Re in love
初めての書き出し小説風
第1話 空っぽ
久しぶりに聞いた"麻衣"の声。
その声は赤の他人に問いかけるようなものでもなく、好きな人に問いかけるようなものでもない。
でも怒りの声でもない・・・悲しみというか、寂しいというか、怯えているというか・・・
フッと吹いたら消えてなくなってしまいそうな声だった。
…
「・・・た、体調はどうです…か?」
「・・・正直あれからあまり変わらない・・です」
「・・そ・・そうですか。。」
「うん・・・」
「私は今あなたの洋服や必要なものを段ボールに詰めているところです」
「そうですか・・・ごめんなさい」
「来月の上旬が退去日なので・・・だからそれまでにやらないと、、」
「もう、水道も電気も今月末で解約しました」
「・・・色々任せてしまってごめんなさい」
「まだ他にも手続きしないといけない事があるので、その手続きは・・・お願いします」
「あなたの荷物はまとめてご実家のほうに・・・送りますから受け取ってください」
「・・・わかりました、、あっありがとうございます」
「業者に受け渡しが必要なものは、麻衣が東京にいる時と集荷日を確認して手配します、、ので」
「わかりました・・・ありがとうございます」
「・・・」
「・・・」
「…私から・・以上です」
「・・・色々ごめんね、、ありがとう」
ツーツーツー……
どれくらいぶりの会話だろう。
LINEのやり取りもほとんどいない。あっても業務的に必要なことくらい。
僕が実家のほうに来て8ヶ月。
麻衣と一緒に20歳で東京に出た。
それからいろんなことがあった・・・
年齢とともに仕事も忙しくなり実家に帰ることもほぼなく、ずっと一緒にやってきた13年。
麻衣だったからやってこれた。
麻衣のために仕事もお家のことも頑張れた。
麻衣も同じだったと思う。
喧嘩やすれ違い、付き合いが長ければもちろん色んな事が起きる。
それでもまた仲直りして一緒に頑張る。
結婚はしていない、子供もいない僕らだったけど、それでよかった。
そしてこれからもずっとこんな生活をしていくのだろうと思っていた。
「・・・麻衣」
実家に戻るなんて考えもしなかったし、また自分の家に戻ると思っていた。
でも、もう戻る場所はなくなってしまう。
「しょうがない。。。こと、、だけど・・・もう元には戻らない・・・」
ずっと頑張り過ぎて無理をしていたんだろう。
それは僕が長男だからなのか弱音を吐いたり、誰かに相談をすることはほとんどしてこなかった。
それは麻衣に対してもそう。
負担を掛けたくない、心配を掛けたくない、そんな1人よがりの気持ちがずっとあって気張っていた。
24時間眠らない街、空が狭い街、コンクリートジャングル、時間の流れが早い街・・・
田舎から東京に出るってそれくらい大変だった。
だけど、そんなのはずっと続けられるものでもない。
きっかけは色々あった、だから3年前からだんだんと自分の心や感情が壊れてしまったんだ。
そして、追い討ちをかけたのは一年半前の事。
麻衣から感染した流行病。
高熱や喉の痛みが続き、落ち着いたのは2週間後。
内科、呼吸器科、耳鼻科、専用の後遺症科など色んな病院をまわった。
そして色んな薬を処方された。
それから今に至る前に飲んだ薬はたぶん30種類はあるだろう。
でも、結局よくならなかった。
今も続く37.5°前後の微熱に、咳と呼吸しづらいのがすっと・・・
実家に来たのも、僕が体調も心も病んでしまって麻衣だけではどうしようもなくなったから。
その結果、入院もした色んな検査もした。
肺炎にもなった。
「・・・もうずっと僕の中で時間が止まってる」
「毎日薬を飲んで・・・強い薬の影響で味覚がおかしくなったり、不眠になったり、逆に寝過ぎてしまったりと・・・薬を飲んでは寝て、薬を飲んでは寝て・・・嫌になる」
「休職の届けをしている今、あれだけ頑張ってきた仕事もしていないからおかしくなりそう・・・なんの為にこんな日々を過ごしているのか・・・」
普通はパートナーの為に、麻衣の為に頑張って病気を治して元の生活をする!
とかが、活力になり闘病生活も乗り越えられるんだろうと思う。
麻衣はずっと東京で1人には少し大きい家で頑張ってくれているから…
お家のことは僕がほとんどやっていた。
だから慣れない家事、1人の生活、1人のご飯。
不安症を持つ麻衣にはキツイかったと思う。
だけど・・・
「・・・今はもう麻衣の為にって頑張れる気力も活力もでないんだ…..」
いつからだろう・・・麻衣の事を子供と接するようになってしまったのは。
いつからだろう・・・麻衣からお父さんみたいって言われてしまったのは。
そうなりたくもなかった。
そうしたくもなかった。
でも、そうしないと僕が保てなかった。
だから今、なんの為に生きているのか分からないんだ。
本当にこれまでの全てが空っぽになってしまったように・・・
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お読みくださいましてありがとうございます。
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