじちゃんお弁当もってきてるから食べきれなくてな!」

「わーい。ありがとう!」

あれはなんだろう?見たことのない果物?マイちゃんの手のひらにギリギリのるぐらいのサイズだけど……うーん。まっかなはっさくのような見た目。とりあえずマイちゃんは喜び門番はデレデレしている。分かるよその気持ち。


「よし!あっちに座って食べるといいよ。食べ終わったら街に入っちゃっていいからね」

「はーい」

タタタと小走りで言われた場所へかけてゆくマイちゃん。そしてテーブルと椅子が設置されている場所へたどり着くとそこには休憩中なのか若い兵士がひとり座っていた。


「ここにすわってもいいですか?」

「ああ、いいよ!おすわり」

マイちゃんはちゃんとその兵士に確認をとり開いている席へと座る。そしてその真っ赤なはっさくのような果物の皮をむき始めた。中は桃のような見た目かも……マイちゃんはそれにかぶりつく。


「美味しいかい!」

「うん」

デレデレしてる若い兵士。あまりにデレデレしているので私は少しだけ警戒している。いつでも鞘から飛び出す準備はできている。


「お嬢ちゃんはここに一人で来たのかい?」

「うん!あっちのおやしきでメイドをしてたけど、れいぞくされそうだったからにげてきたの」

「ぶふっ!」

「きゃ!」

予想外のことを告げられたからか、その兵士は飲んでいた飲み物を口から噴き出してしまう。マイちゃんがびっくりしたようだが、私は咄嗟に鞘から飛び出てその飛沫を全て弾き飛ばしていた。

足(柄)についたそれがちょっと気持ち悪かったので、『浄化』をかけておく。ばっちいからね。マイちゃんの手についたら死んじゃうかもしれないし、汚物は消毒だー!


「ご、ごめんね!でもすごいね。とっさにそのモップでガード?したんだよね?」

「う、うん」

「あっ、じゃあさっきみんなが噂してたモップ使いの少女ってお嬢ちゃんかい?」

「うーんそうかも」

マイちゃんの返答にその兵士はうんうんと納得していたようだ。しかし噂広がるの早いな。これならギルドにつくまでに情報が伝わることだろう。マイちゃんでも舐められずに登録できそうだ。


「じゃあお嬢ちゃんはギルドで冒険者になるのかな?」

「ぼうけんしゃ!わたしぼうけんしゃなる!えっとこのまち……このまちってなんいうの?」

「ああ、この街はオネイロスの街って言うんだよ」

「オネイロス?」

「そう!オネイロス。でもお嬢ちゃん、無理してケガしちゃだめだよ?」

「うん!ありがとうおじちゃん!」

「お、おじ……」

あー分かるよその気持ち。マイちゃんからみたら若くても立派なおじちゃんだからね。


その後、手の中の果物を全て食べ終えたマイちゃんは「じゃあね」と可愛く手をふって門番のにもお礼を言って街へと入っていった。門番からは「剣と杖のマークが冒険者ギルドだよ」と教えてもらえた。中々できる男だ。


『無事に入れてよかったね』

「うん」

『もらった果物美味しかった?』

「うん!あまずっぱくておいしかった!」

『よかったねー』

そうか。甘酸っぱいやつなのか。私も食べれればいいのに。スキル『食欲』なんての出ないかな?それともスキル『味覚』?

そうか。甘酸っぱいやつなのか。私も食べれればいいのに。スキル『食欲』なんての出ないかな?それともスキル『味覚』?それか『影の手』みたく『影の口』なんてのでもいいか?

そんなことを考えている間に門番が言っていた剣と杖のマークらしき看板が見えた。


『マイちゃん。多分ここがギルドだから入ってみよっか』

「う、うん。ちょっときんちょうする」

『大丈夫よ。何があってもママが守るから!』

「うん!」

そしてマイちゃんは恐る恐る扉を開けると……



現在のステータス

――――――

名前:ママ

種族:マイの不朽なモップ

力 50 / 耐 ∞ / 速 35 / 魔 30

パッシブスキル 『痛覚耐性』『視界確保』『念話』『不朽』『怪力』

アクティブスキル 『浄化』『念動力』『影の手』『突撃』『棒術』『鑑定眼』

称号 『マイちゃんの眷属(呪)』

――――――

これ以前は過去話参照

『不朽』さびないくちないこわれない!

『突撃』いっけー!

『棒術』あなたにふりまわされたい……

『鑑定眼』ぜ~んぶみちゃうからね♪

『怪力』きんにく!それはまさにちからづよく!

――――――

特にレベルアップはしてないよ。だけどマイちゃんの可愛さは上昇中!とどまることを知らないよね。上がっていく一方だから困っちゃう!

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