7.遊星X015⑦

 ◆


 君はミラに軽口を叩きながら、適当な大きさに切り取った肉の塊を金属製の特殊容器に移していた。


 作業を始めてから何時間経過したのだろうか。


 ミラが休憩を提案する。


『作業を始めてから13時間が経過しています。ケージの体については理解していますが、それでも生身の部分がある以上、特殊な環境で無理をする事は推奨しません。休憩を提案します』


 君は紫色の肉の山が連なる不気味な光景に目をやりながら、「確かに……」と頷いた。


 根がミーハーに出来ている君である。珍しいモノが好きだというのは間違いないが、それでも眼前の光景を好きにはなれそうにもない。


「じゃあ、船で休憩しようかな。操縦席の座席はリクライニングできたはずだし」


 言うなり、浮かんでいるミラを抱えて船へと向かう君。


 しかし、数歩も歩かないうちに足元が微かに震えるのを感じた。


 あの水の惑星で感じた厭な予感と同種のものだった。


 君は直感的にこの場に留まってはいけないと感じ、急いで船へと駆け戻った。


 ◆


 君はその驚異的な脚力で数秒とたたずに船へと駆け戻り、背後を振り返る。


 すると先ほどまで自分が立っていた地面が大きく盛り上がっていることに気づいた。


「なんだ、ありゃあ……」そう君がつぶやく。


 ミラは君の疑問に答えず、『ケージ、すぐに船の中へ避難し、バリア・フィールドを展開してください。推奨は3秒以内です』と警告を発した。


 バリアフィールドとは簡単に言えば、特殊な力場を発生させて物理的な防御障壁を作り出す機能である。


 最も高価なバリアフィールドの中には小惑星の衝突すら防ぎ切るものもある。


 ただ君の乗船であるシルヴァーにはそこまで高級なものを積んではいない。


 とはいえないよりはましだ。


 君は大急ぎで操縦席へ駆け寄り、フィールドを起動した刹那。


 何かが膨れ上がり、破裂した。


 盛り上がった肉の地面がまるで火山の噴火口のような形状を取り、その先端から何かが噴き出したのだ。


 ・

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 どぎつい極彩色の何かが吹き上げている。


 さまざまな色が混じり合った液体の柱が宇宙空間へ飛び、散っていく。


「ミラ、あれは何だ?」


 君は尋ねた。


『わかりません。ただ、推測することはできます。宙空に飛び散った液体は飛沫となって付近を浮遊していますが、これを解析したところ、おそらくはこの遊星015と名付けられている生物の排泄物でしょう』


 君は顔をしかめた。


 血を浴びた事はあっても、糞を浴びたことはない君である。


 未知の経験を好む君である。


 そんな君であっても、糞を浴びたくはなかった。


「急いで逃げろと警告してくれたのは、やっぱり有害だからかい?」


 君はヘルメットを脱ぎ、煙草を咥えながら尋ねる。


『はい、ケージ。溶けて死にます』


 ミラの言葉に君は「そうかい」と疲れた様に頷き、極彩色の糞火ふんかを眺めつつ煙を吐き出した。

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