第37話 パンツ

 牧野先生の騒動により、小学校は二日間の休校となった。

「失礼しました」

 深々と頭を下げ、職員室を出る。休校一日目。俺は謝罪をするため、霧立小にやって来たのだ。ふう。これで本当に実習が終わった。

「一っ、あ! 蒼真先生!」

「ん?」

 振り向くとそこには芽衣の姿があった。なんで彼女がここにいるのだ。学校は休みのはずなのに。

「どうしたんだよ。こんなところで」

「う、うん。あのね、言いたいことがあって……」

 そういえば、実習初日にもこんなことがあったな。なんだかここ数日間の出来事が濃すぎて、だいぶ前の出来事の様に感じる。懐かしいな、あの頃が。

「なんだ、言いたいことって」

「パンツ……」

「パンツ?」

 え、もしかして俺の事を不審者呼ばわりする気か? 休みを返上してまで? せっかく苺花たちと名前で呼ばれる仲になったというのに。

「あのパンツ、私のなの!」

「え?」

 パンツって、もしかして廊下に落ちてた……。

「私が、水着着た時パンツ脱ぐの忘れちゃって。それで、トイレで脱いで教室に戻そうとしたら、どっかに落としちゃって……」

「……」

 芽衣は恥ずかしそうに人差し指をつんつんとさせながら事の経緯を話した。顔を真っ赤にしながら小さく俯いている。なんだ。それを言いに来たのか。わざわざ休みの日に学校に来てまで。

「直接言うのは恥ずかしいから……ほんとは誰かに伝言してもらおうって思ってたんだけど……」

 ああ。それであの時一哉に扮した俺に話しかけたのか。高校が一緒だから。

「でも今日蒼真先生学校来るって聞いたから……謝ろうと思って……」

「謝るってっ……」

「ごめんなさいっ!」

 さっき俺がしたみたいに、芽衣は勢いよく頭を下げる。やめてくれよ。こんな俺に謝るなんて。生徒たちに助けられたばっかりだっていうのに。

「パンツ落としたこと恥ずかしくて言えなくて。私のせいで変質者扱いされちゃって……」

 芽衣の声がどんどん小さくなっていく。こんなとこ、誰かに見られたらまるで俺が頭を下げさせているとでも思われるだろう。

「頭上げてくれよ。俺気にしてないから」

「でも、私がパンツを落とさなければ、蒼真先生はこんなことになってなかった。私のせいで、本当に……」

「大丈夫だって。芽衣は悪くない。それに……」

「それに?」

 俺はここ一年の事を振り返った。変質者扱いされ、高校を停学になったこと。小学校の寮の舎監を務めることになったこと。そこで出会った苺花たちと、ドタバタな毎日を過ごしたこと。全部、全部――

「俺、パンツを盗んだって勘違いされなかったら、こんな毎日送れてなかった」

「え?」

「そりゃ嫌な事もあったし、納得いかないこともあったけどさ……」


 変質者扱いされなかったら、この楽しい日常が訪れることはなかったんだ!


「……キモ」

「え?」

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