天魔の子。人族として、転生しました。

タロさ

第1話プロローグ~とある世界の出来事~

とある世界。


七大魔王の1柱【ベーゼ】と、天使族の【ノワール】は、恋に落ちる。


それは、誰にも語れない2人だけの秘密だったが

逢瀬を重ねている内に、ノワールは、ベーゼの子を身籠った。


ノワールのお腹は、日を追う毎に大きくなり、

誰の目にも妊娠している事が、明らかになる。



「ノワールが、妊娠したぞ」



「相手は?」



天使族の里は、ノワールの妊娠で、大騒ぎになるが、肝心の相手がわからない。


天使族の長【マリスィ】も、相手を聞こうと躍起になったが、

ノワールは、口を割らなかった。




しかし、ある時、ノワールの後をつけた【ドレール】に、

密会の現場を見つかってしまう。




「あれは、ベーゼ・・・・・」




ドレールは一足先に里に帰ると、直ぐに、その事実をマリスィに伝えた。



「ノワールの相手が、悪魔。


 しかも、魔王のベーゼだと・・・・・」



怒り狂うマリスィ。



「ノワールが戻って来たら、捕らえよ」



何も知らないノワールは、いつもと同じように里に戻って来る。


しかし、里に入った途端、バルキリー達に囲まれた。



「これは、どういう事ですか!」



焦ったように、問いかける。



「ノワール、貴様、悪魔の子を身籠ったようだな」



その一言に、驚きの表情をする。



──もう、わかってしまったのですね・・・・・



覚悟を決める。



「だから、どうなのですか!


 私は、あの方を愛しています」




堂々と、宣言する。


しかし・・・・・




「ふざけるな!


 天使が悪魔の子を身籠るなど、言語両断。


 許される事では無い!」




天使と悪魔は、不倶戴天の敵。


しかも、相手は魔王。


許される筈もなく、ノワールは、牢獄へと放り込まれた。




それから2日後、天使族の長マリスィは、

天使族と悪魔族の境界にある精霊界に赴いていた。


精霊界は、中立地帯。


ここでの戦闘は、禁じられている。


その為、本日、精霊女王と共に、悪魔族の代表代理と話し合いを行う。


議題は、ノワールとベーゼの件についてだ。


精霊女王が間を取り持つ事で、悪魔族は、呼びかけに応じているが

今回の内容は、聞かされていない。



悪魔族代表代理【バルバド】が席に着くと、マリスィは、声を荒げる。



「よくも、誑たぶらかしてくれたな」


バルバドを睨みつけるマリスィ。


何も聞かされていないバルバドは、冷静に問う。


「急に呼び出したと思ったら、何のことでしょう?」



「よくも、そんな口を・・・・・・

 貴様のところの魔王ベーゼが、我ら、天使族の娘を孕ませたのだ!」



バルバドの動きが止まる。



「それは、事実なのか?」



「呼び出して、嘘を伝えてどうなる。


 紛れもない事実だ。


 今すぐ、ここにヤツを連れて来い!」



バルバドは、口を噤んだまま、考えている。



──魔王が1人いなくなれば、私にも、チャンスが巡って来ますね・・・・・


好機と感じ、思わず、にやけそうになる顔を、必死で我慢する。



「おい・・・・・聞いているのか!?」



大声で怒鳴るマリスィ。



バルバドは、一息つくと、冷静に返答する。



「ええ、勿論ですよ。


 こちらの不始末は、こちらで片付けますので、お気になさらず」



バルバドの言葉に、マリスィは目を吊り上げる。



「奴をここに連れて来い!


 奴は、天使族で裁かせてもらう」


既に、冷静さを失いつつある天使族相手だが

バルバトに、焦りも、怯えた様子もない。



「この先の魔界に赴くつもりなら、どうぞ、止はしませんよ。


 ですが・・・・・」



バルバドは、笑みを浮かべる。



「魔界に足を踏み入れれば、命の保証は致しません」



そう言い放ったバルバドの目の奥は、笑っていない。



今は、不可侵を貫いているが

『足を踏み入れれば、敵対行為とみなす』とバルバドは告げているのだ。


暗に、戦争をすると、マリスィを脅している。



「クッ・・・・・」



──こいつ、本気だ・・・・・



1人の為に、大勢を犠牲にすることは出来ない。


二の足を踏むマリスィ。


その様子を見ているバルバドは

思わず、口角を上げて笑みを零す。



「では、こちらの事は、こちらで解決いたしますので」



椅子から立ち上がり、魔界に向けて歩き出す。



「お、おい、貴様・・・・・」




引き留めようと声を出すが、

バルバドは、聞こえていないふりをして、

マリスィを、その場に残したまま、魔界へと戻って行った。




その後、魔界に戻ったバルバドの行動は、早かった。



「さて、報告するか・・・・・」



この好機、どう使うかで、この先の事が決まる。



最初に、バルバドが向かったのは、

ベーゼと同じ、七大魔王の1人【アガレ】の屋敷。


バルバドは、大老アガレと面会を果たす。



そして、ベーゼが、天使族の娘を孕ませたことを伝えると

予想通り、アガレは憤慨した。



「な、何という事だ・・・・・魔王が、『禁忌』を破るとは・・・・・」



杖を握る手に、力が入る。


「ベーゼを捕らえよ!


 即刻、あ奴の屋敷に、兵士を向かわせろ!」


アガレは、ベーゼの屋敷に、兵士を向かわせた。


暫くすると、この件は、他の魔王たちの耳にも届く。




~魔王【ウァサ】の屋敷にて~


「それは、事実なのだな」


「はい、既にアガレ様の兵が、

 ベーゼ様の屋敷に向かったとの一報も届いております」



「そうか・・・・・」



ベーゼとは、仲の良かったウァサ。


それだけに、落胆の色は隠せない。



「他の魔王達の反応は?」



「既に、耳には入っていると思われますが、

 表立って動いている方は、おられません」




「本人の口から、事実が聞きたい。


 誰よりも早く、ベーゼを捕縛せよ!」



「はっ!」



遅れて動き出すウァサの軍勢。


それに、追従するように、

他の魔王達も、行動を起こした。


こうして、次々に魔王達が、行動を起こした為

この出来事は、魔界に住む者達の、知りうるところとなった。



そんな中、先陣を切って動き出していたアガレの軍は

既に、ベーゼの屋敷に到着しており、

屋敷を包囲し、突撃の合図を待っていた。


アガレの軍に、取り囲まれた屋敷の中、

ベーゼは、ノワールの件が、発覚したと悟り

逃走を謀る。



屋敷の地下にある、隠し扉を開け、

その中に入ると、そこから地下通路を通り、

少し離れた場所にある古びた一軒家へと辿り着く。



外の様子を窺うベーゼ。


屋敷の方角に見えるのは、多くの兵士達。



屋敷から脱出出来た事の安堵すると同時に

ノワールの事が、気にかかる。


──無事なら、良いのだが・・・・・


ノワールが、牢獄に閉じ込められていることを、ベーゼは知らない。


ベーゼは、小屋を抜け出すと、いつもの待ち合わせ場所へと向かった。



待ち合わせの場所に到着したベーゼは、

誰もいない事を確認し終えると、

物陰に隠れた。



しかし、いつもの待ち合わせの時間を過ぎても、

ノワールどころか、誰の気配すらしない。



──もしかして・・・・・



ベーゼは、天使族の里に乗り込む決心をし、

待ち合わせ場所を、後にする。


魔界を抜け、精霊界に忍び込むと、

アイテムボックスから、『インビシブルマント』を取り出し

身を隠した。


姿を消したベーゼは、一気に天界を目指す。


精霊界を無事に通り過ぎ、

バルキリー達が守る、天界の門に辿り着く。


争いを避ける為、見つかるわけにはいかない。


『インビシブルマント』、その効果は姿を消すだけ。


声や足音、そういうものは、筒抜けなのだ。


その為、十分に警戒して、慎重に進み、天界の門を抜けた。



ベーゼの目の間には、天使族の里。


──ノワールは、何処にいるんだ?・・・・・・


天使族の里は、上空からも監視をしている。


なので、天界の門を抜けたからと、気を抜く訳にはいかない。


ここは、天使族の里。


360度、敵しかいない。




そんな事は十分承知で、色々な建物へ侵入し、ノワールを探すベーゼ。


3番目に、忍び込んだのは、兵舎。



その兵舎の中には、会議室、応接室の他に、尋問室、拷問室、牢獄があった。


ベーゼが、そのうちの1つ、牢獄に辿り着くと、

その中に、ノワールの姿を発見する。



「ノワール!」



思わず声を上げてしまったが、

その声に、ノワールが顔を上げた。


「誰!?」


鉄格子の近くに寄って来たノワールに、ベーゼは、小声で話かける。



「ノワール、私だ、ベーゼだ」


「ベーゼ!」


「ああ、今開けるから、少し離れてくれ」


ノワールが離れた事を確認すると、魔法で鉄格子を曲げ、

牢獄の外へと誘う。



「さぁ、行こう」



ノワールをマントの中に隠したベーゼは、

見事に、牢獄から抜け出すことに成功した。



だが・・・・・


油断ではないが、不運とも呼べる事態が起こる。


ノワールが、バルキリー達の前で、小石を蹴ってしまい、音を立てたのだ。



「誰だ!」



バルキリー達が振り向く。


ここは、まだ兵舎の前。


見つかれば、戦闘は避けられない。




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