六


月姫つきひめって、なに? って、くってことは、お兄ちゃん、月姫つきひめのことも知らなかったの?」


 ゆっくり頷く、咲也。


「ねぇ、お兄ちゃんって呼んでもいいでしょ?」

 

 食い気味の、小春。

 再び、頷く咲也。他に、どう反応リアクションすればよいというのか。


「お兄ちゃんは、わたしのことも知らなかったの?」


 少し淋しげな瞳。


「妹がいることも、初めて知った」


「そう」


 仕方のないことかも知れない……

 そう、飲み込んで小春は、続ける。


月人つきひとの血をく者は、地にはひとりしか居られない。だから、次代の月姫つきひめとされた者以外は、月が連れて行ってしまう」


 昨夜、何度も聞かされた、それ。


「ねぇ、月姫は、何のために、地に留まり続けているのだと思う?」


 言われてみれば、そうだ。

 月人なのだから。いつまでも地に留まらないで、さっさと月に還ってしまえばよいものを。


 地に留まり続けるのは、なぜ?


 そこに、月姫の何たるか、があるのか。


 ふふふ、と 小春が笑う。


「コーヒー、美味しい」

 マグカップを両手で包むように持つ小春の姿に、

 咲也は、妹ってかわいい存在なんだな、と

 この時 初めて思った。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る