第10話 人生の中弛み
翌朝、討伐隊は魔窟の中に、士官学校は南下して翁児の生息地に向かった。
前と同じ手順で、背を向けて高さを指示して撃たせる。
叔母ちゃんは三匹目で出た。生息地迄の移動が短く、一日中やったので、十一人取れた。
全員誰だか判っている。座敷童はいない。
帰ると、隊長が銀塊と霊核百個を出す。
「また、頼まれてくれるか」
「半分ずつです」
「すまぬ」
やだって言ったらどうなるんだろう。
八丁作って渡す。ガンベルトはいらなかった。
翌日は、残業があるのが判っているので、少し早く帰って来た。
「あと、二個ありませんか」
「ある。幾つでも言ってくれ」
いや、二個でいいよ。
翌日は五十四個だった。ダンジョンの中から、銀も霊核もいくらでも出てくる。
士官学校は全員が心話玉を取れた。
「明日はどうします」
「残りの日数は、蹴殺鳥を獲りたいのですが」
「伸斬の玉は、まず出ないと、資料にはありましたが」
「玉が出ない代わりに、爪には比較的に入りやすいのです。教官と身内二本を取り、その後はこちらにやらせて貰えませんか」
「そんなに出るんでしょうか」
「見つけ難いだけで、二度に一度は出ると言われています」
強い魔物の中には、獲物を待ち伏せする為に、非常に上手く隠れられるのがいる。
しかし、獲物を獲ろうとすれば、殺気だけは隠しようがない。
翌日は士官学校組だけで、狂蹴鳥を二回り大きくした蹴殺鳥の生息地に行って、十二連射からの袈裟懸けで斬首。
横一文字だと太い処に当たるので。
やっぱり胴体が走って逃げる。
止まってから胸を開くと、いきなり伸斬玉が出てしまった。
叔母ちゃんが腕組みをしている。
「おめえ、前っから、こうだよな」
「目立つんで記憶に残りやすいだけ。これは、出た事にならなんじゃないか」
「その鳥の足で刀作りゃ、一緒だろ。次はあたしだ」
叔母ちゃんは二匹目の爪に入っていた。
一日やって、四本分獲れた。俺はやらせてもらえなかった。
帰ってから、拳銃作りの残業はやらされた。
余った鳥の足は、六級の技能入り武器作製の練習用に貰ったが、見本がないのでここでは作らない。
師匠にちゃんと教えてもらってから。
残りの日の蹴殺鳥狩りで、十八本の伸斬入りの爪が取れた。
帰る道に五十匹以上の狼の群れがいた。蹴殺鳥が減った所為か。
闘気弾の横殴りの豪雨を浴びて、ほぼ壊滅。僅かな生き残りも瞬殺されてしまった。
索敵が二つ出た。野干の索敵を持っていても、吸収すると範囲が広くなる。
二つとも討伐隊が取れて、増えた拳銃の威力に隊長はご機嫌である。
叔母ちゃんの心話力と、生まれてくる弟か妹、叔父か叔母の為に後四丁の銃なんて考えて引き受けたら、とんでもない結果になってしまった。
「五級がこんなに取れるとは思いませんでした」
「戦力さえあれば取れる」
「それにしては高いのではないでしょうか。最初の一丁は全財産はたく感じでした」
「ほぼ交易の車や船の燃料だ。ここに定期的に取りに来るのもその為だ」
「そうなんですね。今回は、銃にしてしまってよかったのですか」
「いや、必要な分は確保してある。今までは五日で予定量確保など出来なかった。拳銃のお陰だ」
「なぜある物を使わないのです。収納した感じでは、使って壊れるとは思えません」
「直せる者がいないので、万が一を考えてしまうのだろう。魔物の生息地では何が起きるか判らんからな。我が知る頃には、既に高位の文官の護身用だった」
帰ったら、師匠に蹴殺鳥の爪の扱いを習う。
「これ貰っちまったから、そんくれえはしねえと」
と言ってライトニングを叩いた。
上げた覚えはないが。
俺の後ろに回り、両手を背中に当てられた。
「持ってる爪を刀一本分、意識しろ」
爪と柄になる骨を意識すると、俺の気を使って師匠が曲刀にした。
「写さねえで、自分でやってみろ」
作られた曲刀を出し、物を複製するのではなく、同じやり方で爪を曲刀にする。
「一度で出来たか。これで獲った級ならどれでも武器に出来る」
「有難う御座いました。これは、秘伝の伝授じゃないですか」
「おめえが並みのもんより遥かに努力したからだ。俺の血筋でも自分のもんに出来ねえ。拳銃使って玉飲ましゃ、ましになるかもしれねえが」
二丁くらい上げちゃってもいいか、と言う気になってもう一丁上げた。
ガンベルトは自分で作って。
なぜか、王城警備府と言う縁のないお役所から付け届けを貰った。
なんだと言わずに、ただよしなにお願いいたします、と言われた。
貴族やお役所ならそれで判るんだろうけど。
権力側に知り合いがいないので、養成所長に聞いたら、次の魔窟討伐の相談ではないか、と言う。
国軍としか知らなかったが、魔窟討伐の担当が王城警備府だった。
銃製作の技能が生えるまでは複製を作るしかないので、悪くはないが、やるのが当然だと思われるのもいやだ。
魔窟討伐は二ヶ月に一回十日間、プラス行き帰り。
ちゃんと教官になっているので勝手に使われるはずはないと、所長が確認してくれて、来月正式に参加要請をする為の根回しなのが判った。
庶民には判らないので、止めて欲しい。
士官学校はどうするか聞いたら、翁児はいくらでも獲りたいそうだ。
養成所、王城警備府、士官学校で三者会談をした。
警備府からは、警備司令の秘書官頭と言う、事務次官級の人が来た。
王城警備府は、翁児の心配がないなら薬師を連れて行って採集もさせたい。
宝飾科は魔窟内で発掘をさせたい。それは俺も夕香にさせたい。
宝飾科主任教官が俺を見る。
「
「それ、翁児の縄張りにあるんですけど」
「持ってないの?」
「とっくに食べました」
大尉殿が乗り出してくる。
「定期討伐を待たずに、取りに行きましょうか。心話力取りだと言えば戦力は集まると思います」
「当方の余剰戦力を出しても良い」
「毎月魔窟は、なしにして下さい」
魔窟討伐は危険な貧乏くじだったのだけど、上位者は拳銃を貰えて、蹴殺鳥狩りが出来るので、希望者が増えたのだそうだ。
それ、俺が行く事前提じゃない。
発見物が多く、物も良くなる受福を授かった犬、富加姐さんには、銃職人が一緒だから、絶対紅袋を食べられると約束したようだ。
能力を見たいと、通常の森討伐に、胡麻柴の富加姐さんが参加した。
橡丸の群れ内での順位が下がる。
リス、ウズラ、ツタヘビ、キハダトカゲを見付ける俺に姐さんは納得し、果物とキノコがやたらに見付かった。
お互いの能力を確認し、お互いに行きたくない魔窟行きが決定する。
「どうしたの、あった頃のあんたはもっとがむしゃらだったよ」
夕香に言われた。
「先が見えてしまった感じなんだ。四級を自分で倒せなるようになるのは何年かかるか判らないが、出来ないとは思わない。行きつくのが判っているのに、時間が掛かるのがかったるい」
「何言ってるんだい?」
「贅沢と言うより傲慢な事なんだろうとは思うんだが、師匠から秘伝を授けられて、もう学ぶ必要がなくなったんだ。五級の魔物を倒すと五級の素材を加工出来る。これが出来るようになった、みたいな喜びがない」
「それは、ちょっと判るよ。あたしは出来る事が少しずつ増えてくのが嬉しい」
「そうだろ。職人としての張り合いがない」
「別の満足を見つけられないかい」
「武人なら、あれを倒せるようになりたい、ってのがあるか。霊核は獲り易いのから取れるが、技能はそうはいかない。そっちをやってみるか」
引率役の大尉殿に、獲れそうなものを相談した。
「空跳を取りませんか。五級の山羊がいます。拳銃の威力が際迄上がれば、獲れると思います」
中層にある谷に、塩を嘗めに来るそうだ。
後は近所では、飛べる鳥なのに、走った方が速いので空跳を持っている空走鳥がいる。
無理に戦う相手ではないが、銃なら鳥の方が相性がいいかもしれない。
どうするかは銃の威力が五級になってからにしましょうと言ったのに、打ち合わせに来た王城警備府に話してしまい、魔窟での野営を延長しても良いと言われてしまった。
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