1-6/vsオオタ
041:支配者の帰還
「うわぁ~! 高ーい! すごい景色ですー!」
巨大なゴーレムの頭上から見下ろす山と森の光景にヴェルメリオが目を輝かせる。
「高いところは平気か?」
「はい! むしろ好きです。子供のころの夢は鳥になることでした」
「あはは、かわいいね」
「せ、先輩! 私の夢はケーキ屋さんになることでした!」
「そうなんだ。可愛いし似合ってるね」
「そ、そうですか? え、えへへ……」
俺たちはスーベル村を目指して下山しているところだ。
ヴェルメリオを助け出し、みんなのもとに返してあげるために。
「でも、本当に持ってきてしまってよかったのか?」
俺は祠から持ち出した美しい炎石を手にしている。
「はい。それはきっと、タナカさまが持つべきものだと思いますので」
「それは分からないけど、活用はできそうだと思う。けど、村にとっても大切なモノなんじゃないのか?」
ヴェルメリオは少しだけうつむいて考えるそぶりを見せた。
「そう考える人もいます。スーベル村は神の力に守られていると。でも、わたしはそうは思わないんです。まるで神様に支配されているみたいに感じていました」
「ヴェルメリオ……」
村の事、神の事、そして生贄にされる自分の運命。
ヴェルメリオはまだ幼いのに、いろいろと考えていたんだな。
「でも、神様の力は人の力なんておよばない領域……どうしようもないと、そう考えていました。なのにタナカさまはそんな神すらも倒してしまったのです。そんなタナカさまと出会えたおかげでわたしはわたしの考えに自信が持てました。だから、もうそれはこの村には必要ありません。わたしが必要ない村にしてみせます!」
「分かった。だったらこの石は俺たちが預かるよ」
「はい!」
シークレットオブジェクトなんて呼ばれているアイテムだ。
きっとこの世界を攻略するためのカギになる気がする。
「それで、その石が先輩の新しいゴーレムになったりするんですか?」
「それなんだけど……」
新しく使えるようになったスキルは『クリエイト・ゴーレム/ルビードラゴン』。
きっとこの『紅玉の宝石竜』を使うんだろう。
そう思って試してみたが……
――――――――――――――――――――
<タカシの『スキル:クリエイト・ゴーレム/ルビードラゴン』を発動します>
<タカシの『スキル:クリエイト・ゴーレム/ルビードラゴン』の発動準備を開始します>
<タカシの『スキル:クリエイト・ゴーレム/ルビードラゴン』は発動準備中です>
――――――――――――――――――――
こんなアナウンスになっただけで発動はできていなかった。
「うーん、時間がかかるってことでしょうか?」
「かなぁ? 俺も良く分からないんだけど」
「儀式系のスキルだと発動に時間がかかるって聞いたことありますけど」
「普通のゴーレムは一瞬で発動したんだけどな」
「もしかしたらそれだけすごいゴーレムが生成されるのかもしれないですね!」
ゴーレムがすでに無敗の強さなんだけど、ゲームバランス大丈夫か?
「まぁ、気長に待ってみるよ」
「そうですね。まずは村に戻って皆さんと話しましょう。その、神様を倒しちゃったこととか……」
「だよなぁ……」
そんな話をしながら、あっという間に山を下った。
村の周りの森を壊さないようにゴーレムを小型化し、あとは歩いて進む。
「もうすぐスーベル村です!」
森を抜けると見慣れた村の景色が目に入り……
「えっ!?」
村の中央に、異様なモノが出来上がっていた。
それは人間ピラミッドだ。
村人たちを四つん這いに座らせ、組み上げて作られた巨大なピラミッド。
「う、ううっ……」
村人たちの苦しそうな呻き声が聞こえる。
その頂点に、男がいた。
「んん? 戻ってきたか。思ったより早かったじゃねぇか。あんまり待たせるようなら、暇だからよぉ、村を華やかにしてやろうと思ってよ……1時間ごとに一人ずつぶっ殺して、飾り付けてやろうと思ってたところだぜ?」
小柄で、見たことある男だった。
同じ企業で働いていた男……つまり、俺たちと同じ世界から転移してきたプレイヤーだ。
異様な光景に、とっさにヴェルメリオを俺の背後に隠れさせる。
こんな光景は見せたくなかった。
「あっ……もしかして、オオタさん!?」
ヤマダも俺と同じなのだろう。
名前だけでは思い出せなかったが、顔を見た瞬間に思い出したのだ。
「おぉ、ヤマダちゃんじゃねぇか! 何やってんだよ、こんなド田舎でさぁ? って、お前は……あぁ、見覚えがあるぜ。徹夜組のカスか」
オオタとはあまり面識がなかったが、名前と顔くらいはお互いにしっている。
最悪な事に、相手は定時組だ。
かなり会いたくない存在である。
「俺も覚えがある。けど、話は後だ。その人たちを……」
「おっと動くな、そして口も開くんじゃねぇ。もし俺様の許可なくしゃべったら……一人ずつ自殺させる。殺し方くらい選ばせてやろうか?」
俺が一歩踏みだそうとしたところをオオタが制した。
オオタの事は村人たちから聞いている。
大鬼を操って村を支配していた男。
だとしたらオオタが言っていることは真実になる。
ピラミッドの周囲には溶岩で死んだハズの大鬼が何体も並んでいる。
オオタには村人たちに自殺を強制する事が可能……そんなスキルを持っているという事だ。
「あ。ヤマダちゃんは話してもいいぜ? でもスキルは使うなよ? この村と無関係ってワケじゃないんだろ?」
「わ、わかりました……」
ヤマダが困惑気味に俺にアイコンタクトを送ってくる。
どうすれば良いのか判断できないんだろう。
だが、村人たちをオモチャのように弄ぶオオタを絶対に許さないという意思がその瞳には燃えていた。
「そんでさぁ、ヤマダちゃんは俺たちと一緒に来いよ。こんな場所でコソコソ何やってたかしらねぇけど、街で楽しく遊ぼうぜ?」
「……だったらこの村の人たちを解放してください。そして二度と関わらないでください」
「んー、そりゃ無理だな。そもそもここは俺様の狩場だぜ? 後から来たのはヤマダちゃんたちだ」
「ですが、私たちが来たとこには誰もいませんでした! 狩場なんて……」
「支配済みだったからな、その支配を誰かが解きやがった……まぁ、そんなことはどうでも良いんだ。何度でも支配すれば良いだけだからさ」
「村の人たちはあなたたちのオモチャじゃありません!!」
「オモチャだろ? だって俺様たちにはそうやって遊べるだけの力があるんだからさぁ!!」
話して通じる相手じゃなさそうだ。
思考が根本から違いすぎる。
なんとかして村人たちを解放するしかない。
ヤマダが会話で気を引いてくれているうちに、なんとかしてゴーレムに指示を出さないと。
それもただ攻撃するだけじゃなく、オオタを不意打ちできるように……。
「まぁ、良い。ダルい交渉なんてする気はねぇんだよ。ヤマダちゃんが乗り気じゃないなら、俺様の力でその気にさせてやるよ! オーガ、その女を支配しろ!!」
オオタの命令に従うように巨大な鬼が仮面を外す。
――ビカッ!!
明かされた一つ目が怪しく光った。
「あっ!? か、体が……動かきません!?」
ヤマダが不自然な姿勢のまま固まる。
「ぎゃははっ! プレイヤー同士でもスキルの効果は発動する!! オーガ、そっちの男もだ! 支配しとけ!!」
ヤマダの次は俺の番だった。
――ビカッ!!
怪しく光る一つ目が俺を捉えた。
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