05 鑑定眼

私は再び視界を開ける。


そうだ!レベルを!鑑定眼を覚えなくちゃ!

女神の空間から戻った私は迂闊にもマイちゃんにくっついて眠ってしまった。あの悪夢を消したいがために……あ、悪夢ってなんだっけ私知らないなー。などとボケをかましている場合でもなかった。


何時マイちゃんへ危機が迫るか分からないから可及的速やかにレベルを上げなくてはならない。名残惜しみつつもマイちゃんの隣を離れた私は、女神に言われた通りに『影の手』を発動するとブンブンふりまくる。

そして『念動力』で縦回転!ぐるぐるぐるぐる!おえー!気持ち悪ーくもないんだけど、何となくいやな感じ。仕方なく視界を遮断して……ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるうわーーー!

もっとひどかった。それでも止まるわけにはいかない!ぐるぐるぐるぐると回る私は気が狂いそうになる長い時間回り続けた。もう随分時間が経った気がする……そろそろ10分じゃない?まだ?

無限にも感じる時間を我慢して回っていると遂にその時が!『ぴっこぴっこぽっぴぴ~!』と音がする。このヘンテコなファンファーレをこれほど待ち遠しく感じたことはない。


――スキル『鑑定眼』をゲットしました。

――――――

『鑑定眼』ぜ~んぶみちゃうからね♪

――――――


なるほどなるほど……無事獲得したそれに満足する私。


「ママ?」

その時、私の高速回転の音が五月蠅かったのかは分からないがマイちゃんが体を起こしてこちらを見ていた。


『おはようマイちゃん。ママ五月蠅かっ……た?』

「ううん。もう起きる時間……」

マイちゃんはベット脇に置いてある時計をこちらに見せて笑顔を見せた。そうか。マイちゃんはいつもこんな時間に……いつも起こされる自分にちょっと自己嫌悪……というか……


落ち込む気持ちよりも何よりも、もっと気になることがあるのだ……マイちゃんの顔がとっても赤いのだ……笑顔を見せてくれたその顔は真っ赤に染まっている……どういうこと?まさか風邪!高熱で体温上昇中!?

ヤバイヤバイと心で繰り返しながら早速マイちゃんに『鑑定眼』を使うと……私は目を疑った。ステータスに風邪や体調不良などという状態異常の表記はない。ないのだが……

マイちゃんの可愛い……可愛い寝間着が見えない……というかマイちゃんの素敵なお肌が全て丸見えで……


これか!

あの変態女神が全部丸見えと言ってたのはこれのことか!


もしかしなくても『鑑定眼』を通してあの変態もこれを見ているはずだ!今までも一応は常にこちらの様子を見れてるようだったけど、きっとお空から見てる的な視界だったはずだ!

危機だ何だと騒いでいたが、私にこんな目を覚えさせ……本当はこの映像を楽しみたいだけじゃないのか!私はあの変態女神の今までの言動からそう邪推する。多分正解だろうとも思っている。


そんな変態を侮蔑する心と同時に、実は私も今まさにマイちゃんをガン見することがやめられないという現象に戸惑いをを感じながら、この鑑定眼を続けるべきか、止めるべきかを考えていた。どうしよう目が離せない。

いや考えてみたらもう見ることはないので止めるの一択なのだが……そう思い直して歯を食いしばりながら鑑定をやめた。そしてマイちゃんの顔が赤い理由を探るべくヒアリングを開始した。


『マイちゃん大丈夫?お熱はないようだけどどっか痛かったりしない?お顔まっかだよ?』

私の質問を聞いたマイちゃんが頬に両手をあてる。何それ可愛いね。これ以上ママを誘惑したらどうにかなっちゃうよ?


「あのね、きんいろのかみのおんなのこが、くろかみのおんなのこの、えーとふくのなかにてをいれてなにかやってたゆめをみたの。あれなんだったんだろう。ママしってる?」

『なんと……』

これは?どういうことかな?


「それをみてるとね、なんだかちょっとはずかしくなっちゃうの。どうしてかな?」

『そ、そんな夢みてたんだねー、そっかーそれは悪夢だね!そんなの早く忘れちゃおうね!』

「うん!」

『ささ、お着替えしようねーママが手伝ってあげる。いつも自分でやってるもんねーたまにはママに手伝わせてね!』

私は『影の手』でメイド服へと着替えさえせ身支度をさせるという初めての試みを、ドギマギする心のまま行っていた。なんたること!あの女神の空間で行われたことが……

マイちゃんにも夢として覗かれていたなんて!


朝からそんなアクシデントもありつつも、いつものお仕事の時間となってさあ気を取り直して仕事に出かけよう!……そう思った時、突然その部屋のドアがガチャリと開いたのだ。


おい!レディーの部屋にノックもせずに開けるなんて無礼だぞ!ママ、本気で怒っちゃうぞ!と突然の来訪者に大声で怒鳴らなかった私を褒めてほしい。


「マイたん起きてたか!この私がたずねてきてやったぞ!もうそろそろマイたんも5歳になると言うからな!会いに来てやった!どうだ?嬉しいか!」

『誰このハゲ』

突然きもい言動を放ったこのハゲについて、小声の『念話』でマイちゃんに確認する。


「だ、だんなさま。おはようございます」

ペコリと一礼する可愛いマイちゃん。なるほど、このハゲがマイちゃんの雇い主、例の旦那様ね。


『待遇改善しろって締め上げとく?』

「ダメ」

小声の『念話』で確認すると止められてしまう私。マイちゃんが言うなら仕方ない。


「ん?なにがダメだ?とにかく今日はこれから客がくるからな!今日からはマイたんで楽しもうと思ってこんな朝からやってきてやった!やはり悪くないな!合格だ!」

偉そうにそう言い放つハゲ。


「おいエレポア、手早く支度させたら部屋につれてこい!」

「かしこまりました旦那様」

いつの間にかそばにいたエレポアが丁寧にそのハゲに頭を下げていた。そしてマイを着替えさせようとこちらを見るが、すでに着替えは終わっているのを確認する。そしてマイちゃんが私を手に持つと……


「マイ!それは置いて行きなさい!必要ないわ!」

「いや、です」

「いいから渡しなさい!それは私が使ってあげるから!」

「いや!」

エレポアが強引も奪い取ろうと手を伸ばす。伸ばしたのだが、結局はその奪い取ろうとしていた手を引っ込める。


エレポアはきっとあのバリバリを思い出しているのだろう。

結局はそのまま私を触ることを断念したエレポア。


「も、もう着替え終わってるわね!じゃあさっさとついて来なさい!」

マイちゃんの準備がそれなりに出来ているのをもう一度確認すると、エレポアはそう言い残して部屋を出ていった。そしてあのハゲを小走りで追いかけていくので、仕方なく私を手に持ちマイちゃんはその後をついていった。


何やら嫌な予感しかしない言葉を残して去ったあのハゲに、これが危機だと私の魂が訴えかけていた。

これが……敵か!


私は『鑑定眼』を前を歩いているくハゲにつかってみる。もしかしたら見たくないものが見えそうな嫌な予感を若干感じつつ発動すると……セーフ!全裸ハゲにはならなかった!ホッとしならが浮き上がったステータスを確認する。


覚えなくても良いであろう名前とともに『隷属』というスキルを発見。

これか!これが諸悪の根源か!


その『隷属』というあからさまに気持ちの悪い名前のスキルの部分に意識を集中。その説明文には『他の者の首にふれ魔力を籠めよ!さすればその者は己の眷属となろう』と書かれていた。


まずはまともな説明文であることに驚く。

どうやらあのパッパラ構文は私のスキルにだけの様だ。あの変態女神の仕業に違いないだろう。


しかしこの説明文わかりやすいな。とにかく首はだめなのか。注意しよう。というかあの女神、それを教えてくれるだけでもいいのでは?もしかしたらこの目を通してマイちゃんを嘗め回すように覗きたいだけなのでは?

そう思った私は、極力『鑑定眼』は使わないようにしようと思ったが、結局は発動してなきゃ見えないってことでもなさそうだと思い、便利だし躊躇なく利用させてもらうことにした。


『マイちゃん。首にふれさせると奴隷にされちゃうから気を付けてね』

私はまた小さく『念話』でマイちゃんに情報を伝える。


「どれい?」

『あのハゲに逆らえなくなっちゃうの。わかる?』

「やだきもい!」

マイちゃんもあからさまに嫌な顔をしている。まあ私があんなキモイハゲにマイちゃんを触れさせはしないけどね!十二分にに警戒することは大事。


「なんか言った?」

マイちゃんの返事が聞こえたのか、エレポアが振り向き睨みつけならがマイに確認する。首を横にぶんぶんするマイちゃん。焦るその姿も可愛いよー。


「黙ってついてきな!」

マイちゃんは何も言っていないと首を振ったというのに理不尽なことを言う!そのケツをぶったたいてやろうか!


そんなクソメイドなエレポアに連れられてやってきたのは応接室と書かれた部屋の前。すでにハゲは我先にとルンタッタしながら部屋の中へと消えていった。


そろそろこの屋敷から逃げる時が来たのかもね。

嫌な予感しかしない中、部屋の扉をノックをして入室したエレポアに続いて、私を手に持ったマイちゃんはその応接室へと入っていった。


その部屋に入るとエレポアは一礼してすぐに部屋の端へと移動して待機していた。どことなくマイちゃんを見てニヤニヤしている。こいつもあのハゲがこの後に何を行うか知っているのだろう。

よしこいつには後で本気のお仕置きをしてやろう。


そんな決意をした後、その部屋をあらためて見渡すと豪華なソファーや机の他に、多数の装飾品がおいてあり『あーこいつ金持ちなんだなー』というのが滲みでている非情に下品な部屋であった。


そしてその部屋の中央のテーブルのところには座り心地の良さそうな一人用のソファーが対面で置いてあり、そこにさっきのハゲ、この屋敷の主人というゲテモノス・クピード男爵と、客だと思われるデブデマウ・マイア男爵というもう一人のハゲなデブがいた。


二人ともマイちゃんを嘗め回すように見てる。

その目をこのまま潰してやろうか!


私は叫び出したい衝動を抑えながら、さらに警戒心を一段階上げるのことを決意した。マイちゃんは絶対に私が守る!



現在のステータス

――――――

名前:ママ

種族:マイの不朽なモップ

力 15 / 耐 ∞ / 速 35 / 魔 30

パッシブスキル 『痛覚耐性』『視界確保』『念話』『不朽』

アクティブスキル 『浄化』『念動力』『影の手』『突撃』『棒術』『鑑定眼』

称号 『マイちゃんの眷属(呪)』

――――――

これ以前は過去話参照

『影の手』おさわりはいいですか?

『不朽』さびないくちないこわれない!

『突撃』いっけー!

『棒術』あなたにふりまわされたい……

『鑑定眼』ぜ~んぶみちゃうからね♪

――――――

ハゲには絶対マイちゃんはふれさせない!そしてエレポアのケツはいつかひっぱたく!

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