第14話 話し
二週間と少しの時間が流れて、見広がこの世界の生活に本格的になってきた頃。
日中の気温はどんどんと上がり、本格的な夏が近づいてきていることを見広は感じた。
学園の手伝いに今日も今日とて見広はでていて、まぁそれがいい体力作りにはなっていた。
そこそこな給料はでるため、無駄遣いしなければ普段生活を困ることはなかった。
元々無駄遣いをする気はないから、全く困ることはないのだが。
見広がそんなことを考えながら、振り向くとヒソヒソと声を顰めながら話す仕事仲間の大人が数人。
「どうしたんすか?」
気になって見広が聞くと、彼らはゆーっくりと目を右の方にスライドさせていって。
まったく同じ動きに見広は軽く吹き出しそうになりながらもその目を追う。
そうすると、観念したのか一人が代表して見広に言った。
「今日、学長来るんだよ」
毛を若干震わせながら。
もはや、男としてのプライドも尊厳も全部吐き捨てて思いっきり怖がっていやがった。
気分的にはおそらく森で猛獣と素手で殺し合う化け物人間を見た時のようだろう。
(……いや、あの学長何をしたの?!)
見広もあまり積極的に関わりたいと思う人間ではないとは感じていたが、特にそこまで震える要素はなかったような。
どちらかというと、体が動かなくなる感覚のほうが近かったしな、と見広はその光景を思い出して苦笑した。
「今年は特に学長が忙しく動き回っているからな……」
「そういや、去年までは一週間に何回かは仕事をせずに遊びまわる日があったもんな」
それも、どうかとは思うが……、しかし今年の学長(あの女)はそれなりに忙しくしているらしい。
偏見だが、仕事になるとやけに有能な気がした見広であった。そんな中、一人がポツリと呟く。
「そういや今年は厄年かえ?」
疑問にのせられて放たれたそれに、見広は怪訝な顔をした。
が、どうにも他の人間たちにはそれで伝わったらしかった。
口々に、なるほどと賛同の意見が出始める。
「予言の年だってこと忘れてたな」
「おいおい、だからってあれは噂程度だろう? うちの学長がでなきゃいけないくらいまでなのか?」
「まさか噂じゃない何て言わないよな?」
と、みんなが口々にいっても我らが見広くんは話についていけないであたふたするのだった。
なぜなら異世界のそんな事情なんて知ったことじゃないし、そもそも好き好んで知ろうと思うような内容ではないのだから。
整理しよう。
「じゃぁ、学長はその予言ってのに従って?」
「いいや、多分そうじゃない」
確認のように見広がそういうと、間髪置かずに否定の声が返ってきて、えぇ……と見広は若干呆れた。
今の話の流れから、思いっきりそれの流れだったろ、と思わず突っ込む。
「……いや、実際にはその予言が無関係なわけではないのだが」
「?」
若干、周りが説明したくないような表情をしたと思ったが、どうやらそれは説明したくても説明できるだけの知識を持ち合わせていない時の表情のようだった。
「それに関しては、僕の方から説明しようかな、見広くん」
そうして、相変わらず予期せぬところから現れる声。
「けい……さん?」
「魔力的な要素が使われた占いや予言というのについては、僕は詳しくないんでけどね。……そういうものが関わっていない、それらに関しては多少の精通がある」
「はぁ、じゃぁこの魔法至上主義みたいな世界で魔力媒体を通さずに予言されたものがこれだと?」
果たして、見広の疑問に返ってきたのは肯定だった。
それも迷いなどない、もとよりそう知っていたとでもいうように。
「ここからは、人前で話すような内容じゃないね。おいで、僕の研究室に連れて行ってあげよう」
見広は一度、行っていいのかと周りを見渡してみたが周りの人間も苦笑しながら「ほら、早く行ってこい」と口々に行ってきたので、その背中を追った。
本当に、学園の仕事がこんなのでいいのか。
「それで、人前で話せないようなものってなんなんですか?」
案内されたのは、普通に通るだけでは気が付かない……というよりも気がついても無視してしまうほどのひっそりとした部屋だった。
どうにもここの方が落ち着いてね、とけいはそう言って見広を椅子に座らせた。
現代的なデザインだな、と思ったら自分用にお金を出して王都の職人に造らせたオーダーメイドらしい。
「地球、関連の話だからね。別に話しても構わないと思ったけど、一応は」
「地球関連? この星の予言に地球の話が?」
「だから言ってるだろう? 僕が得意なのは魔力を介さないタイプのそれなんだ。だからって勘違いしてもらっちゃ困るよ? 僕は、そこらへんにいるエセの占い師でもなければ、プロの占い師でもない。陰陽道に少し触れたとしてもすぐに飽きた身だし、それからわざわざそこまでして占い、もとい予言についてさらに深入りしたわけでもないんだ」
そこで一息、けいは空気を吐き出した。
見広は、言葉が途切れたその瞬間に何かを言おうとしたが思いとどまって、口を噤んだ。
そんな彼のことを知ってか知らずか、もう一度息を吸い込んだけいが改めて言葉を発する。
「まぁ、そういうわけだから。これから話すのは、決して素人でも玄人でもない、それでもその道に少しは精通している人間の話だ。信じてくれるかな?」
「……俺が地球からここに来た時点でそういうことを極力信じなきゃいけない状況は整ってるんだよ」
だから、遠慮しなくてもいい。
知っていることを全て話せ、と見広は言った。
「よろしい。とはいえ話すことはそれほど多くはないんだ。それこそ、この予言の根本はそこまで難しいものではないからね。僕からすれば、こんなあからさまな予言がよく解明されなかったねと言いたいところなんだけど……。よくよく考えれば、地球とこの世界の夜空って違うんだよね」
「……」
「流石にここまでいえば、それに精通してはいない君でもわかっただろう? いや、ある一定数以上のラノベやアニメ、漫画を目にしているのならば君も聞いたことがあるのかもしれない。有名だったかと言われれば首を傾げることになると思うけど、少なくともマイナーすぎる単語ではなかったはずだ」
《星読み》である、とけいは口にした。
見広はその響きを口の中で転がしながら、やがてそれを吐き出した。
「ようは、女の子が大好きな星座占いみたいなもんだろ? それこそ、多量の種類の存在する」
「へぇ、そこまで理解できているのなら話は早い。この占い……予言は少し複雑でね。通常の星読みというのは確かに星座を使うんだけど、この場合は星そのものを正座に見立てる」
「は?」
「人間はあらゆるものに、象徴というものをつけてきた。日本にはそれこそ付喪神だとか、八百万の神だとかそういう伝承が残っているだろう? それと同じだよ。この予言は星一つ一つにわざわざ意味を与えてそれから占いをしてるんだ」
全を個として、個を全とす。
もう少し変則的に比喩すると、下のものは上のもののごとく、上のものは下のものの如し。
どちらにせよ、見広にはよくわからないことだった。
「それが本当だったとして、夜空の星を何に象徴した? 肉眼で見える星の数なんて4000個以上あるぞ?」
「それは、条件がいい場所で観察した時のことだろう? 簡単な話だ。東京で見える星の数はそれよりも極端に少ない」
あるいは奥多摩あたりまで行けば、六等星まで見れるのかもしれないが人口の密集地となるとそうだろう。
「つまりは、その星々には光に負けぬ力がある。これを、世界に存在する666の悪魔に見立てて予言する。しかも、それに当てはめることができたのはこちらの世界だけだ」
「……どう、して?」
「それは見広くん、君が一番よくわかっているんじゃないかな。この世界の常識を喰らう君がね」
「っ!」
「いいかい天智見広。この場所へ厄災は必ず降り注ぐ。必ずだ。それがいつなのか、僕にはわからないけどそれが変わることはない」
見広は、それを聞いて胸に何かつっかえるようなものを感じたが、首を振って誤魔化した。
(今度は、シルルみたいな終わらせ方はしない。俺の周りの人間くらいは、俺が守り切って見せる)
密かに志を示して、あぁ、と思い出したかのようにけいに向かって意地悪げな質問を返した。
「そろそろあんたが何者なのか知りたくなってきたところなんだがな。そもそもあんたが話してくれた方法ができるわけがない。666の悪魔に見立てる? ハッ、ふざけんな。そこに何の繋がりもないのなら、魔導書も魔法陣も、あるいは奇跡でさえも起こらない。もう一回、厨二病をやり直せよ馬鹿野郎」
____そんなに回りくどいことをしなくてもわかってやるし、信じてやるっつーの。
《あとがき》
この作品を読んでくれている人ならわかると思う。
多少のご都合主義は……ね?
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