03 呪い

私が独り、マイちゃんの部屋(未使用・未清掃)のベットの上で、今後のマイちゃんとの楽しい妄想の旅を続ける事30分ほど。


マイちゃんは「ただいま」と静かに部屋に入ってきた。


『お帰りマイちゃん』

「ママ!」

私の『お帰り』が嬉しかったのかマイちゃんの顔が笑顔になった。入ってきた時はちょっと暗かったのにね……


『マイちゃん。ご飯、美味しかった?』

「う、うん。おいしかったよ。でも、ママとたべたかったなっておもって……」

『マイちゃん!』

私は嬉しさのあまり全力で浄化してしまってまだ汚れていた室内は一気にピカピカになった。そして私の意識は唐突に切断された。



『うっ』

私は意識を取り戻す。そして私の視界には、マイちゃんの顔が……これは……頂いても良いですよね!いきますよ?いいですよね?いっただっきま……ってよく見たらマイちゃんの頬にうっすら涙の跡が……


ごめんねマイちゃん。多分あれだ。一気に魔力使いすぎたとかなんかだきっと。全力で浄化使ったから意識が飛んじゃったんだよね。異世界あるあるだよね。そしてマイちゃんは私のせいで泣いちゃったんだよね……


『ごめんねマイちゃん』

「ん、んん……、ママ?」

その小さな声と共に目を開けるマイちゃん。そしてガバリと寝ていた体を起こすと私に抱きついてきた。


「ママ!」

『うん。ママだよ』

「ママ!」

『うんうん。ママは大丈夫!』

「ママ、ふふふ」

『ごめんね心配かけて。もう大丈夫だよ、マイちゃん』

私はマイと一体になったかのように抱き合って互いのぬくもりを感じ合った。ように思える。当然だが私はモップ。きっとマイちゃんの方が固い棒を抱きしめている感覚になっているだろう。


そんな調子でルンタッタな気持ちになった私とマイちゃんは、ビカビカになったマイちゃんの部屋を出ると残りの3つの部屋をゆっくりと掃除していった。と言っても楽しくおしゃべりしながら部屋を歩き回るだけである。

マイちゃんは何度も私を心配して「だいじょうぶ?」と聞いてくるので『ママは大丈夫だよ!』とマイちゃんの周りをグルグル飛び回っていた。


途中からマイちゃんが両手を突き出して私を操作する魔法っぽい動作を練習してもらう。これなら誰に見られても私が『浄化』を使っているとは思うまい。マイちゃんはノリノリで私の動きに合わせ両手を動かしていた。


『終わったねマイちゃん』

「うん。ママ!ありがとう!」

『うんうん。あ、晩御飯はまだ大丈夫?』

「えっとね……」

マイちゃんが慌ててポッケから時計を取り出すと……「まだだいじょうぶ!」と笑顔で返してくれた。


それから私たちはマイちゃんの部屋に戻ると、ベットに寝ころびながら楽しくおしゃべりタイムとしゃれ込んだ。それは晩御飯になるまで続いていた。幸せな時間が流れてゆく。


女神様!本当にありがとうございます!


ちなみに全ての部屋の『浄化』を全て終えた私は2つレベルが上がった。覚えた二つはこちら。


――――――

『影の手』おさわりはいいですか?

『不朽』さびないくちないこわれない!

――――――


『影の手』はうっすらと見えるか見えないかな黒い影の手が出せるアクティブスキルだ。これでマイちゃんの頭をナデナデすることができるようになった。何時までも撫で続けよう。私の魔力が尽きるまで!

そしてもう一つ、パッシブスキルで『不朽』を覚えた。『種族:マイの不朽なモップ』となったのは正直嬉しい。これで私のモップ生は保証されたも同然!


「ママ、こわれたりしないの?ずっと一緒?……よかった。これでマイ、さびしくない……」

マイちゃん……大丈夫!ずっとずーっと一緒だよ!


『大丈夫!何があってもマイちゃんはママが守るから!』

「ママ!」

私を、抱きついてくるマイの肌のぬくもりを感じながら『影の手』で何時までもその背中と頭を撫で続けていた。


――――――

力 10 / 耐 ∞ / 速 20 / 魔 20

――――――


そしてステータスもご覧の通り!耐久が無限大となったのは『不朽』のおかげだろうが、魔力が20になったのは良いことだ。魔力が1だった時にマイちゃんの部屋を全力浄化して意識失ったからね。

これだけあれば暴走しなければ大丈夫だろう。まあ今後すごい魔力を消費するスキルが出ないとも限らないけど……そこは追々研鑽を積もう。マイちゃんを心配させないためにも、私はどこまでも強くならなくては……


そして晩御飯の時間には私は再度マイちゃんの部屋に待機する。そしてマイちゃんが部屋へと帰ってくると遂に私たちは初めての夜を過ごすこととなる。いわゆる初夜!と言うやつですね!ありがとうございます!

……と興奮をしつつも、結局は何事もなく私の『ねんねんころりよ』で即寝してしまうマイちゃん。まあ疲れたんだろうね。おやすみマイちゃん。私も視界を遮断するように意識すると真っ暗になるので、そのまま意識を休ませる。


途中、何度か視界を回復させてはマイちゃんの可愛い寝顔をガン見していたり『影の手』で安心させるためとの名目で若干のおさわりしたのは秘密だ。また「ママうざい」と言われては困るからね。


こうして、マイちゃんの奉公初日と共に、私の異世界転生初日が終わったのだ。マイちゃんと私。これから先生きのこれるためにできることをしよう!そう心に強く願って再び視界を閉じた。


◆◇◆◇◆


そして翌日、マイちゃんに私は起こされる。


「ママ!おきて!」

『はわ!』

私は視界を開けるとマイが私を手に持ち振っていた。ここどこ?


どうやら私はぐっすりと寝ていたようで、マイちゃんはちゃんと時間通りに起きて朝食、そして私を手に持ち……今は朝の準備を始めるという部屋の前にいるという。ごめんねマイちゃん。ママ、寝すぎたよ。


「お、おはようございます」

そしてマイちゃんがその目の前のドアを開けて部屋へ入ると朝の御挨拶。うん!大変良くできました!花丸あげちゃう!


「マイ、遅い!私より遅いなんていい身分ね!」

「ご、ごめんなさい」

おい!うちの可愛いマイちゃんに何言ってんだ?しばくぞごら!と心で強く思うがここで動くわけにはいかない。ぐっとこらえて押し黙る。


「ん?マイ、あんたなんでそんな新品のモップ持ってるの?勝手にどっかから持ってきたらダメでしょ!」

「これは、きのうつかってたあのモップです」

「そんなわけないでしょ!寄こしなさい!」

「いや!これママなの!」

マイちゃんの抵抗虚しくその小さな手から私が奪われる。もう許せない!このクソメイドが!私がフルボッコにしてくれるわ!


バリバリバリバリバリ!


「ぎゃっ!」

私は我慢できずに何かしらの攻撃を出そうと思った時、クソメイドことエレポアは無様な悲鳴と共に私を投げ落とした。どゆこと?


床に投げ出された私もすぐにマイちゃんがしっかりと小さなおててに収めてくれた。やっぱりここが一番だよね。


「マイ!あんな何してんのよ!私に喧嘩売ってるの!?」

「ちがう。わたしはなにもしてないです」

そしてエレポアはまたマイちゃんの手から私を奪おうと、ゆっくりと近づいてくる……そして腰が引けた体勢でびびりながらも再び私を掴む……バリバリバリバリバリ!


「ぎやー!」

またも私から手を離して座り込むエレポア。私、何もしてないけど?


「何よそれ!あんた、魔法つかえたのね!いいわ覚えてなさい!絶対にそれは私がいただくわ!旦那様に言いつけてやるんだから!」

「わ、わたし……まほんなんてつかえないです。これはきっとママが……」

「いいから昨日の続きの部屋、掃除してないさい!汚れてる部屋全部ね!わかったらさっさと行け!」

「は、はい!」

怒鳴り散らすエレポアから逃げるように部屋を出たマイちゃん。部屋から出ても聞こえる声で彼女が叫んでいるさまに、少しだけすっきりした気がした。しかしあれは何だったのだろう。


とりあえず昨日掃除していない部屋へと二人で入る。


『マイちゃん大丈夫?』

「うん……ママがまもってくれたから……でもどうしよう!ママがとられちゃう!」

『大丈夫!何があってもマイちゃんはママが守るから!』

「ママ!」

抱き着くマイちゃんを『影の手』で撫でまわしながら考える。それにしてもさっきのは何だろう。いつものファンファーレは聞いてないけどいつの間にか新しいパッシブスキルでも覚えたのだろうか。私はステータスを確認する。


『あっ!これだ!』

私は、スキルでもなんでもない欄に不吉な文章が追加されているのを発見する。


称号 『マイちゃんの眷属(呪)』と書いてあった。私はどうやら呪われてしまったらしい。私が呪いのアイテムになったのを知ったら、マイちゃんはどうするのだろうか。マイちゃん!私を、私を見捨てないで!


私はしばし考える。そして黙ってようか?とも思ったが、やはりここは正直に伝えよう。二人の間に嘘や隠し事はいけないのだ。


『マイちゃん……私ね、呪われちゃったみたい……』

「のろわれた?」

『うん。多分さっきのあのバリバリってやつ、マイちゃん以外が触るとなるっぽいよ?』

「わたしいがいだとバイバリ!」

あれ?マイちゃんの目がキラキラしてる……


マイちゃんの眷属(呪)ってなってるんだよ?多分マイちゃんと離れられなくなっちゃってるんだよね?……ん?あれ?それはそれでいいのかな?離れられないのは私にとってはむしろ好都合……


『マイちゃん。呪われちゃったママは嫌い?』

「すき」

『ずっと一緒にいなくちゃだめな呪いだよ?嫌じゃない?』

「すき!」

『私も好きー!』

どうやら呪いは大丈夫だった。しかしどうしてかな?眷属はまだ分かる、もうマイちゃんの虜だし。でも呪いって……これはやっぱり、運命!そっかー運命ならしかたないよね!そういうことで今日も頑張るか!


私は、私の中で問題なしと結論付けてその部屋の浄化から始めた。


それにしてもあのクソメイド、「旦那様に言いつける」って言ってたけどどうしようかな?まあいざとなったらマイちゃん連れて逃げるか……よしそうしよう!マイちゃんは私が絶対に守る!まずはマイちゃんに確認だ!


『マイちゃん。もしエレポアがここの主人?旦那様?それに報告して何か言って来たらどうする?ここから逃げちゃう?』

「だんなさま……こわい……」

『大丈夫!何があってもマイちゃんはママが守るから!』

「ママ!ママがまもってくれるなら……にげる!」

良し!言質は取った!


『よし!じゃあなんか言ってきてどうしようもなくなったら、ママと一緒に逃げちゃおう!』

「うん!」

私は嬉しそうに拳を上げたマイちゃんの周りをくるくる回り続けた。


そしてその部屋の掃除を終えた時、マイちゃんがぼそりとつぶやいた。


「マイもママみたいにつよくなりたい……」

そうだよね。食事の時とか一人になっちゃうし……いっそ常に一緒にいる?もう食堂に一緒にいっても私こんなにピカピカだし……何か言ってきてもまたバリバリさせればいいし……

それでもマイちゃんをなんとかしてレベルアップさせることは大事なことだと思う。


『そうだねマイちゃん!ママがしーっかりサポートして最強に可愛いメイド勇者にしてあげる!』

私は不安を抱えているであろうマイちゃんに力いっぱい宣言した!大丈夫!きっと多分おそらく私眷属だし私が魔物を倒してもレベルアップしたり、なんなら私が押さえつけて魔物倒せば上がるかもだし!きっと何か方法があるはず!


「ママ、ありがとう!」

『まずは食堂い一緒に行くことから始めようね!』

「うん」

私たちは未来の大冒険を夢見ながら、次の部屋、また次の部屋へとのんびりと『浄化』し続けるのだった。



現在のステータス

――――――

名前:ママ

種族:マイの不朽なモップ

力 10 / 耐 ∞ / 速 20 / 魔 20

パッシブスキル 『痛覚耐性』『視界確保』『念話』『不朽』

アクティブスキル 『浄化』『念動力』『影の手』

称号 『マイちゃんの眷属(呪)』

――――――

これ以前は過去話参照

『念話』わたしとおしゃべりしませんか?

『浄化』こころはいつもピュアクリーン♪

『念動力』いっつあパワーよ!

『影の手』おさわりはいいですか?

『不朽』さびないくちないこわれない!

――――――

呪い上等!マイちゃんとは一生一緒だー!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る