第173話エルマの旅の始まり
エルマが、転移したことで
一応の終結をみせた戦いだったが
これは、天使族にとって、最大のチャンスを逃したことになる。
その理由は、
マリスィへの報告にあった。
2人からの報告では、敵の正体は、魔王ベーゼとなっている。
だが、実際は、エンデであり、魔王ベーゼではない。
しかし、マリスィに、そのことを知る由もなく
2人の報告を信じて、行動したに過ぎない。
通信でしか、様子を知る事の出来ないマリスィは
この程度の攻撃では、魔王ベーゼに、傷を負わすことが出来ても
致命傷を与えることは不可能だと、分かっている。
もし、エンデの姿を、一目でも見ることが出来ていれば
魔王ベーゼではないことはわかっただろう。
しかし、それが出来ないからこそ、音だけで
タイミングを見計らい、エルマに転移をさせたのだ。
こうして、天使族にとって、最大の好機を逃してしまったのだが
エンデにとっては、全く逆で、九死に一生を得たこととなった。
天使族族長であるマリスィの攻撃を受け、
地面に横たわっているエンデが、頭だけを動かし、辺りを見ると
そこには、アンデット達の姿はなく
ただ、沢山の窪みがある
空き地が広がっているだけ。
その理由は、マリスィの魔力を含んだ、雷の雨を受け、
全てのアンデットが消滅していたからだった。
1人、生き残ったエンデが、地面に横たわっていると、
そこに、エブリン達が、駆け寄ってくる。
「エンデ!」
雷の雨を受け、体から煙を上げているエンデに
駆け寄るエブリン。
その後ろには、仲間達の姿もあった。
誰よりの先に、エンデのもとに辿り着いたエブリンが
エンデの横で膝をつく。
そして、生きていることがわかると、
安どの息を漏らし、声をかける。
「良かった。
死んだかと思ったわ」
その言葉に反応して、体から煙を上げているエンデが
笑みを浮かべた。
「お姉ちゃん、僕は、大丈夫だよ・・・・・」
強がりともとれる言葉に、
エブリンが、エンデの額を、軽く叩いて、言う。
「ばか・・・・・
強がりを、言うんじゃないのよ。
どう見たって、重症よ。
少し休んでいないさい」
「う、うん・・・・・」
エンデの頭を、膝の上に乗せ
エブリンが、髪を撫でていると
そこに、シャーロットが近づき、
回復の魔法をかける。
「少しは、効くかしら?」
「ええ、きっと効果はあるわ」
その言葉通り、エンデの傷が、癒されてゆく。
一方、
マリスィの力を借り、
戦場からの逃亡に成功したエルマは、森の中にいた。
四方八方、見渡す限り立派な木。
「ここは、何処でしょう・・・・・」
エルマは、探索しながら、山を下り始める。
しかし、1日経っても、山の中。
何の変化もない。
「迷ったのでしょうか・・・・・」
そう思いながらも、山を下っていくと
眼下に山道が見えた。
その山道には、馬車の通った跡もある。
「この道を進めば、人里に出られそうですね」
やっとの思いで辿り着いた山道。
しかし、どちらに進めば、早く街につけるのかは不明な為
足を止めて考える。
──どちらへ向かえば街に着くのでしょう・・・・・
こちらで、あっているのだろうか・・・・・
止まっていても、仕方がないので
エルマは、自身の感を信じて進み始めた。
それから暫くしての事。
エルマの背後から、馬車の音が聞こえた。
渡りに船とばかりに、エルマは道を塞ぎ、手を振ると
馬車が止まり、御者の男が、エルマに話しかける。
「おい、嬢ちゃん、こんな所で何をしているんだ?」
「旅をしていたのですが、盗賊に襲われかけて
逃げて来たのです。
そのせいで、荷物も何もかも失ってしまって・・・・・
厚かましいお願いですが、近くの街まで、乗せて頂けませんか?」
この世界ではよくある話だけに
疑われることはない。
それなのに、エルマの話を聞いた御者の男は
なにやら慌てた様子。
「そりゃ、大変だ!
いつここに来るかもわからねぇな。
嬢ちゃん、早く乗りな!」
「有難う御座います」
荷台に座り、馬車が動き始めると、
エルマは、安堵の表情を浮かべて
白銀の首飾りを取り出した。
──この首飾りに、あんな使い方があったなんて・・・・・
マリスィの用心深さに、感謝を告げながら
白銀の首飾りを眺めていると
突然、その首飾りが、ボロボロと砕け始めた。
「そんな!」
通信も不可能となったエルマだが
まだ、手立てはある。
──街に着いたら、直ぐに教会に行き、マリスィ様に連絡を・・・・・
そう決心するエルマだが、まだ不運は終わっていなかった。
鉄錆の匂いが、荷台に乗っているエルマの鼻を衝く。
「この匂い!」
思わず、辺りを見渡す。
すると、荷台の奥に、無造作に積まれた藁があることに
気付く。
そこに近づき、エルマは、そっと藁を捲った。
『!!!』
藁の下にあったのは、血の付いた衣類や荷物。
他に剣などの武器もある。
「これは!・・・・・」
思わず漏らしてしまった声が
御者を務める男の耳にも届いてしまう。
「お嬢ちゃん、何か言ったかい?」
「いえ、何も・・・」
慌てて、答えたエルマの態度に
怪しさを感じた御者の男が、
急に馬車を止めた。
そして、御者台に隠していた剣を手に取ると、
荷台へと向かい、到着した男が告げる。
「・・・・・・嬢ちゃんさぁ、余計な好奇心さえ起こさなければ
痛い目を見ずに済んだのになぁ」
「そういうことでしたか・・・・・
貴方は盗賊の一味なのですか!」
「今更、それを知ったところでどうなる?
もう、貴様の運命は、変わらないんだよ。
だが、黙って従えば、命までは取らねぇ。
まぁ、逆らえば容赦はしねがな!」
男は、ゆっくりと近づく。
男は、エルマを、ただの小娘だと、思っていた。
だから、語尾を強めて怒鳴れば、言う事を聞くと思っていたのだ。
だが、それは、直ぐに間違いだと気付かされた。
エルマは、向けられた剣先の部分を、指2本でつまんだ。
「えっ!?」
男は、エルマの突然の行動に驚きながらも、
剣を動かそうと、必死に振り回すが
ピクリともしない。
「お、おい、どうなってやがる・・・・・クソッ!」
両手で掴み、必死に抵抗する男。
だが、結果は、変わらない。
無駄に力を使い、疲れ切った男から
剣を奪い取ると、エルマが告げる。
「さて、今度は、私の番ですね」
男に、剣先を向けた。
『ヒィィィ!』
思わず。腰をつく。
エルマは、表情を変えずに問う。
「それで、私をどうするのですか?」
──これは、まずいぞ・・・・・
『盗賊のアジトに連れて行く』
などと答えたら、今、この場で殺され兼ねない。
男は、必死に懇願する。
「お許しください!
街でも、何処でも、お連れ致します。
なので、命だけは・・・・・・」
「何処でも?」
「はい」
「本当に?」
「はい、言っていただければ・・・・・なので、命だけは・・・・・」
懇願する男に、エルマが答える。
「では、一番近い街にお願いします」
その言葉に、男は、何度も頷き
御者台に戻ると、再び馬車を走らせた。
こうして、街に向けて、再び馬車が走り出すと、
エルマは、忘れていたかのように
男に問いかける。
「そう言えば、
貴方の名前を、聞いていませんでしたね」
「はい、あっしは【ジルフ】と申します」
「わかりました。
では、ジルフ。
当面は、貴方に馬車を引いてもらいます」
「・・・・・はい」
盗賊の荷物運びをしていたジルフは、
この時から、エルマの御者兼、使用人にされた。
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