リンクセッション

 ボクはギターを掻き鳴らした。今は誰にも届かない防音室で。

 ふと、テレビをつけた。丁度音楽番組をやっていた。

 初めて見るアーティストが演奏する直前だった。

 アイツが演奏を始める。

 聴いたとたんに鳥肌がたった。

「何だ!この音楽は!?」

 すぐに曲に吸い込まれた。

 ボクは曲に意識を集中させる。

 ソイツが歌い始める。

 そのとたん、頭をハンマーで叩かれたような衝撃が走った。

 最後まで聴くと、ボクは放心していた。

 それが、アイツとの出会いだった。


 放心していたボクは、MCの会話で我に帰った。強く自身の手で、自身の胸ぐらを掴んでいた。

 心にとても響き渡る曲だった。

 もう1度聴きたい。

 ボクは防音室から駆け出して、レコードショップに走るのだった。


 レコードショップに着いた。が、その後が大変だった。アーティストの名前や曲名を確認していなかったからだ。

 アイツとソイツのヴィジュアルを思い出しながら、ジャケットを片っ端から見ながらシングルを探した。

 骨は折れたがなんとか見つかった。

 アイツとソイツのCDを買い、気分は最高で家路に着いた。


 ボクは、アイツとソイツの音楽で、最高にハイってやつを経験した。

 聴く度に、その世界に入り込み、自分自身の体を抱き締めた。

「ああ、良い。最高だ」

 アイツとソイツの音楽は、ボクにとって愉悦。

 ボクは防音室でギターを掻き鳴らした。


 ボクは防音室でギターを掻き鳴らしながら、思った。

 この音楽、コピー演奏してみよう。


 コピー演奏しても最高だった。

 自分の演奏のことではない。

 アイツとソイツの音楽がだ。

 さらに、アイツとソイツの音楽にボクはのめりこんで行った。


 突然の活動休止。

 アイツとソイツが。

 寝耳に水だった。

「嘘だろ」

 ショックだった。

 ボクに最高の愉悦を提供してくれていたアイツとソイツ。

 それが活動を終わらせてしまう。

 脳内がバグった。

 どうしたらいい?

 これからのボクの愉悦を。

 ボクは、なにも手につかなくなってしまった。


 それから数ヶ月は、なにもできなかった。

 それほどまでに、ボクにとってアイツとソイツの存在は大きかった。


 活動休止発表から3ヶ月後、アイツとソイツは活動を本当に休止してしまった。

 絶望しかなかった。

 もう、アイツとソイツの曲が生では聴けないのだと思うと。

 だが、その1ヶ月後、朗報がやってくる。

 アイツがバンドを組むため、オーディションをやると言う情報が。


 ヴォーカルは決まっているが、演奏者がまだ決まっていないと言う。

 チャンスだと思った。

 アイツとソイツは活動休止してしまったが、アイツの音楽が再び聴ける。

 それだけではない。

 うまくすれば、その音楽にボクが入り込めるかもしれない。

 ボクは興奮した。

 ボクはそのオーディションを受けることにした。


 オーディションは混迷を極めていた。

 5人まで、演奏者は絞られたが、そこからが難航していた。

 そこで、アイツとセッションして決めると言うことになった。

 緊張はしたが、ただ、それだけだった。

 とても楽しかった。

 アイツと一緒に音楽に触れらて。

 すべてを出し切った。

 駄目だだったとしても後悔はない。

 後日、選考結果を待つのだった。


 選考の結果。

 採用だった。

 思わず、跳ね上がり喜んだ。

 アイツと一緒に音楽を奏でられる。

 こんなに嬉しいことはない。


 スリーピースバンド結成。

 ボクたちは、音速の如く、音楽シーンを駆け抜けて行った。


 しかし、ボクたちが生まれるのが早すぎた。

 コアな人気はあったものの、人気全体はそうでもなかったのだ。

 アイツは非常に悩んでいた。

 これから、どうすべきなのかを。

 だから、アイツに相談を持ちかけられて、背中を押すことにした。

「好きにしたらいい。俺たちは充分楽しんだ。途中から売り上げは散々だったけどな」

 ボクはアイツに想いを伝えることができなかった。

 だってアイツ中には、すでに決めた人いたから。

 ボクはソイツに勝てないなと思い、アイツの背中を押したのだった。

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