そして魔喰の少年へ、題名未定の異世界を。

おとも1895

第一章

プロローグ

 その瞬間、気がついたらそこにいた。


 いやその前後はいったいどうした、と唯一の親友がいたらそう突っ込まれたのかもしれないが、あいにくとその場所に彼はいなかった。違和感を覚えて、無意識下で



(ここは?)



 とよくわからないままににそう思ったが、どうにもそこには誰もいないようだった。

 ただ真っ暗な空間が果てしなく広がっていて、あるいはその場所が神秘的な何かを纏っているように感じる。



「やぁ、天智見広てんじみひろ。もしくは初めまして、かな?」



 不意に後ろから声をかけられて、見広はそちらをゆっくりと振り向いた。

 不思議と、その声に対して不信感を抱くことはなかった。


 ただ、その場所に声の主の姿が見えずに、首を傾げはしたが。



「あんたは、誰だ?」



 そんな見広の質問には、沈黙が帰ってきた。

 名前如きにそんなに躊躇することがあるか、と疑問に思ったがもしかしたら名前を教えることで不都合が生じる可能性があるのかもしれない、とそう判断しなおす。


 もしも、これがただの誘拐などというものだとしたらそうだったのかもしれないが。



 しかし、声の方は言い返す。



「あぁ待ってくれ。そんなに警戒しなくても君に危害を加えるつもりはないから」


「いや、俺をここに閉じ込めてる時点で手出しはしていると思うんだけど」



 皮肉気に言葉を返すとムッという雰囲気が返ってきた。

 声を放った方が、唇を尖らせたようだった。

 姿が見えないので、あくまで憶測でしかないが。



「で、いったいなんのようなんだ?」

「釣れないなぁ……」



 茶目っ気の入った声が少し、意地悪そうな口ぶりで話していたが次の瞬間には気配が変わる。


 刹那の間にあたりを支配する、そんな空気を身に纏う。

 重々しくなった空気に、頬から冷や汗を流しながら見広は次の言葉に耳を傾けた。


「これはプロローグ。あるいは警告だよ」

「警告?」



「そう、警告。もしくは忠告。これから起こることを全部知っている俺からの特別な」



 胡散臭い、と思った見広はしかしその言葉を無視する気には慣れなかった。

 不思議とそうすることが今の最善手であると思わされたのだ。



「__自分がどう言う力を持っているのか。それをどう言うふうに使っていけばいいのかは考えなよ」



「自分の力? ……《魔を喰う者マナイーター》?」



 無意識にそう呟いて、自分の言葉に目を見開いた。

 その名前は、一体どこの記憶の中から出てきたのか、と。



「俺は、そんなもの……」


 

 知らない、とそう言おうとした見広の声に被せるようにして謎の声は重々しく言った。

 まるでそれが当然のことであるかのように。

 じゃんけんで、絶対に勝てる手を知っているかのような。

 


「限定的な記憶と経験の共有」



 端的に言われたその言葉が、しかしずっしりと見広の胸に突き刺さって抜けなくなる。


 何か、自分の知らない決定的なことを言われているような気になって畏怖の念をその声に送る。


「____俺が追体験したその知識の中で、必要最低限の知識だけはデジャブのように頭の中に残っている」

「はぁ? あんた、何を言って」



 本当の心の底から疑問をこぼした見広の言葉を笑い飛ばした声の主が言う。

 否、それは自嘲のような笑いだったかもしれない。



「あぁ、君は俺にさっき誰だと聞いたね。その質問に今答えてあげよう。____いや、俺にこんな口調は似合わないか」



 声の口調が変わった。

 張り詰めていた空気が、最大まで引き絞られて今にも限界を迎えてしまいそうだ。



「……あんたは、本当に誰なんだ」

「本当は不思議な人物ってだけで終わらせたかったんだけどな」


「そんなことはどうでもいいさ。さっさと答えてくれないか?」



 せっかちだな、と声の主は言って見広はそれをハッと吐き捨てた。

 声の主は、勘弁してくれ、と自嘲気味に呟いた後、さらに言葉を重ねた。




「俺の名前は天智 見広。何万世代も存在する中でも、一世代前のお前だよ」




 言われてしかしそれに違和感を感じないあたり、自分も狂っているなと見広は思った。

 確かに信じられるような話ではなかったが、本能的にどこかでその言葉を見広はあるいはあり得るのかもしれないと受け止めることができていたのだから。


 それで、特に意識することもなく両手を少しだけ上に上げて、それに視線を落とした。

 そこには、なんら変哲のない。

 普段から、見広が酷使してきたその両手があるだけだった。


 グーパーを繰り返していると、声の主____一世代前の見広自身が声を発した。

  


「それの使い方は、理解できているか?」

「あぁ、まったくなんとなくでしかないけどな。少なくとも最低限の力は理解できているさ」



 さすがは俺だ、と言う声が聞こえて「自画自賛すんなよ!」と突っ込んだのは秘密だ。

 見広からすればそんなこともどうでもよくなってきたりしていたのだが、ツッコミ待ちかなとそう思って。



向こう・・・に行ってやるべきことはわかっているか?」



「____それは、わからねぇな。自分がここにいるのは必然なんだとしても、その必然がどうしてなのか、今の俺にはわからない。それとも、お前がここでご丁寧に答え合わせでもしてくれるのか?」



「ハハハ、したいところなんだけどね。やるべきことなんてその世代によってもちろん変わるし、同じ僕でも同じ未来を歩むことはないんだよ」



 だから、と声の主である未来の見広は言葉を続けた。

 自分に笑いかけるように言われた言葉は、どこか後悔と他人事のような声音を含んでいて。



「生きる意味も、やり遂げなきゃ行けないミッションもない。でも、行ってらっしゃい」


「あんたは____」



 やはり何かを体験したのだろうか、と見広は声をかけようよしてしかしそこで、意識がシャットダウンしてしまった。



「頼んだよ、この世代の俺」



 視界がどんどんと薄れていく中、最後にぼやりと見えた人影は窶れて、少しだけ醜い姿だった気がした。悲しい、と最後にそう思おうとしてそれができることはなかった。




《あとがき》

ここでリタイアしないで!

お願い、今日もう一本更新あるから、そこからが本編だから!


一応世界線的には繋がっているのでこちらもよろしくお願いします。(読まなくても本作は楽しめます)

『そして錬金術師へ、無限の先の到達点を。』

https://kakuyomu.jp/works/16817330665672441821

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