シリアルキラー
第12話 報告します
自宅でサツキは椅子の上に座りながらただただぼーっとしていた。ここのところずっとこの調子である。
まあ、それもそのはず。酒場での一件以来ボスについてのことは特に何の進展もなく、またやらかしてしまっただけだからだ。
ボスを知っていた人物をまたしてもうっかり殺してしまったのは大きな失敗であった。
もうどうすればいいのか分からない。
そんな途方に暮れているサツキは知らずというようにツツジはキッチンの方でご機嫌にラーメンを作っている途中だった。
「たららった、たったった〜」
作っていると言ってもインスタントだ。
沸騰した鍋の中に麺を放り込み、ぐるぐると雑にかき混ぜスープの素をそのまま入れ、一つの器に入れるとテーブルに運んだ。
「はーい!できましたよ先輩。先輩はお昼まだでしたよね?」
「え?あ、うん。美味しそうなラーメンだね」
麺はぐしゃぐしゃだがまずそうではない。
「ところで昨日の夜はなんだったか覚えてる?」
「え?蕎麦ですが」
「その前の日は?」
「素麺です」
「君の頭は麺でできてるの?麺がお友達なの?」
ツツジがきて以来ずっと麺類を食べさせられている。これは流石に体に悪いし何しろ飽きてきた。
「えー、でも出前とかとれるお金私ないんすよねぇ」
「お金ならあるよ」
サツキはサイフから五万円取り出すとテーブルの上に置いた。
「え!?ブルジョア!?」
「この前、集団で女の子を回そうとしてた奴らがいたから財布を貰った」
「奪ったの間違いじゃないすか?」
「そんなことないよ、カードまでくれたんだ。それにその日のうちに100万用意しろって言ったら一致団結して現金で渡してくれたよ」
「へえ、優しくて仲良しな人たちですね」
「あと俺の口座に毎月一人10万ずつ振り込めって言ってある」
どんな方法を使ったのか分からないがきっと力で反抗出来ないようにしたのであろう。
一応サツキは特バツの中でも実力はトップクラス。ただ根暗で悲観的なだけである。
「でも先輩。逃げたらどうするんすか」
「そいつら全員がマスかいてる動画撮ったから大丈夫」
「は?」
「住所とか家族構成とか個人情報も握ってあるから逃げれないようにしてる。場合によってはそれら個人情報と一緒に動画を特バツとして世間に公開する予定」
やっていることがチンピラのそれである。
「先輩、時々エグいことしますよね」
「すぐ殺す君よりは優しいと思うけど」
「私は頭に鉛玉ぶち込んで"ハイおしまい"ですけど先輩のはまともな生活が送れなくなるような生き地獄なんすよ。亀さんのタコさんウインナーとか強制カタツムリとか。あとあれヤバかったっすよスペシャル超リアルテディベア」
「ちょっと待て。それ本当に俺がやってたの?俺がそう名付けてた?」
「先輩意外とノリで変なこと言いますよ」
話をしながらツツジはタンスまで歩き、出前のためのメニュー表を探すため引き出しを漁り始めた。
「まあとりあえず出前とります?うどんですかね」
「だから麺はやめろって」
出前を取るには電話が必要だ。サツキはいつも携帯を置いているソファのサイドテーブルに向かった。
「あれ?携帯がない」
あるはずのものがそこには無かった。
「先輩これどうぞ」
ツツジはそう言ってあるものを渡してきた。
それはサツキが今まさに求めていた、探していたものだ。
「俺の携帯じゃん。なんで持ってんのさ」
「先輩の通話履歴とか気になって」
「はあ?」
マジかよこいつ、まるで束縛系彼氏のようだ。
「沢城さんからすごい来てましたよ」
「アホ!なんで早く渡さないんだよ!!」
履歴を開いてみるとそこには沢城の名前がずらりと並んでいた。
鬼電というやつなのだろうか。
「うわっ、、、。めっちゃ連絡来てんじゃん」
「これは怒られますねー」
「分かりきったこと言うなよ」
サツキは震える手で画面をタップし、沢城に向けてテレビ通話を開始した。
映し出された沢城は怒っているようには見えなかった。
だが何故だろうか。明らかにキレている何かを感じ取ることはできる。
「なんで今になってかけてきた」
沢城の後ろでは街中に煙が上がっており、死体があちこちに転がっていた。それを特バツが拾ってはゴミ袋に詰めている。
何があったか分からないがとりあえずかけてはいけない時だったのかもしれない。
「お忙しそうな中すみません、、、」
「そうだな。街を破壊していた自称環境活動家のテロリストどもを処分して死体処理に手こずっている最中に連絡してくる間抜けがこの世界のどこにいるんだろうな」
「あのその間抜けって、、、」
「答えを言って欲しいか?」
「いえ、遠慮しておきます」
沢城は表情一つ変えずに話すので一言一言がサツキを責めているかのように聞こえる。
根暗なサツキにはそれが本当に泣きそうになるくらい嫌いだ。
「で?何か成果はあったのか」
「それが、、、」
重要参考人を殺したとまた言わなければならないのか。いや、きっと怒られる。
サツキはなんと答えようか悩んだ。
成果が得られなかったとそのまま言ったらダメであろう。もっと頑張ったことは伝えておけば比較的優しく怒られるかもしれない。
こればかりはお調子者のツツジも悩んでいるだろうとサツキは思っていた。
「はい。ありました」
「えっ」
サツキは後輩の衝撃の答えに耳を疑った。
「よし、報告しろ」
「はい。調査を進めている中、加能という電気ショックを与える機械を身につけた男と戦闘になりました」
「電気を操る男か、、、。犯罪都市ラレイムスらしい戦闘スタイルだ。それでそいつはどうした」
「酒場での戦闘の末加能は敗北を認めたのか、自らアルコールを被り火をつけて焼死いたしました」
「自殺か」
「加能は先輩を殺せばボスに一億を貰えると言っていました。だけど負けてしまった。きっとボスに何かしらの罰を与えられる恐怖から自殺をしたのでしょう」
「なるほど」
「一番の成果はこちらです」
そう言うとツツジはポケットから彼女のものではない携帯電話を取り出し、通信履歴を開いてみせた。
「加能の携帯電話を手に入れました。通話履歴の1人にAという一文字だけの連絡先が」
「明らかに怪しいな。そいつを調べるのか」
「はい。すでにこの人物の居場所は捜査部に依頼し、特定いたしましたので次はそこへ向かいます」
「流石だな!お前に任せておいてよかった」
「いえ。先輩が主に調べました」
出来損ないのサツキに対するツツジの突然のフォローだ。
「そうなのか。サツキ、よくやった。調査がうまくなったじゃないか」
「え!?あ、はい!」
「その調子でいけばきっと戻れるぞ。応援しているからな」
「はい!!」
沢城に褒めてもらったのは何年ぶりだろうか。完全にツツジのおかげだがそんなことはどうでもいい。褒めてもらえたと言う事実が大事なのだ。
「ああ、あとそれから」
「はい!なんですか?」
サツキは元気よく返事をした。
「後輩に助けてもらうのは今回だけにしろ」
「え」
通信が切れた後の画面を見てサツキは震えた。
「怖い、、、」
「バレちゃってますね」
どうやら沢城はなんでもお見通しらしい。
「ていうか君!いつのまにそんなこと調べてたの!?」
「いえーい。先輩褒めて褒めて」と言って、ツツジはWピースをした。
「すごいけどさぁ。でも沢城さんに教える前に俺に教えてよ」
「だって教えても先輩覚えられないじゃないすか」
「それは俺が記憶力の乏しいバカだと?」
「そうとは言ってないすけど。まあ、そうなりますよね」
そう言うしかないでしょと言うように彼女は肩をすくめた。
「じゃあ私はちょっと外行ってきます」
「え、もしかしてもうAの場所に行くの?」
相変わらず行動の早い後輩である。
「先輩はラーメン食べててください」
「いや俺も、、、」
「行ってきまーす」
出て行ったツツジをサツキは追おうと思ったが、テーブルの上に置いてあるラーメンが彼を引き止めた。
「ラーメン伸びてないだろうなぁ」
まあほっといてもツツジなら大丈夫であろう。
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