第146話 貴族の思惑 動きだす者たち

足を止め、他の貴族達とも会談をしていたドミニクが、

会場の正面に立つと、皆が静まり返る。



「今日、ここに集まってくれた同志諸君。


 先ずは、私の呼びかけに応えてくれたことに感謝申し上げる」


一呼吸置いた後、ドミニクは、話を続けた。


「今、この街は、重大な局面に立っている。


 私は、神を信じない訳ではない。


神に祈りを捧げることは、私の生活の一部となっている程だが

 今日は、敢えて言わせていただく。


 教会は、権力に溺れすぎた。


 私利私欲に走り、民の生活など、かえりみることもない。


 それが、神を信仰する者の姿とは、私は、思えぬ。


 我らは、貴族。


 貴族とは、その地を守る者であると同時に、

 民を守り、民の上に立つ者の称号。


 今こそ、その責務を果たす時が来たのだ。


 我らが、先頭に立ち、この街の民を導く。


 そして、この街を我らの手に取り戻すのだ!」


ドミニクは、盛大な拍手に包まれた。


『ありがとう、ありがとう』と

笑みを浮かべながら手を振るドミニクが

静まるようにと、合図を送ると

再び、会場が静寂に包まれる。


そんな中、再び、ドミニクが口を開く。


「皆も知っていると思うが、今朝方、教会の関係者が何者かに殺された。


 先ずは、街の安定のために、その犯人を捕らえなければならない」


『ウンウン』と頷く貴族と商人達。


「そこでだ。


 我こそはと、思うものがいたら挙手を、お願いしたい」


この発言は、アイゼン達にとって渡りに船。


「私が、その任を果たそう」


名乗りを上げるアイゼン。


「おお、アイゼン殿!」


満面の笑みで、アイゼンを壇上に迎えたドミニクは

握手を交わすと、再び、皆に、顔を向けた。


「諸君、アイゼン殿の勇気と敬意に、盛大な拍手を!」


声援と拍手に迎えられたアイゼンは、手を上げて応える。


今後の事については、この件が終わってから動くことを皆に告げ、

この日は解散となった。


帰り際、残っていたドミニクに

アイゼンが、話しかける。


「ドミニク殿」


「どうかなさいましたか?」


「たいした事ではないのだが・・・・・」


そう口にした後、続ける。


「この度の犯人逮捕、いや、彼らの駆除に関してだが、

 やり方、人員など、全てを我々に任せていただきたい」


その言葉を聞き、笑みを浮かべるドミニク。


「勿論ですよ。


 先程、皆の前でも申しましたが

 指揮を執る貴方に、全てを、お任せいたします。


 ですが、何か必要なことがあれば、遠慮なく仰っていただきたい。


 我らは、同志なのですから」


ドミニクは、右手を差し出した。


「わかった。


 その時は、お願いしよう」


応えるように、アイゼンは、その手を強く握り返した。


「では、吉報をお待ちしておりますよ」


そう告げると、会場の外へと歩き始めるドミニクだが

アイゼンから、顔が見えないことをいいことに

満面の笑みを浮かべる。


全ては、ドミニクの作戦通り・・・・・


そんな事とは、露知らず、アイゼンは

仲間と共に、場所を変えて、今後の作戦を話し合うことにした。




応接室へと入ると、テーブルの上には

執事のタスクが集めた

エンデ達に関する資料が置かれていた。


腰を下ろした3人は、早速、資料に目を通す。


だが、資料を読み進めていくにつれ、言葉を失うアイゼン達。


驚きを隠せないのだ。


「ここに書かれているのは、本当なのか?」


「はい、

 信用のおける情報屋から得たものですので

 間違いは、ないかと」。


「ならば、ただの子供では、ないということか?」


「でしょうな。


 多少、誇大な所があるとしても、

 これが事実なら、手練れを揃えねば、なりませんな」



「ああ、その通りなのだが

 ただ、その子供の事を『悪魔』と記載しているが

 これは、どういうことなのだ?」

 

エルマールの言葉に、息をのむギルバード。


「そんな者を相手に、我々がどうやって・・・・」


嘆くように言葉を吐き出したギルバートに対して

目を通し終えた資料を、テーブルの上に投げおいたアイゼンが答える。


「落ち着くのだ。


 『悪魔』と記載されているが、それも、悪魔のような強さということだろう。


 だが、どんなに強かろうが、所詮は子供。


 真っ向から戦いを挑まず、ここを使えばよいだけの事ではないか」


側頭部を指先で『ポンポン』と叩き、

頭を使えばいいと示す。


「アイゼン殿には、何か秘策でも?」


「ああ、それはだな・・・・・」


アイゼンは、エンデの弱点と思える場所を狙うと告げた。


その弱点とは女。


エンデの仲間達の中で、

戦闘に不向きな格好をしているエブリンとシャーロットを人質に取り

罠に嵌めるというシンプルだが、一番効果的な作戦を口にした。


「狙いは、資料にもあるが、買い物に出かける時だ。


 この時だけは、バラバラに行動しているようだから

 攫うのならば、この時が一番いいだろう。

 

 タスク、人を雇って、この者達を監視させろ。


 よいか、決して奴らにばれるなよ」

 

「畏まりました」


タスクは、一礼をした後、

応接室から出て行った。





翌日から、タスクに雇われた者たちが、

エンデたちを監視を始めた。


しかも、後をつけるような真似をせず

所々で監視をするようにした。


尾行すれば、怪しまれる可能性が高い。


だが、日常に溶け込めば、彼らも気づくことはない。


タスクは、そう思っていた。


確かに、その方法ならば、

監視されていることに、気付きにくいのかもしれない。


だが、監視を増やせば、集まる視線も増える。


そんな事をすれば、

エンデよりも先に、我慢の限界に達してしまう者がいる事を

タスクは、知らなかった。



「なぁ、主。


 いつまで我慢すればいいんだ?

 俺はもう、我慢の限界だぜ。


 毎日毎日、本当に気持ち悪いぜ」


吐き捨てるように、エンデに抗議するダバン。


これが王都の屋敷だったら、深夜のうちに、勝手に狩っていただろう。


だが、この街に、来た時からのことを考えると

まだ、何者かが狙っていることは明白。


その者のことを探る為にも、放置していたのだが

日を追うごとに増える視線に、ダバンの我慢も、限界に達していた。


そんなダバンの様子に、エンデは、溜息を吐く。


「わかったよ。


 狩っていいよ。


 そのかわり、1人残らずだよ」


その言葉に、目を輝かすダバン。


「流石、主様。


 そのあたりは抜かりなくやるぜ」


ダバンの言葉に『任せたよ』と返したエンデだったが、

話を聞いていたマリウルとガリウスが口をはさむ。


「ちょっと待ってくれ、

 それは、ダバン殿1人でやるのか?」


ガリウスの質問に、『そうだ』とダバンが答えると

ガリウスたちも参戦すると言い出す。


「ここに来てから、剣の練習も、まともに出来ていないんだぞ。


 少しは、こちらにも回せよ」


そう言い放ったガリウスの目は、輝いている。


「私は、そこまで言うつもりはないのだが、出来れば仲間に加えていただきたい」


マリウルは、エンデから視線を離さない。


仕方なく、エンデは、ダバンを見る。


「わかったよ。


 それなら、場所を分けようぜ。


 これでいいだろ」


「ああ、感謝する」


「ありがてぇ」


こうして、2人の参戦も決まったのだが・・・・・


この後、ガリウスは、エンデに、お願いをする。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る