第7話 リアの町の町長 1
「何故あの老人に聞いたのだ? 」
町長の家を聞き向かう途中、ソウが私の肩の上で不思議そうに聞いて来た。
彼が不思議がるのも無理はない。
一見すると無駄な行為に思えるからな。
「町長から話を聞くのと、住んでいる人から話を聞くのと違うかもしれないだろ? 」
この国がどのような体制かわからないが、国が王政を取っている場合貴族が町を治めていることが多い。
町長程度ならば準男爵かよくて男爵か。しかし貴族と言う生き物は対面を気にする。
この町の状況で対面を気にしても意味はないと思うのだが、気にする貴族は気にするだろう。
他の貴族に対する
そんな相手だ。
もしかしたら私相手に対面を気にして町長は嘘をつくかもしれない。
悪い貴族ならば更に金を渡して情報を拡散させないようにするだろう。
ならば貴族側の情報を入れず住民の話を聞いた方がよっぽどいいということだ。
「なるほどな。しかし町長が嘘をついた場合はどうする? レストラン開業を止めるのか? 」
「そんなことはしない。そのまま開業手続きを頼むさ」
「……信用ならん相手だぞ? 」
「それを飲み込んだうえで開業する。利益を上げ、周りの町や領地を巻き込めば、町長とて動かざる終えないだろうし」
「……強引だな」
ソウの呆れた声が肩から聞こえてきた。
確かに強引な手段だ。
しかしながらやる価値はある。
「お爺さんの話を聞いて、この町がその昔食の最先端と呼ばれていることが分かった」
ソウがグルっと鳴く。
どうやらわかっていないようなので説明する。
「この町には多くの美食が眠っている。そう思わないかい? ソウ」
言うと小さな足が何度も肩に叩きつけられた。時折尻尾が私の首に直撃している。
わかりやすいやつめ。
ソウが「美食」と聞いて興奮しているようだ。
「……食の再現。それが目的か」
「正確には目的の一部に加わった、と言う所だよ」
「ふふふ……。そうかそうか。ならば尚更力を貸さない訳にはいかないな」
少し低い声で告げるソウ。
思わず私も顔が歪む。
「今回は異能を使うのか? 」
「中々に厄介そうだからな。使うかも、だな」
「もし何かあったら我を頼るが良い。そしてより良き美味たる食事を
新たな食事を求めるソウの頭を軽く撫でてさらに先へ進む。
「なれば町長の支援は必要と言う訳か」
「そういうことだ」
食を再現するにしても元となる食を知らないとどうにもならない。
一番手っ取り早いのが作っていた本人に聞くことだ。だが私はこの町に詳しくない。ならば町長に聞くのが最も確実と判断した。
しかしソウは不満気な様子。
必要であるということがわかっている分、口に出さないのだろう。
「町長が不誠実な人物であると決まったわけでは無いだろ? 」
「むぅ」
「
二重で情報をチェックするためお爺さんに話を聞いた。
これだけ困窮しているのに町長に関する悪口が出ない。
「町長は良い人」という先入観を持って接するのは危ないが、少し警戒を和らげても良いかもしれないな。
考えながら歩いていると大きな館が見えた。
遠目で見ても綺麗ではない。
本当に貴族の館か? と心の中で首を傾げながらも近付き、着いた。
門番はいない。
見上げて様子を再度見るが、やっぱりお世辞にも貴族の館には見えないな。
「手入れがされておらぬな」
「確かに。三階ほどあるみたいだが
町長でこの館の大きさ。そこからその昔この町がどのくらい繁栄していたのかがよくわかる。
だが現在は見る影もない。
庭師がいないのか
極めつけは門番のいない門である。
通常貴族の館なら一人くらいは門番を雇うのが普通だ。
一般的には二人程度で交代制。
しかしこのリアの町の町長の館には一人もいない。
「町民だけでなく町長も苦しい状態か」
「また料理作戦か? 」
「それも良いが一先ず提案と話し合い」
★
ノックをすると扉の向こう側から遠い声がした。
足音が近づき止まると
「どちら様でしょうか? 」
「旅の料理人、エルゼリアと言う。町長殿にお聞きしたいことがあり、こうして訪ねたのだが」
何も使用人に事の詳細を話さなくてもいいだろう。
そう考えたのだが失敗に終わったようだ。
「……お引き取り下さい」
「何故? 」
「町長は現在執務中ですので」
典型的な断り方だな。
しかし引くわけにはいかない。
「この町の状態を改善する案があるのだが」
再度沈黙が流れた。
同時に怒気のような物が向こう側から伝わってくる。
やはりというべきか外者に現状を指摘されるのは気分が良いものではないらしい。
「……単なる……、単なる旅人がっ! この町の何がわかるっ! 」
何がわかる、か。
正直根本的なことは何もわからない。
それを教えてもらうためにこうしてきたわけだが――。
「お嬢様が……、お嬢様がどれだけ
「どうしたのですか
「お嬢様?! 」
「貴方が感情をむき出しにするなんて珍しいですね」
扉の向こう側から落ち着いた女性の声が聞こえてくる。
聞く感じだとこの声の主が町長だろう。
何やら扉の向こう側で話声が聞こえてくる。
さっきまでとは違い声が小さいので聞こえない。
少し待つとギギギと音を立てて扉が開く。
そして――。
「お話を
茶髪の女性がそう言った。
★
町長と
貴族というよりかは町民のように見える。
着ている服は町民のそれで
髪も長い。しかしながら手入れされていないのか痛みが激しく見え隠れする肌はボロボロだ。
「お通しできる館がこのような状態で申し訳ありませんね。使用人も爺のみとなってしまったので」
彼女はこちらを振り返り笑顔を作る。げっそりとした顔を先導を歩く老齢な執事に戻して案内を進めた。
彼女の言う通りこの館は良い状態ではない。
歩く廊下は傷と
瞳を横に向けると壁には汚れが目立つ。上を見ると
一般ならば調度品を置いていない家は幾らでもある。
しかしここは貴族の館。小さな絵画一つ飾っていない所を見ると、ギリギリの生活をしているのが読み取れる。
「……こちらになります」
ついさっきまで敵意を向けてきていた老執事が、部屋の前に立ち止まり扉を開ける。
しかし私は中へ誘導しようとする執事を止め、町長に提案する。
「まずは腹ごしらえをしたらどうだろうか? 」
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