第11話 初めての味

「ほら。一先ず食べろ」


 体をちぢこませ待っていた三人組に料理を出した。


 蒸気が昇るホカホカの料理は三者三様。

 人族の子には胃に負担をかけないように薬草を入れたスープとサンドイッチ。

 胃袋の強い熊獣人の男の子には魔の森で手に入れたオーク肉のステーキ。

 逆にエルフ族の男の子にはレタスを中心としたサラダと焼いた薄切りのベーコンだ。

 三人は出された食事に身を乗り出して目を輝かせていた。


 彼らを見つつ綺麗になった部屋をぐるりと見渡して思い返す。

 悪い環境で料理は出来ない。そう考えた私は最初掃除に取り掛かった。

 長らく使っていなかったせいか汚れが酷かった。

 よって例のごとくソウに家事妖精ブラウニーを召喚してもらいレストランを掃除してもらう。

 掃除を始めたブラウニー達に驚いたのだろう。待機してる食堂からキッチンへ悲鳴が聞こえてくる中、掃除を終えた私達は料理に取り掛かり、そして現状にいたるということだ。


 食べたそうにするも手を付けない三人に「食べないのか? 」と聞く。

 すると三人ともこちらを見上げよだれらしながら戸惑った様子で言う。


「俺達、金がない」


 熊獣人の子がしょんぼりとした顔で言った。


「金はとらん。だから食え」

「けど……」

「あぁ~、もう。子供が遠慮するな! 金はとらないから食え」


 食事をうながすと三人とも顔を見合わせた。

 人族の子はスプーンを、熊獣人とエルフ族の子はフォークを手に取り、恐る恐る口に運ぶ。

 一度口に入れると止まらない。

 物凄い勢いで料理が無くなっている。


「あ、温かい! 温かいスープだ! 」

「何だこれ! 肉がやわらけぇ! 」

「シャキシャキする! 」

「このスープ。体中に染みわたる……」

「う”う”う”……。肉汁が。肉汁が溢れ出してる」

「野菜なんて久しぶりに食べたぁ」


 三人とも食事に涙しながら食べている。

 人族の子は「ズズズ」と音を立てながら、熊獣人の子はむさぼるように肉を食べ、エルフ族の子はシャキシャキと音を立てながら感想を口にする。


 作った者としては嬉しいこの上ない。

 逆にここまで追いやった周りの貴族とやらに腹が立つがそれは別問題。

 だが――。


「お説教はするがな」


 私の一言で全員の食事が一度止まった。


 ★


 食後食器を片付け、お説教を済ませた後、胃を休ませる効果を持つ茶を出した。

 三人とも顔を苦くしたが「胃を休ませるためのものだ」と言ってゆっくりと飲ませる。

 私も席に座り茶を飲みつつ彼らの話を聞く。


「いつもあんなことやってるのか? 」

「そ、そんなことない」

「俺達だって今日が初めてだ」

「……ごめんなさい」

「謝る事が出来るのは良い事だが今後やらないようにな」


 三人からの謝罪を受け取りこの町の状況を聞く。


 予想していた通り彼らは最近生まれた子のようだ。

 今の状況は生まれた頃かららしく、私が「その昔食の最先端と呼ばれていたらしいぞ? 」と言うと吃驚びっくりしていた。

 そのことから周りの領地からの封鎖は少なくとも二十年くらいは続いていることがわかる。

 全くもって不愉快だ。


 ちなみに人族の子はアデル、熊獣人の子はロデ、エルフ族の子はジフと言うらしい。

 私も自己紹介をして更に聞くと、三人とも何かとつるんでいるとのこと。


 何故こんな行動に走ったかと言うと、滅多めったに来ない旅人が食料を持っているかもしれないと考えたから。

 どうやら私が町長の館に行くところを見られていたらしい。

 彼らの予想は的中していたわけだが物取ものとりは感心しない。

 もうしないように再度きつくお説教した後どうしたものかと考える。


「こいつらをレストランで雇ったらどうだ? 」

「「「レストラン?! 」」」


 ソウの言葉に驚く三人。


 良い考えだ。

 料理は出来ないだろうし、やるなら接客になるが……この三人に接客業が出来るだろうか?


 それに雇った所で問題の根本的な解決にはならない。

 何せ食料そのものが不足しているのだ。買う食材そのものが無かったら給料を渡しても意味がない。


「……もしアデル達が町の人に声をかけたらどのくらい人が集まる? 」


 聞くとまたもや三人とも顔を合わせる。

 するとアデルがおずおずと手を上げ聞いてきた。


「なにかさせるのか? 」

「畑作業」

「畑?! 」


 やはりというべきかジフが驚く。

 しかし他の二人は何故驚いているのかわからない様子だ。

 もしかしたら「畑」というものを知らないのかもしれない。


 畑作業は最初、私とソウの二人で行うつもりだった。

 しかし町の食料事情は思った以上に良くなさそうだ。

 何せ子供の彼らがこんな行動に出る程。

 実態は考えているよりも深刻しんこくかもしれない。


 それにき出しを行おうと計画していたが、突然「食事を出すので集まってください! 」と言われても警戒されるのがオチ。

 それは町長の一件でよくわかった。


「畑作業を手伝ってもらう代わりに料理を提供する。本業があるだろうから日雇いになるが」

「……この土地は作物が育ちませんよ? 」

「わかっている。その為の、ソウだろ? 」

「畑の一つや二つ。この精霊獣ソウにかかれば造作ぞうさもない!!! 」


 机の上で胸を張るソウ。

 それを見て納得したのか、考えだすジフ。


 生ける自然、生ける災害等々様々な呼ばれ方をされる精霊達だが、そのじつは自然を操り奇跡を起こす超常的存在。

 何ができるかは本人でなければわからないが、わからない分何をしてもおかしくないと考えてもおかしくない訳で。


 ジフは大体の予想がついたようだ。

 緑の瞳をこちらに向けてゆっくりと口を開いた。


「……集まっても十人くらい、かなと」


 妥当なところか。

 他の地では普通の仕事だが、作物が育たないこの地では怪しい仕事そのものに見えても仕方ない。

 怪しい仕事に積極的に参加しようとは考えないだろうし。


 ジフの計算から考えると彼らの両親とその親しい人が来るくらいか。

 町長に声をかけたらどの程度集まるか気になる所だが初回はやめておこう。

 リア町長には二回目以降、彼らの両親に経験してもらい「本当に食事が出る」と証明してもらってからでいいだろう。

 その方が集まりが良くなりそうだ。


「お前達もやるか? 」

「やらしてくれるのか?! 」

「食事も出るのか?! 」

「精霊獣様と一緒ならやります! 」

「もちろん他の人達同様に食事も出すし、ソウも仕事をする」

「うむ」

「食糧事情が改善してきたら報酬を食事ではなく金銭に変えて行こうと思う。それに三人には他にやってほしい事がある」

「「「やってほしい事? 」」」


 頭に疑問符を浮かべる三人に大きく頷き言う。


「接客だ」

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