死神でも仲良くしてくれますか?

祝楽聖咲

死神界を亡命して

◆さよなら、理不尽な死神界



死神界って理不尽だよななぁ...。


新米の死神達は、優秀な死神になるためにベテランの死神教師によって育成される。主に魔学、魔術の二つ。この二つをある程度できるようになり、教師に認められれば卒業できる。その後は様々で、人間界に降り立ち魂を回収する者もいれば、死神界のために貢献する者もいる。魔界なんかに行って魔王になるやつもいる。

私は、政府のお偉いさんたちにスカウトされてしまい死神界史上初最年少で、「死神絶対的規則者」(グリームリーパーアブソルールーラー)になってしまった。その後は大変だった。...正直思い出したくもない記憶だな。忘れよう。ちなみに今は死神絶対的規則者なのに恐怖の塔(フィアーオフタワー)に閉じ込められていますねはい。政府のお偉いさん方絶対に許しませんね。呪い殺します。.........冗談だ。

でもこのまま一生恐怖の塔に閉じ込められて孤独で嫌われたまま人生を終えるのかな...。いや、絶対いやだな。断固拒否だな。よし、抜け出そう。こんな世界から亡命しよう。


といってもなぁ...行く当てがないんだよね。とりあえず行く当てが見つかるまではこ仕事の束を終わらせますか。...にしても量多くない?これ本当に全部私宛...?

じめじめなんてしないしゴミ一つない広すぎる部屋。照明は薄紫色の炎の壁掛けランプ。机や家具は全て木でできていて、無駄に整っている。多分整ってる理由は私がキレてお偉いさんたちをぶっ飛ばさないため。本当に快適だよね。こんなのに金かけれるんだったら私の仕事を減らしてくれる人材が欲しいんだけどね...。


二日、三日、一週間、2週間...そんなことをしているうちに時は過ぎていた。そんなある日、私には希望の光が見えてきた。...当然だが、物理的な光ではない。物の例えである。

ある死神の会話を聞いた。死神界の他に混合界という世界があるらしい。その世界には様々な種族が共存していて死神は存在しないんだとか。...え待って。これ本当の話?本当ならば混合界に行くしかないな。よし、荷物を無限収納鞄(インフェネットストレージバッグ)に荷物を詰め込みましてっと。行ってきます&さようなら!二度と戻らない死神界!そして世話になる&初めまして混合界さん!



◆フラグ回収、そしてヒーロー



「ここが混合界の入り口か...。」

思わず驚いてしまうほどの種族が並んでいるなぁ...。これは時間がかかりそうだ。「世界の紡ぎ目」。世界と世界を紡ぐ場所。この検問を通過すれば混合界へ入ることができる。

「天界とか魔界は少し混んでるくらいなのに...混合界のこの列はなぁ...桁が違うというか...。」

推測だけど200人くらい並んでる気がする。一方魔界や天界は...20人くらい?10倍くらいあるじゃん...。とりあえず待つしかないよね。

「暇だなぁ。なにか事件の一つくらい起きないか...」


ザクッ!!という音が響いた。まるで人を刃物で刺したような音だった。それと同時に野太い男の悲鳴が聞こえた。まさかと思った皆は一斉に音がなる後ろに視線を向ける。そこには人間が竜族の腹部に刃物を刺している光景があった。...え?嘘だろ?なんで弱い人間がそこそこ強い竜族を刺してんの?え?本当にどういうこと?

しかし、その答えはすぐに分かった。

「ウハハァ!!よっしゃぁ!これで竜の鱗が手に入るぞ!!やっとだ!これさえ手に入れば!俺の実力を認めずに追放したあいつらを見返すことができる禁断の秘薬を作れる!!」

竜族を刺した人間は喜びで叫び散らかしている。え?禁断の秘薬ってアレのこと?え?そんな個人的な理由で竜族刺したの?よし、人間。お前にはこの死神絶対的規則者自ら手を下してやるか。その前に竜族の魂を戻すか。


「おい、人間。貴様か。罪無き竜族を刺したのは。」


よし、ここはかっこつけてだな。あえてここから聞こう。

「何だお前?お前には関係ない話だろうが。でも良いぜ。俺は今機嫌がいいから教えてやるよ。そうだぜ。そいつは俺が刺殺した。」

おいおい残酷だなこの人間。そんな奴には裁きを与えますよっと。

「そうか。ではお前の魂をいただこう。と、その前にやることがあったんだった。おーい、そこの方々!その竜族さんをこっちに持ってきてくれるか?大丈夫、安心しろ。悪いようにはしない。」

...さてと、この竜族さんの魂は...よし、まだ残ってるな。ではでは儀式を始めますか。

「...魂よ、我が命ずる。引っ込め。魂よ、主の下に引っ込め。この死神の名のもと魂に銘ずる。引っ込め。」

よし、魂はちゃんと引っ込んだな。あとは人間に裁きをっと。

「...おい、おい!そこのお前!その竜族に何をした!?」

「それに答える必要はないが、冥途の土産に教えてやる。私は死神だ。だから魂が冥府に行く前にここで引っ込ませた。それだけだ。そして人間、お前が代わりに冥府に逝け。安心しろ。楽に逝かせてやる...よっ!」

私の相棒とも呼べる無限吸命鎖鎌(むげんすいめいくさりがま)。その名の通り、どんな命でも無限に吸い取り、その命を永遠に復活させないように鎖で縛ることができる鎌。普通に武器としても使うことができ、近接、遠距離、魔術などもお手の物の超優秀武器。つまり、人間を確実に殺せる。私は相棒を持ち、空中に飛び、一直線に魂、心臓を刈り取った。

「もう二度と私情で誰かを殺すな、人間。」

...決まったー!!ずっと閉じ込められてたからこんなこと言えなかったから凄い嬉しい!一度は言ってみたかったからなぁ。...でもまぁ、これで周りには怖がれるだろうし、やっぱり私は一生孤独で友達なんか出来ないんだ。仕方ない。

「えっとー...すみません。血しぶきなんて見せちゃって...。私はもう行きますので...。ご不快な思いをさせてしまってすみません。では、しつれ...」

言いかけたところで周りからは拍手が起こった。そしてまさかの私に向けてだった。しかもみんな笑顔だし...え?どういうこと?

「死神のお嬢ちゃんかっこよかったよ!」

「悪を成敗するヒーローだ!かっこいい!!」

「ありがとねぇ。やっぱり悪はいなくなるべきだよねぇ。」

笑顔でお礼を言ってくれる方々。そっか...これが善良な行いなんだ。誰かを殺すのにも良いことはあるんだ。初めての感覚だな...。でも大事なアレを忘れている!

「失礼!そこのお嬢さんが成敗してくれたのか?」

どこかの世界の検問をしていた狼族の兵隊たちが駆けつけてくる。ってえ?成敗?うーん、成敗...まいっか。深くは考えないでおこう。って大事なアレ!アレどうすんの!?

「えぇまぁはい。私がやりました。ところですみません。後処理はどうしましょう?」

そう、アレとは後処理なのだ!後処理が本当に重要なのだ!このまま放置するわけにもいかないし、かといって後処理はめんどくさいし...。と思ったら

「フハハ!後処理くらいこちらでやっておくよ!ところでお嬢さん、君はどの世界に行くつもりだったんだい?」

え、ラッキー。後処理やんなくていいなんて最高じゃん。この兵隊さん、見かけによらず良い人だなぁ。


「私は今から混合界に行くつもりです。」



◆死神絶対的規則者だから



その瞬間、周りの空気が変わった。何やら驚いている人もいればこいつ常識知らずか?という目で見てくる人もいる。え?なんか変なこと言っちゃった?

「...お嬢さん、それは正気か?」

とても不思議そうな目で見てくる。え?本当になんか変なこと言った?

「えっと...正気です。私何か変なこと言いました?」

「...いや、ちょっと不思議に思ってな。お嬢さん、混合界に死神はいると思うか?」

え、何その当たり前な質問。そりゃいませんよね。

「存在していないと聞きました。」

「...なぜ混合界には死神が存在していないと思う?」

え、そういえばそうだな...。考えたことなかったな。えっと...

「混合界といえど神は存在できないからか、普通に死神が入ろうとしないからとかですか?」

神は別格だ。死神も一応神だから入れない。とかだったら私泣くよ?せっかく死神界から亡命してきたのに。

「どちらかというと二つ目のほうが正しいな。せっかくだから教えてやろう。良いか?失礼だが死神は邪神だ。つまり闇だ。そして混合界は光で満ちている光の世界だ。そして闇は光に介入できない。分かるな?死神は混合界のような光の世界には入っただけで消滅してしまう。だから死神は混合界に入ろうとしない。それが世界の理だ。...すまないな。」

...えー...噓でしょ。あれでも待って?私、入れるじゃないの?死神絶対的規則者だし。根拠はないけど、何故だか入れる気がする。

「あの、本当かどうか試していいですか?私何故だか入れる気がするですよね。根拠はないですけど。」

「はぁ!?お嬢さん死にたいのか!?やめとけ、悪いことは言わないから本当にやめとけ。俺は一度お嬢さんみたいなこと言って消滅した死神を見たことがあるんだ。それにお嬢さんは恩人だ。竜族を救ってくれたんだろ?だったら尚更だ。」

「良いから入らせてください。それに私、死神絶対的規則者なんですよ?死神界で最強の者に与えられる称号の。」

「え!?死神絶対的規則者様ですか!?うーん...でも...」

本当に根拠なんてない。でも、入れる気がする。相棒もそう言ってる気がする。

それにしてもこの称号をこんな方法で使うなんて出来ればやりたくなかったんだけど...。仕方ないよね。

「...分かりました。片腕を入れてみて大丈夫そうだったら入界を許可します。」

「ん?入界を許可ですか?もしかして混合界の兵隊さんですか?」

あれ、嫌な予感がするかも...。これから入界しようとしてた世界の検問さんに権力振るっちゃった?

「ええ。これでも俺は混合界検問委員会委員長ですよ。」

あ...確定。あーもう!こうなったら最後まで権力を使ってやる!せっかくの称号なんだ!使わなきゃ損だぁ!!

「では、改めて混合界に入りますね。出来れば住居とかおすすめのお店を紹介してください。」

どれどれ...一応慎重に...ます小指、薬指、中指、人差し指、親指、右腕、左腕、頭、左足、右足...うん、問題なし。よし、堂々と入るか。

「......はい、全然入れましたよ。これからよろしくね。混合界検問委員会委員長さん?」



改めて、私は死神界を亡命し、世界の紡ぎ目で望んだせいか事件が起きたが、無事解決し、混合界へ足を踏み入れたのだった。







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