第27話 馬刺し

「女心ってな、難しいなァ……」

「むずかしいねぇ……」


 飲んだくれている、武者髑髏。

 カウンター席で幼女魔王と並んで座ると親子感のある身長差だが、片方は骨で、骨じゃない方は武者髑髏より年上であった。


「女心ってな、難しいなァ……」

「なんもんだねぃ……」


 何かあったらしい、武者髑髏。

 来店してから駆け付け一杯、芋焼酎をカッとやってから、ずっとこれである。


「なに? おくさんとけんかした?」

「チョットな」

「ちょっとかぁ」


 ちょっとでこうはならないと思うが、所帯持ちにとってはちょっとで済むらしい。


「ふぁんとむ……むかしから、おこるとこわいもんねぇ」

「しかも忍者だからなァ。オレも良く結婚しようなんて思ったもんだぜ」


 武者髑髏の奥さんは、ファントム忍者である。

 せめて亡霊忍者であれば良かったのだが、ファントム忍者は強い。亡霊忍者の4倍くらい強い。俺も会った事があるが、綺麗で怖かった。


「かるくたべたら、はやくかえってあやまりな」

「チッ」

「むーしゃーどーくろー?」

「へいへい。ッたく、幼女ァ正論ばっかり言いやがる」


 飲んで食べて忘れたい所だろうが、それではなんにもならなかったりするものだ。

 幼女魔王は軽く食べ終われるツマミを、メニュー石板から選んだ。


「へい、おまち」


 という事で、馬刺しである。

 食感のしっかりした赤身と、口の中でとろっとする白身……タテガミという部位、盛り合わせ。おろし生姜も添えておいた。


「脈絡がなさすぎねェか」

「むしゃどくろがおごってくれるならいいかなって」

「奢らねェぞ、今月の小遣いピンチなんだ」


 などと言いながら、馬刺しをつまむ、武者髑髏。

 飲んだくれてはいるが、箸の使い方は綺麗である。

 綺麗な赤身でくるりと生姜を巻き、骨の口に運んでいく。


「……ン」


 ズッと焼酎を傾け、馬刺しの脂を流し込む、武者髑髏。


「悪かねェ」


 悪くなかったらしい。

 芋焼酎からあがる湯気が薄まる内に、盛られた馬刺しが消えていく。


「むしゃどくろー タテガミぜんぶちょーらい?」

「やらねェよバーカ」

「じょうしだぞわたしー?」

「上司が臣下に奢らせんなバーカ」


 知能指数が低下している、武者髑髏。

 箸を少しだけ行儀悪く彷徨わせ、おかわりするか少し迷う仕草を見せてから。


「……謝ってくらァ」


 ちびりと一口芋焼酎を飲んで、箸を置いた。


「えらい」


 えらい。

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