第2話 いざ異世界
「ハッ!」
突然意識がはっきりとした。と同時に目の前の情報量が凄い。
馬車を引っ張っているのは小型の二足歩行の竜種だろうか。屋台で売られているものには全く見覚えが無い。いや正確にはある。ゲーム内で売られていたものにそっくりだ。
さらに空を見上げると見たことの無い鳥……いやこれもゲーム内で見かけた記憶があるな。さらに太陽が二つある。
本当に俺は異世界へとやってきてしまったというのか?
「と、一応確認を……まあ、ね」
一応確認のためにVRゴーグルを確認してみたが顔の前には何も無い。本当にここは異世界なのだろう。
というか冷静に改めて考えてみると問題点だらけだ。まず元の世界の俺の体はどうなっている?
仮死状態とかになっていたら色々と迷惑をかけるな……。父さん母さんにだって挨拶もしてないんだが?
[お困りですか?]
「うわぁぁっ!?」
突然脳内に謎の声がしたせいで変な声をあげてしまった。
どうやら周りの人には聞かれていないようだ。セーフセーフ。
[私は勇者召喚の儀式魔法に内包されたナビゲーションシステムです。お困りのことがあればなんなりと]
「ああ、そういう……じゃあとりあえず状況を説明してくれますか?」
[了解。それと私に敬語は必要ありません]
感情の無い声でナビゲーションシステムさんはそう言う。ナビゲーションシステムって長いな。ナビさんとかで良いか。
いや敬語はいらないって言っていたしナビでも良いのかな?
とまあそんなどうでも良いことを考えている内にもナビは説明を始めていた。
[この世界は女神様からの説明でご存じだと思いますが、アーステイルという世界です。貴方がたの生活している宇宙から約128次元程離れた次元の宇宙に存在する惑星です]
「え、これSFなの?」
突然SFチックな話になって驚いた。平行世界とかいうあれかな?
一応そういうのも履修済みよ俺は。要は複数存在する世界線の中でも魔法が存在する世界ってことねここは。
[確かに貴方がたの世界で言うのならファンタジーよりも概念的にはSFに近いのかもしれません。ですがこの世界には確かに魔法が存在していますし、それを今の貴方は行使することが出来ます。]
そう言われてなんとなく体を覆っていた違和感に気付いた。
体が異常に軽く、かつなんかこう言い表せないエネルギッシュな何かが体の内側からふつふつと湧いてくるのだ。
きっとこれが魔力というやつなのだろう。
[さて、世界の説明はこれくらいにして貴方がたが召喚された目的について説明します。今この世界には闇の勢力と言う存在がおり、彼らはその規模を日に日に増しているのです。彼らは星のエネルギーを吸い取り続けており、そう遠くない内にこの星は枯れ果ててしまうでしょう]
「なるほど。それでそいつらをなんとするために俺たちが召喚されたって訳なのか」
しかしまあ、そんな星のイナゴみたいな大集団相手にたった9人でどうにかなるものなのか?
[貴方がた9人は儀式魔法の中で最強の力を持った、いわば選ばれし存在になったのです。その力があれば問題はありませんよ]
「それなら良いんだけど……あ、あとこれが一番大事なんだけど、元の世界の俺たちの体ってどうなってるの?」
そうだ今はこれが一番気になる。
[ご心配はありません。貴方がたの元の体は仮想魂によって普段通りの生活を行っています]
「それはつまり何の問題も無く、周りに気付かれることも無く、今まで通りに見えるってことか?」
[はい、そう言う事になります]
なるほど。周りから見ればいつも通りって訳か。ただ、それって結局は中身が限りなく本人な別人ってことだよな……。
[また、無事に闇の勢力を打ち倒した際には貴方がたの魂は元の時間に送り返されます。そうすれば貴方がた本人は至って何の変哲も無い日常に戻ることが出来るでしょう]
「ああ、あくまで仮の魂はそれまでの繋ぎって感じなのね」
時間が流れ続ける一本の線だとするなら、少なくとも動いてしまう分は仮の魂を入れておかないとそれこそ元の世界に問題が起こるんだろうなよくわからんけど。
いやまじで自分で何言っているかわからん。
と、とにかく、この世界を救ってしまえば元の世界に戻れるってのがわかればそれでひとまず安心だ。
……けどなぁ。
現実を理解した瞬間、途端に気分が落ち込んでいく。アーステイルがその儀式魔法ってので作られたものなら、当然この世界を救った後に元の世界に戻ったらそこにはもうアーステイルは無い。
そんな世界に戻る必要があるのだろうか……。
いや、とりあえず先の事は後で考えよう。今はとにかくこのアーステイルの世界を見て回ろうじゃ無いか。
あれだけやり込んだゲームの世界に転移だなんて、ゲーマーなら一度は夢見ることだしな。
……例外は十分ありそうだけど。
そんな訳でまずやってきたのは宿屋だ。
よくある異世界小説とかだと真っ先にギルドに行くが、それはナンセンスだな。まずは安全に寝泊まりが出来る場所を確保するのが鉄則だろ。
恐らく女神様パワーか何かのおかげで文字が読めるから、宿屋を見つけるのにはそう苦労はしなかった。
というか、そもそも俺って今この世界の金は持っているのか?
[ご安心を。貴方がた勇者はゲーム内のキャラクターデータがそのまま反映されていますので、お金や装備品なども問題は無いかと思われます]
「ああ、そうなのか……って、キャラそのまんま?」
そこでようやくもう一つの違和感に気付いた。
背丈と声だ。体が軽いのはステータス的なこともあるし魔力がどうたらってのも関係あるだろう。だが何より、俺の体は小さく軽かった。それに声も高いし可愛らしい。
ああそうだよ。俺のプレイヤーキャラは白髪貧乳低身長のロリキャラだよ。性癖モリモリで悪かったな。
この世界に来てから説明されっぱなしで確認する暇が無かった。だが今こうして体を見て見ると明らかに幼女のソレ。
頬を触れば柔らかいモチモチほっぺ。それに下を見れば小さくて可愛らしいおててがこんにちはしている。
と言うか今の俺スカート姿なんだけど!?
ああクソッ、通りでなんか下半身がスースーすると思ったよ……恥ずかしいし早く着替えたい。
格好も見た目も……このままだと色々と不味いよ。
[ステータスに異常は無いため戦闘能力に問題は無いかと]
「戦闘云々以前にな……いやいい。とにかく今はやることをやってしまおう」
そうだ。考えるのは後にしよう。今はいち早くセーフゾーンを作るべきだな。こんな見た目ならなおさら。
「おや可愛らしいお客さんだね。もしかして宿泊かい?」
「はい。ひとまず1週か……いや10日でお願いします」
太陽が二つあるんだ。1週間と言ったところで周期が違うかもしれないし、そもそも理解されないかもしれない。
それなら最初から日数で言った方が確実だろう。
……というか言葉は通じるんだな。まあ通じなかったら困るどころの騒ぎじゃ無いが。
一応文字は読めた訳だからなんらおかしくはないか。
「あいよ、それじゃあ銅貨20枚だ」
「なるほど銅貨……銅貨?」
銅貨がいくらなのかわからない。俺たちがゲーム内で使っていた貨幣は「カル」だ。1カルで銅貨何枚になるのかもわからな……あ、こういうときこそナビの力じゃ無いか?
[銅貨1枚は1カルです。なお所持している貨幣を取り出したい場合は取り出したい額を念じながら手を伸ばしてください]
なるほどそのままだな。まあその方が計算しやすくて助かる。
貨幣を取り出すには念じれば良いみたいだから、ナビに言われた通りに20カルを取り出そうとした。すると手は謎の空間に飲みこまれ、手を引き抜くと銅貨20枚を持っていた。
なんか凄い便利だ。
[ちなみに銅貨より上は銀貨が100カル。金貨が1万カル。大金貨が100万カルです。また銅貨より下には0.1カルにあたる小銅貨も存在しましたが、こちらは物価の上昇によりほとんど使われなくなりました]
……なるほど。つまり俺たちはゲーム内市場で武器を取引する時には10億カル、大金貨100枚を持ち歩いて……持ち歩けなくない?
いやそれはゲームの中だからってだけか。
というかそんな額の金を9人が持ち込んだらこの世界の貨幣価値が壊れそうなんだけど。
[そこは女神様パワーがなんとかしてくれます]
「えぇ……教科書にのっているみたいなとんでもないことに巻き込まれるのは御免だからな」
金が紙束になっているあの光景を生で見たくは無いし経験もしたくはない。
銀貨だったり金貨だったり、一応貨幣に金属としての価値があるのがせめてもの救いだろうか。
と、そんなことを考えている内に宿屋の女将が部屋の鍵をくれたのでさっそく部屋へ行ってみようじゃないか。
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