護衛騎士団長 ハボリム・ガレイ
ネクロシスが目覚めてから既に半年が過ぎていた。
ネクロシスは記憶は戻らないものの、賓客という立場に甘んじることなくこの宮殿にて働くことを申し出た。イグニスは快くこれを受け入れアメリアの護衛という立場でこれを迎え入れたのだ。
このことについては多くの反対の声が上がった。
「王よ! 魔人族を姫様の護衛になど許されませぬぞ!」
護衛騎士団長のハボリムが血相を変えて抗議した。彼は土岩龍族長。火炎龍王を補佐し、宮殿の警護を担当している。
「まぁ、そう固いことを言うな」
イグニスはハボリムをなだめるが、そんなことで引き下がるようなハボリムではなかった。
「なりませぬ! なりませぬぞ!」
「なら、お前も一緒にアメリアの警護につけば良いではないか!」
「ふむ。それはいい案ですな。しかし、私には王の警護という任があります故……」
「俺の警護などいらぬ」というイグニスの言葉をハボリムはあえて無視した。イグニスは格式ばったことが嫌いだ。それどころか隙あらば宮殿を抜け出し、外に狩りに出かけたり、龍族の里にひょっこりと顔を出すだけならまだしも、霊峰セレスティアルピーク登山に出掛けたり、一度は人族の国に出かけハボリムたちの度肝を抜いた。
イグニスの破天荒さはハボリムだけでなくメイドたちの悩みの種でもあった。
王とは飾られるものにあらず。
象徴としてそこにあり、族のまとめ役としてそこに「在る」ということが大事なのだ。龍族は「国」を持たない。それぞれの龍種族ごとに勝手気ままに、精霊界物質界との中間といえるこの半霊界に住んでいるのだった。半霊界は無限ともいえる広さを有する世界。縄張りもなければ龍族間の争いもない。かつては種族同士での争いがあり、神界、魔界、人界にまで影響を与え世界を破滅寸前にまで陥れた原因ともなった。
その際に龍族をまとめ上げ王として君臨したのが今の王イグニスと王妃グレイシアだった。
それぞれの龍種族の族長は宮殿に住まい、王の補佐という立場でこの世界を管理している。
火炎龍王、イグニス・リアン・レクサーン。
水氷龍王、グレイシア・リアン・サーペント。
土岩龍族長、ハボリム・ガレイ。
風雷龍族長、エアリス・ソアラ。
緑樹龍族長、フローラ・ヴァイタル。
光輝龍族長、ルミナ・ソレイユ。
暗闇龍族長、ヴェルゴス・ネクロスペクター。
それぞれが龍種族の族長であり、この世界をまとめ上げる七つの柱であった。
「おお、いい考えがございますぞ。我が娘を護衛にいかがですかな?」
「お前の娘……名前はキシリアだったか」
「はい。そうでございます」
イグニスはしばらく考え込んだ。
「分かった。考えておこう」
「本当でございますな!」
「ああ、本当だ」
「絶対の絶対でございますな!」
ハボリムは鼻息も荒くイグニスに食い下がる。
何をそんなに息巻いているんだといぶかしんだイグニスだったが、ハボリムのあまりに真剣な表情を見てあきらめのため息をつく。一度言い出したら結果が出るまで決してあきらめない。
以前は命を賭して戦った宿敵同士――それが、ハボリムという龍だった。
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