『何か』を失った俺達のリスタート〜やたら好感度が高い仲間達(知らない人)と、恋人を自称するヒロイン(知らない人)と、何も知らない俺〜

鴨山兄助

第一章

エピローグ:一つの終結と喪失

 二月の淡雪なのに、全く綺麗に見えない。

 地面に横たわる高杯たかつき来翔らいとの視界は、自身の流した血のフィルターがかかっていた。

 身体のあちこちに風穴が空いており、確実に生命が流れ出ている実感が襲いかかる。

 だが来翔はそんな事を気にしてはいなかった。

 桃色の髪の少女が、顔を涙でくしゃくしゃにさせながら、来翔の元に駆け寄ってきた。


「ライト!」


 少女が悲痛混じりの声で来翔の名前を呼んでくる。

 だからこそ来翔の胸が痛んだ。

 最も愛した少女を泣かせてしまった事が、どうしようもなく耐えられなかったのだ。

 もうほとんど力の入らない腕を上げ、来翔は少女の頬に手を添える。


「ごめん……やらかした」

「それはいいから! 早く病院に」

「ダメだ、アプリ使用中の致命傷だ……なら分かるだろ?」


 桃色の髪の少女は、その言葉聞くや顔を酷く青ざめさせる。

 来翔の言葉を理解はしたが受け入れたくない少女は、必死に首を横に振る。

 そんな彼らの元に、遅れて二人の仲間が駆けつけてきた。


「高杯ィ!」

「おい来翔、大丈夫なのか!?」


 長い黒髪の女子と、メガネをかけた男子が来翔の姿を見てしまう。

 明らかに致命傷を負っており、普通であれば絶対に助かりそうもない。

 だからこそ彼らは、ある別の未来を察して絶望した。


「来翔、お前……」

「安心しろ、相打ちだ……これでもう、大丈夫」

「お前が大丈夫じゃないだろう! 致命傷ってことは」

「そう、だな……代償がくる」


 来翔の言葉に、その場にいた者は皆悔しそうな表情浮かべる。

 だが来翔は、残り少ない時間であっても、そんな彼らに微笑みかけた。


「だから心配、すんなって……アプリの能力で、一回なら死亡回避できるんだからよ」

「だが高杯、アプリの身代わり機能が発動すればお前は」

「溜まってた代償を全部支払う。正直どうなるのか、俺にもわかりません」


 黒髪の女子の方へと向くや、来翔は彼女に一つのお願いをした。


桃香とうかさん、万が一の時は……」

「……っ! ユキの事は、確かに引き受けた」


 桃香と呼ばれた女子の返事を聞くと、来翔は心底安心した様子を見せた。

 だが一方で、まだ受け入れられていない者もいる。

 桃色の髪の少女、ユキである。


「ダメ、ダメだよライト……だってライトの代償って」

「……ごめんなユキ」


 涙を流すユキに、ただ謝るしかない来翔。

 そんな彼の視界に、小さな立体モニターが一つ出現した。

 

《ユーザーの生命反応に対する著しい低下を確認》

《スケープゴートシステムを起動します》

《システム起動まで、あと30秒》


 モニターに表示されたシステムメッセージを見て、来翔は改めて終わりを覚悟する。


「身代わり、発動したって」

「っ!?」

「ユキ、一つお願い、して、いいか?」


 ユキの頬に手を添えながら、酷く曖昧になっていく視界を耐えながら、来翔はそう語りかける。


「次も、何度でも、ユキの事……を」


 大切な言葉を遮るかのように、来翔の身体が脚から粒子状に消滅していく。

 ユキはそれを受け入れたくないと言わんばかりに、首を横に振る。

 だがもう、時間は残されていなかった。


「好きに――」


《スケープゴートシステムを起動。転送後『SaviorXセイヴァー・エックス』をアンインストールします》


 全ての言葉は、言い切れなかった。

 それよりも早く、来翔の身体は完全に消え去った。

 先程まで頬にあったはずの温もりが消え、ユキは現実を認識してしまう。

 瞬間、ユキはその場で悲しみの声を上げたが、もはや来翔には伝わらなかった。


 これは彼らにとって、1年に及ぶ事件が終結したエピローグ。

 だが同時に、彼らにとって最も大切なものを失った、最悪の結末でもあった。

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